2019/06/24
超入門! お城セミナー 第71回【鑑賞】石垣に石仏や墓石が使われているって本当!?
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。第71回は、石垣などに使われた変わった石材のお話です。城を訪れたとき、天守台などの石垣に五輪塔や石仏が使われているのを見たことがありませんか? これらの石材はどこからもって来たものなのか、またなぜ石垣に使われることになったのかを解説します。
福知山城天守台では、五輪塔の台座などから転用された石材が多数見つかっている
石垣に転用された石仏や石臼
無数の石材が使われている、近世城郭の見事な石垣。高さや長さはもちろん、石材の種類やその加工具合、積み方など、城によってそれぞれ個性があって見飽きませんよね。
今回は、そんな城の石垣の中でもちょっと特殊な風合いがある石垣……というより石材についてのお話です。石垣のある城で、「こちらの石垣には、転用石が多く見られます」というような説明を読んだり聞いたりしたことはないでしょうか。この転用石って、一体どんな石なのでしょうか? またなぜ、何のためにそういう石材が城の石垣に使われたのでしょうか? 早速探ってみましょう!
転用石とは字のごとく、本来は違う目的のために加工された石材だったものの、城の石垣に転用された石材のことです。城の石垣を構築する時は、基本的には近隣で採れる石を使います。ただし、徳川幕府の命令で築くような巨大な城の場合は、各地の大名が自国の石材を舟などで運ぶこともありました。ところが近場に石切場がなかったり、あっても産出量が少なかったり、また築城が急ぎの場合には、そこら中の使えそうな石をかき集めて城の石垣に組み込んだのです。
姫路城天守台には、「姥ヶ石(うばがいし)」という転用石がある。この石は、羽柴秀吉が姫路城を築城した際、石材が足りず困っていたところに老婆が石臼を提供し、感動した秀吉が天守台に据えたという逸話をもつ
よく見られるのは、石仏や石塔、石灯籠、墓石といったお寺や神社関係の石材。その他、石臼はまだいいとして、古墳の石棺が使われていることも。「なんてバチ当たりな!」と思いますが、その時点で祈りの対象とされていない石仏や墓石は武将たちにとって単なる石材の一つだったのです。ただし、石仏などには城を呪術的に守るという意味合いがあったという説もあります。また、目立つ場所に転用石が使われているのは、石材を提供した領民への感謝を示すためとも言われていますが、詳しいことは分かっていません。
全国の石垣から転用石を探してみよう!
転用石の中でおそらく最も有名なのは、大和郡山城(奈良県)の「さかさ地蔵」と呼ばれるお地蔵さんの転用石でしょう。天守台の石垣に、名前の通り逆さまに突っ込まれています。一部分ではなくそのままなので、供養の卒塔婆も立っていますし、訪れた人はみんな手を合わせていきます。他にもこの城には、古代の都らしく平城京羅城門の礎石だといわれるものや、梵字や模様が刻まれた石材などが、天守台に限らず堀の石垣などからも簡単に見つかります。奈良県内では他に、巨大な石垣の山城・高取城でたくさんの転用石が見られます。
大和郡山城の天守台。赤丸部分(左)をのぞいてみると……、石垣の隙間から逆さになったお地蔵さまを見ることができる(右)。天守台には他にも多数の転用石が用いられているので、訪れた際には探してみよう
福知山城(京都府)の天守台も大量の転用石が使われていて、ひと目でそれと分かります。銅門番所の脇には、調査時に出てきたものが、説明板付きで大量に積み上げられています。姫路城(兵庫県)の転用石もよく知られています。ここでは石棺の使用例が比較的多く、中でも備前門外側の角、長短の石が交互に積まれた算木積の中で、一番大きな石がその一例です。またその近くの明石城(兵庫県)にも、篠山城(同)にも、また荒木村重の居城だった有岡城(同)にも、ほんのわずか残っている当時の石垣の中に転用石が見られます。
左/姫路城備前門の赤色で示した石は古墳の石棺を転用した石材だ。右/矢印の部分からのぞくと、棺の形状を確認することができる
その他、彦根城(滋賀県)や安土城(同)、八幡山城(同)、和歌山城(和歌山県)でも見つけることができます。また熊本城(熊本県)では、熊本地震で崩れた石垣から観音様が刻まれた転用石が発見されて話題になっていました。
織田信長が築いた安土城では、大手道の石畳に石仏や五輪塔が使われている
このように、転用石の実例はたくさんあります。周囲と違う形や色をしていることが多く見つけやすいので、ぜひ隠れた転用石を発見してみて下さい。「かなり急いで築城したらしい」とか「なるほど、この近くは石材が少ないのか」など、築城時の事情に思いを馳せるのも一興ですね!
執筆・写真/かみゆ歴史編集部
ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。かみゆ歴史編集部として著書・制作物多数。