超入門! お城セミナー 第75回【鑑賞】お堀でタイやサメが泳いでいることがあるって本当?

お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。お城のお堀にはコイが飼われている…そんなイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。実はお堀にサメやタイなどが堀で泳いでいるお城もあるんです! 今回のテーマは、海に面して造られたお城「海城」について。また、「舟入」といった他の城では見られない縄張上の特徴や、どのような目的で造られた城なのかなどを解説します。


今治城
日本三大海城の一つ今治城。再建された天守からは瀬戸内海が一望できる

海に面し海上交通を掌握した「海城」

敵の侵入を効果的にはばんだ近世城郭の水堀。現代では水鳥が悠々と泳ぎ、きれいなコイが飼われている…そんな光景をよく見かけますよね。フナや外来魚が泳ぐお堀も多くあります。そんな水堀の中に、タイやフグ、小さなサメといった海水魚を見られる所があるのをご存じですか? 海水魚が泳いでいるということは、堀の水が海水だということですから…そう、城のそばにある海から、堀に直接水を引いているのです。このように、海に面した城のことを「海城(うみじろ)」といいます。今回は、海城のメリットや構造的な特徴などについてお話しします!

高松城の水堀
高松城の水堀。堀ではタイが泳いでおり、城内ではタイのエサやり体験もできる

まずはあらためて「海城」とは、城の一部が直接海に面し、堀に海水を引き込むなど、城内に海を取り込んだような構造になっている城のことです。川や湖・沼などもひっくるめて、水際に建つ城を「水城」といいますが、このうち海に接したものが「海城」と呼ばれています。

これは、平城・平山城・山城といった分類とはちょっと違う意味合いです。海城の中でも、日本三大海城と呼ばれる高松城(香川県)・今治城(愛媛県)・中津城(大分県)のように、平坦な土地に縄張された城は平城ですし、鳥羽城(三重県)・宇和島城(愛媛県)・平戸城(長崎県)などのように、小高い丘の上なら平山城、本丸までの比高が大きい場合は山城に分類されることもあります。また、萩城(山口県)や臼杵城(大分県)は、山城と平城が合体したような複雑な縄張の海城でした。

とはいえ現在では、堀に海水魚が泳いでいて説明にも海城とあるにも関わらず、海に接する面がなく、さらに海までそこそこの距離がある城が多くあります。これらは、以前は直接海に接していたけれど、埋め立てなどで土地が改変されてしまったものです。でも実は、水路によって今でも海と堀とがつながっていて、海水を直接引き込んでいるのだそうですよ。

赤穂城
赤穂城(図中の赤枠部分)は、かつて二の丸が瀬戸内海に面していた海城だが、現在は埋め立てにより城域が海から遠くなっている(国土地理院提供)

では、海城の役割やメリットについて考えてみましょう。そもそも城とは軍事施設であり、戦略上の重要拠点を抑えるために築城したもの。地上では、街道が交わる地点などには必ずと言っていいほど城がありましたが、中世・近世を通じて物資輸送の中心は、陸運ではなく水運…特に海を利用した海運でした。そう、海を抑えることは戦略上非常に重要だったのです。

そのため、物流の中心ルートであり、波が穏やかな瀬戸内海〜九州の沿岸には海城が多数築かれていました。また、海城は防御面でも大きな利点がありました。当時の兵力では海上を長期間封鎖することは困難であるため、籠城しても物資の搬入や逃走経路の確保がし易いというメリットがあるのです。

あの築城名人たちも海城を造っていた!

続いて海城の構造について見てみましょう。海城に必須だったのは、海水を引き込んだ水堀と、海に開いた水門、そして舟入(ふないり)と呼ばれる船着き場です。舟が海から直接城内に入ることができるので、物資の搬入や人の出入りがすこぶる便利。例えば高松城では、参勤交代に出かける藩主は「海の大手門」と呼ばれる水手御門(みずのてごもん/現存)から小舟で沖まで漕ぎ出し、停泊している御座船に乗り換えたそうです。

高松城の水手御門と月見櫓
高松城の水手御門と月見櫓。月見櫓の名前は、御座船の到着を見る「着き見」が由来という説もある

続いて、海城の築城を得意とした人物を挙げてみましょう。まずは、瀬戸内の村上水軍を掌握し、水軍の重要拠点だった三原城(広島県)や名島城(福岡県)を築城・改修した小早川隆景。次に、中津城を手がけた黒田官兵衛。官兵衛は高松城の縄張にも関わっています。そして、いつも築城名人として一番に名前が挙がるこの人、藤堂高虎。宇和島城や瀬戸内の水軍城の改修、海城の最高傑作ともいわれる今治城の築城は、この人の仕事です。

今治城内に立つ藤堂高虎の銅像
今治城内に立つ藤堂高虎の銅像。関ヶ原の戦いの戦功で伊予に20万石を拝領した高虎は、領地の発展性を考えて今治城を新築した

高松城や今治城の水堀には、チヌ・マダイ・フグをはじめ、ボラやスズキ、ヒラメ、ナマコなども泳いでいます(今治城には、堀で見られる魚の看板まで!)。実に美味しそうなラインナップではありませんか。海城はなんといっても地理・地形や舟入など、特徴のある遺構をしっかり鑑賞したいものですが、アフターには絶品の魚介類も堪能できるのです。今回は西日本の城を中心に紹介しましたが、東日本では後北条氏の水軍拠点だった伊豆長浜城や下田城(ともに静岡県)といった海城も見られます。次の休日は、魚介グルメも楽しめる海城めぐりに出てみませんか?

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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。かみゆ歴史編集部として著書・制作物多数。

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