超入門! お城セミナー 第29回【鑑賞】国宝天守5城ってどうやって選ばれたの? 国宝と重要文化財の違いって?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロからわかりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。江戸時代までに建てられ現在も残っている現存天守12城のうち、国宝の天守は5城だということをご存知ですか? 今回は国内に5基しか存在しない国宝天守がテーマ。国宝と重要文化財の違いとは? 旧国宝って何? といった意外と知らない文化財についてや、2015年に国宝となった松江城天守が国宝指定されるまでの秘話をご紹介。国宝5城、各天守の見どころも解説します!




国宝天守、姫路城、美術的価値、歴史的価値
美術的価値と歴史的価値が両立する国宝天守。その堂々たる姿は、訪れる度に新たな感動を私たちに与えてくれる(写真は姫路城)

全国に5基しかない国宝天守

江戸時代までに建てられて、現在まで残っている12基の現存天守。このうち、姫路城(兵庫県)・彦根城(滋賀県)・松本城(長野県)・松江城(島根県)・犬山城(愛知県)の5基が国宝に指定されています。この連載の現存天守の回(「現存天守はなぜ12城しか残っていないの?」)でも説明したように、残っていること自体がスゴイ現存天守。その中でどうしてこの5基だけが国宝で、他の7基が重要文化財なのでしょうか? その経緯や理由を探ってみましょう。

そもそも、国宝とは何でしょうか? 百科事典を引いてみると、「(国の)重要文化財のうち、特に優れたもの」(平凡社『百科事典マイペディア』より)などとあります。お城以外で現在国宝に指定されている建物は──中尊寺金色堂(岩手県)、日光東照宮本殿(栃木県)、東大寺大仏殿(奈良県)、法隆寺五重塔(同)、平等院鳳凰堂(京都府)出雲大社本殿(島根県)、嚴島神社本殿(広島県)、大浦天主堂(長崎県)などなど・・・。誰もが知っているそうそうたるラインナップですが、ざっと見たところこれらの価値はとても多様な感じがしますよね。

厳島神社、国宝建造物、飛鳥時代
国宝建造物を多数有する嚴島神社。創建は飛鳥時代にまで遡るとされる、非常に歴史的価値の高い神社だ

国宝や重要文化財といった規定は、優れた文化財を保護・活用するために設けられたもの。1929年公布の「国宝保存法」にともなって文化財指定されたのは、すべて「国宝」という名称でした。これらは現在、「旧国宝」と呼ばれています。この時、名古屋城(愛知県)や広島城(広島県)の天守、仙台城の大手門など24か所の城郭建築が「国宝(旧国宝)」に指定されていました。そして第二次世界大戦後、1950年に「文化財保護法」が公布され現在に至ります。「重要文化財」という規定はこの時生まれたもので、「旧国宝」はすべてが一旦「重要文化財」とされ、その「重要文化財」の中から特に優れたものが「国宝」に指定し直されたのです。この時すでに名古屋城、和歌山城(和歌山県)、岡山城(岡山県)、広島城などいくつかの天守は戦災や火災で焼失・倒壊しており、残った城の指定建造物は、現在までにすべてが「重要文化財」か「国宝」に指定されています。

広島城、天守、国宝、シンボル、復興、復元
旧国宝だった広島城天守は1945年の原爆投下で倒壊してしまう。戦後に鉄筋コンクリート造りで復元され、復興のシンボルとなった

同じ天守なのになぜ国宝と重要文化財の違いが生じるのか?

では、同じ現存天守なのにどうして「国宝」と「重要文化財」という違いがでたのでしょうか? 「国宝」指定される基準は大まかに、古さ・美しさ・歴史的価値が特に優れているものだと言われるようですが、この基準値は明確なわけではありません。2015年に「国宝」に指定された松江城の実例を見てみれば少しイメージがつかめるかもしれません。

松江城、天守、国宝指定
2015年に国宝となった松江城天守。国宝指定には地元の人々の協力が欠かせなかった

松江城天守は、面積が現存天守中2位、高さは3位を誇る堂々たる歴史的建造物。建築に手間と暇と費用がかかる望楼型天守であることにも価値があります。にもかかわらず、戦後「国宝」に指定されなかったのは、築造時期などを特定できる史料が乏しく、歴史的事実が判然としなかったためだとか。松江市は国に何度も「国宝」指定の陳情を行い、13万人近くの市民の署名も提出しましたが、決め手に欠けてなかなか道が開けません。戦前の調査時には存在した、天守の完成が慶長16年だと裏付ける2枚の祈祷札は、いつしか行方不明になっていました。そこで、懸賞金をかけてこの祈祷札探しに乗り出したところ、城の近くの神社で発見。天守の柱に当てはめてみると、釘穴や白い札の跡などがピタリと当てはまる2本が特定されました。これで築城年が確定し、さらなる調査で城の構造や部材の特徴から、中世から近世にむかう城の特徴を立証し、歴史的価値を証明したため、見事「国宝」指定に至ったのです。約60年越しの悲願の達成は、官民一体となったお城愛が原動力になったのでした。

これは、天守の特に優れた価値の裏付けに成功した実例ですが、一つとして同じ天守が存在しないように、天守のどこが優れた価値を持っているのかも、またそれぞれ。今後も新しい国宝天守が誕生するかもしれません。

ここに注目!国宝天守見どころガイド

最後に、現在の国宝5天守の特徴や見どころを簡単にご紹介。これを機会に、国宝天守の「特に優れた価値」を再確認しに行ってみませんか?

[姫路城](兵庫県)

姫路城、天守、白漆喰、連立式天守

気品ある白漆喰の外壁と破風(屋根)の構成が美しい「日本の美の象徴」「城郭建築の最高傑作」と称えられる世界遺産。高さ・面積日本一の大天守と3つの小天守を渡櫓で繋いだ連立式天守。井戸や厠など、内部の籠城仕様にも注目。


[彦根城](滋賀県)

彦根城、天守、破風、狭間、華頭窓
 
多彩な破風と細部のデザイン性が特徴の、「オシャレ天守ナンバーワン」。装飾性の高い華頭窓の多さにも注目。小ぶりなわりに破風が大きく大胆で、遠くからもよく見え威厳を示すにも有効。内部は隠し狭間が多数設けられた戦闘仕様。

▼彦根城に関する記事はこちら↓

[松本城](長野県)

松本城、天守、連結複合式天守、石落し、狭間、月見櫓
 
北アルプスに映えるモノトーンの美。下見板の黒と漆喰の白のバランスが絶妙で、唯一の連結複合式天守である複雑な構造も見もの。鉄砲による攻城戦を想定しているとみられ、石落しや狭間が多い。遊興用の月見櫓との対比も面白い。


[松江城](島根県)

松江城、天守、戦闘特化型天守、下見板張り、鉄砲狭間、
 
黒づくめの戦闘特化型天守。外壁はほとんど下見板張りで、見た目から硬派な印象。正面付櫓に侵入した敵を攻撃するための、石打棚や武者窓といった櫓内部に向けた攻撃設備や、燃えにくく軽い桐材の階段が個性的。無数の鉄砲狭間にも注目。



[犬山城](愛知県)

犬山城

コンパクトで小洒落た「ザ・天守閣」。木曾川沿いの小高い丘に建つ気品漂う望楼型天守は、全国の模擬天守が真似した普遍的デザイン。構造や仕様よりも、三英傑も重要視した要衝の景観を構成する立ち姿の美しさが、何よりも愛される理由。



執筆・写真/かみゆ
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。

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