超入門! お城セミナー 第88回【歴史】城下町はどうやって敵から守られていたの?

お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回のテーマは、城下町を守る惣構(そうがまえ)について。行政や商業の中心地として発展していった近世城郭の城下町。その城下町は、合戦の際どのように守られていたのでしょうか。城下町ごと城を守る最強の防御装置・惣構の構造と合戦での効果を解説します!

 大坂城冬の陣、復元イラスト
大坂冬の陣を想定した復元イラスト(イラスト=香川元太郎)。淀川を天然の堀とし、三方を惣構堀が守る大坂城は、約20万の大軍すら寄せ付けなかった

巨大化する城下町を守るには…?

領主の居城や陣屋のまわりに造られた城下町は、この連載の第44回「城下町ってどんな街だったの? 」でお話したように、「防衛」「行政」「商業」という重要な役割を担っていました。家臣や領民が暮らし、円滑な領国経営にとってなくてはならない城下町は、城と同じように領主がしっかりと守っていかなければなりませんでした。石造りの近世城郭が誕生し、平地や丘の城が主流となるにともなって、城下町も大型化していきました。

城や国の顔となる城下町が繁栄するのは喜ばしいことですが、そうなると城下町自体を守るのが大変。従来は、天然の川や複雑な町割、外縁部に設けた寺町などが城下町の防衛を担っていましたが、それだけでは次第に手が回らなくなっていきました。そこで全国の多くの城下町に採用されたのが、「惣構」です。

惣構
惣構の構造(イラスト=香川元太郎)。城中枢部のみならず城下町までを惣構堀で囲み、敵の侵入を阻む。通常に比べて収容兵力が増える他、商店や田畑を城内に取り込むことで長期の籠城にも耐えることができる

惣構とは、城下町の外側に堀や土塁を築いて、町ごとぐるりと取り囲んだ防衛ラインのこと。大陸に位置するヨーロッパ諸国や中国などの多くの都市では、外敵の侵入を防ぐために街の周囲に城壁をめぐらせていましたが、日本の惣構は堀と土塁が基本。そして限定された城下町の出入口には、監視や守りのために櫓や門などが設けられました。東京にいくつかある「見附」が付く地名は、江戸城(東京都)の惣構である外濠沿いにあった門の名残。また金沢城(石川県)の城下町では、西外惣構の枡形の一部が復元されており、町なかに5mもの土塁がそびえています。

山形城、惣構
山形城の惣構。赤線で示したのが惣構堀だった外堀。山形城は、上・中級家臣の屋敷が並ぶ三の丸までを惣構(外堀)で守っていた(『正保城絵図』国立公文書館蔵)

天下人の大軍も破れなかった惣構

堀と土塁で囲っただけで防御になるの?と疑う人も多いかもしれませんが、その効力のほどは、歴史が証明しているのです! 

天下統一に王手をかけた豊臣秀吉が全国の諸将20万以上で小田原城(神奈川県)の北条氏を攻めた小田原城の戦い、そして同じく20万の大軍を率いた德川家康が大坂城(大阪府)の豊臣氏を攻めた大坂冬の陣。日本史の転換点となったこの2つの大きな戦いでは、結果的には大軍が勝利をおさめたものの、圧倒的な大軍で攻めたにもかかわらず、小田原城と大坂城の惣構は突破されていないのです。今のところ最古の惣構とされているのは、織田信長に突如反旗を翻した荒木村重の居城だった有岡城(兵庫県)ですが、惣構が効力を発揮したため、織田軍の総力をもってしても1年間も決着がつきませんでした。

ちなみに惣構の総延長距離ベスト3は…

1位 江戸城(東京都) 約1万5,000m

江戸城、惣構
テレビ局や高級ホテルなどが建ち並ぶ赤坂には、かつて江戸城の外郭を守っていた赤坂見附が残っている

2位 小田原城(神奈川県) 約9,000m

小田原城、惣構
小田原城の北東に残る蓮上院土塁。かつては土塁の外側に堀(渋取川)が流れていた。1945年の小田原空襲の際に直撃した爆弾跡も残る貴重な遺構だ

3位 豊臣期大坂城(大阪府) 約8,000m

大坂城、惣構
大坂城の西を守る東横堀川。大坂冬の陣後に埋め立てられたが、夏の陣が勃発すると掘り返された。現在は、川に覆い被さるように阪神高速の高架橋がかかっている

江戸城・大坂城は、なるほどさすがは天下人の城!ですが、小田原城の規模の大きさには驚くばかり。現在もかなりの範囲で良好に土塁が残っているので、一度は見ておきたい遺構ですね。

全国に残る惣構の遺構

三英傑も突破できなかった惣構。これを自分の城に採用しないテはありません。惣構を築くためには膨大な普請(土木工事)の手間がかかるので、誰もが採用できたわけではありませんが、全国の主な惣構の城をあげておきましょう。

姫路城、惣構
姫路城の惣構は、中堀と外堀の二重構えだった。現在は、中ノ門(写真)や埋門、車門など、堀に設けられた門跡が名残を伝えている

盛岡城(岩手県)、米沢城(山形県)、会津若松城(福島県)、水戸城(茨城県)、江戸城(東京都)、甲府城(山梨県)、小田原城(神奈川県)、清洲城(愛知県)、岐阜城(岐阜県)、金沢城(石川県)、彦根城(滋賀県)、伏見城(京都府)、丹波亀山城(京都府)、大和郡山城(奈良県)、大坂城(大阪府)、有岡城(兵庫県)、姫路城(兵庫県)、岡山城(岡山県)、広島城(広島県)、松江城(島根県)、萩城(山口県)、高知城(高知県)、福岡城(福岡県)、大分城(大分県)…などなど        

また京都に豊臣秀吉が築いた「御土居」も、聚楽第・御所を中心とした都とその市街地を囲んだ惣構の土塁です。

御土居、惣構
北野天満宮の北に位置する平野鳥居町の御土居。土塁の表面が整備され、形状や規模が分かりやすくなっている

都市化された城下町でも、意外に惣構の名残があちこちにあるものです。今後は城下町を訪れたら、まずは惣構の城かどうかをチェック。そしてぜひ、その防衛ラインをたどって歩いてみてください。城下町探訪の楽しみがグ〜ンと広がりますよ!


執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『図解でわかる 日本の名城』(ぴあ株式会社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。


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