現存12天守に登閣しよう 松江城|重要文化財から国宝に

歴史研究家の小和田泰経先生が、現存12天守を一城ずつ解説!今回は、関ヶ原の戦い後、徳川方と豊臣方の対立が続く状況のなか、実戦的に作られた松江城(島根県)について。


戦国時代の出雲は月山富田城が中心


飯梨川、月山富田城
飯梨川の対岸から望む月山富田城

江戸時代に出雲国(島根県)の中心あったのは松江城ですが、戦国時代にその地位にあったのは、月山富田城でした。月山富田城は、松江の東南2、30kmに位置し、民俗舞踊「どじょうすくい」で有名な安来にあります。この安来は、麓を流れる飯梨川の水運を利用して日本海に抜けることができました。城の名前は、富田城ともいい、麓からの高さが160mほどの月山に築かれているため、月山富田城の名で知られています。

戦国時代における出雲国の守護は、京極氏でした。京極氏は、もともとは近江国(滋賀県)の出身で、一族の尼子氏を出雲守護代として派遣するのですが、尼子経久の下剋上により京極氏は出雲国を失います。この尼子氏の本城となったのが、月山富田城でした。やがて尼子氏は、中国地方11カ国を支配する戦国大名となりますが、経久の孫晴久の代に安芸国(広島県)の毛利元就に圧迫され、晴久の子義久はついに月山富田城を包囲され、永禄9年(1566)、降伏開城しました。こののち、月山富田城は、毛利氏の属城となりますが、慶長5年(1600)の関ヶ原の戦いに破れた毛利氏は、出雲国を失い、月山富田城を明け渡します。

関ヶ原の戦い後、出雲国に入ったのは、堀尾吉晴とその子忠氏でした。豊臣政権三中老の一人として知られる堀尾吉晴は、関ヶ原の戦いの直前に負傷したため関ヶ原の戦いには参加していません。しかし、子の忠氏が徳川家康に従って功があり、遠江国(静岡県)浜松12万石から24万石に加増され、月山富田城に入ります。しかし、月山富田城は、守るには適していますが、城下の経営には不便でした。そこで、堀尾吉晴は、あえて月山富田城を廃城にすることを決めたのです。

松江城、天守
堀尾吉晴によって建てられた松江城天守

堀尾吉晴が、新たな城地として選んだのが松江です。松江は、宍道湖畔に位置し、麓からの高さが20mほどの丘陵に城は築かれました。

松江城が完成したのは、慶長16年(1611)のことでした。関ヶ原の戦いが終わっても、徳川方と豊臣方の対立が続いていたころのことです。いつ戦乱に巻き込まれるかわからないという状況のなか、松江城は、実戦的に作られています。天守は、付櫓が前面に張り出している複合式天守とよばれる形式になっており、付櫓を攻略しないと敵は天守に侵入することができません。付櫓の前面や天守の四隅などには石落としも設けられており、接近する敵を迎撃することができました。また、天守の地階には井戸も設けられており、最後まで天守に籠城する覚悟でいたこともわかります。

付櫓、石落とし、松江城
付櫓に設けられた石落とし

松江城を築いた堀尾氏は、忠氏の子忠晴に嗣子なく断絶し、その後、徳川家康の子結城秀康の流れをくむ松平氏が入城し、幕末を迎えています。明治維新後、松江城は陸軍省の管轄となり、すべての建物は払い下げのうえ、解体されることが決まりました。しかし、旧松江藩士らの尽力により、天守だけは解体を免れたのです。この天守は、昭和10年(1935)、国宝に指定されました。

松江城、天守地階、祈祷札、レプリカ
天守地階の通し柱に設置された祈祷札のレプリカ

しかし、戦後の昭和25年(1950)、文化財保護法による国宝指定の基準が変わったことで、松江城の天守は、国宝ではなく、重要文化財に指定されることになりました。天守が創建当時のものである確証がないというのが、その理由です。その後、松江市は幾度となく国宝指定への陳情を行いましたが、国宝指定にはなかなか至りません。

近年、「松江城を国宝にする市民の会」が設立されて資料探しが行われたところ、天守地階の通し柱に取り付けられていたとみられる祈祷札が見つかったのです。その祈祷札には「慶長十六暦」・「正月吉祥日」などの墨書がありました。これにより、松江城の天守が築城時に建てられたものであると証明されたわけです。こうして、平成27年(2015)、松江城の天守は65年ぶりに国宝指定をうけることになりました。


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小和田泰経(おわだやすつね)
静岡英和学院大学講師
歴史研究家
1972年生。國學院大學大学院 文学研究科博士課程後期退学。専門は日本中世史。

著書『家康と茶屋四郎次郎』(静岡新聞社、2007年)
  『戦国合戦史事典 存亡を懸けた戦国864の戦い』(新紀元社、2010年)
  『兵法 勝ち残るための戦略と戦術』(新紀元社、2011年)
  『別冊太陽 歴史ムック〈徹底的に歩く〉織田信長天下布武の足跡』(小和田哲男共著、平凡社、2012年)ほか多数。

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