超入門! お城セミナー 第126回【鑑賞】山城の危険のひとつ、熊に出会ってしまったらどうすればいいの?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロからわかりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。山城歩きにはいくつかの注意点がありますが、中でも最大のキケンが熊との遭遇です。被害を避けるためには、どのような行動をすればよいのでしょうか。

一乗谷山城、熊出没注意
一乗谷山城(福井県)の登山道入り口に掲げられた「熊出没注意」の看板。「出会ったらどうしよう」ではなく、「出会わない」注意が大切

山城ではどんな危険が待っている?

待ちに待ったお城の季節がやってきました! 「久しぶりのお城、思う存分楽しむぞ〜!」と逸る気持ちに水を差すつもりは毛頭ありませんが、もしも山城に行く場合は、これからの季節は危険もつきものですので、しっかりとした心構えと対策が大切ですよ。特に夏場の山はヤブ蚊やヒルが待ち構えていますし、ヘビなど野生動物に遭遇する可能性が高い。だから暑くても長袖・長ズボンを着て、万全の準備で行くことにしましょう。

岩櫃城、ニホンカモシカ
岩櫃城(群馬県)で遭遇したニホンカモシカ。彼らの縄張にお邪魔しているという意識で歩こう

長野城、マムシ
長野城(福岡県)登城口に立てられたマムシ注意の看板。こうした看板には緊急連絡先が載っている場合があるので、必ずメモするか撮影しておくようにしよう

そうした野生動物の中でも、最も危険度が高いのが“熊”。我ら人間よりも大きいことがありますし、襲われたら重傷・致命傷を受けることも。熊は冬眠することが知られていますが、だいたい4月ぐらいに冬眠から目覚め、12月ぐらいまで活動します。ちょうどハイキングシーズンとかぶるんですね。山城で熊に遭遇したという事案は、毎年全国で報告されています。

「敵を知り、己を知れば、百戦戦っても負けることはない」という孫子の教えに習って、まずは熊について最低限の知識を得ましょう。まず、一口に“熊”と言っても、日本には本州・四国に生息するツキノワグマと、北海道だけに生息するヒグマの2種類がいます。体がデカいのはヒグマのほうで、ヒグマは体長が220〜230cm、体重が150〜250kgなのに対して、ツキノワグマは110〜150cm、80〜120kgほど。こんな大きな図体なのに、走ると時速40kmと人間より早く、また大きな歯とするどいツメを持っています。1対1の対決では、人間にまず勝ち目はありません。

ツキノワグマ
胸の斑文が特徴的なツキノワグマ。鋭いツメは木登りや穴掘りのため。図体は大きいのに敏捷で足も速い

そして何より肝心なのは、2種類とも雑食であり、主食はどんぐり類であるということ(ハチミツも大好き)。たまに勘違いしている人がいますが、熊は肉食ではありません! その性格も(個体差はあるでしょうが)、概して攻撃的ではなく、臆病で警戒心が強い動物です。

それではなんで人を襲うかというと、突然現れた人間にビビってしまい、手を出してしまうというのが真相です。後ろからクラクションを鳴らされて、パッと振り向くのと似たようなもので、ようは突発的な防衛本能なわけです。熊にしてみたら、「わっ、人間だ! 怖い」、または「我が子を守らなくちゃ」と、とっさに手が出てしまうというわけ。

向こうに襲うつもりがないのであれば、熊に出会わないようにこちら側が気をつけるのがエチケットというもの。そこで登場するのが「熊鈴」です。チリンチリンと音を出して、「ここに人がいますよ」と熊に知らせてあげるのです。プーさんでもない限り、「ハチミツもらえるかな!?」とノコノコ出てくる熊はいません。熊鈴を持っていなくても、スマホや携帯ラジオから音声を流すとか、しゃべりながらでも同じ効果があります。ただし、山城に行ってぶつぶつと一人しゃべり続けて歩くのは、熊ではなく同じ人類から危険視されてしまうので、それはそれで気をつけましょう。

熊鈴
山城歩きに限らず、トレッキングの必須アイテムである熊鈴。リュックにとりつけて歩くようにしよう。最近ではストッパーがついていて、未使用時は鳴らないものも多い

死んだふりはNG!? とにかく冷静に慌てずに…

熊には出会わないことが一番と言いましたが、出会い頭の事故というのはあります。いざ、熊と会ってしまったらどうしたらよいでしょうか。

まず、熊を見つけても向こうがこちらに気づいていない場合。その場合は、急がず慌てず、落ち着いてその場から離れましょう。間違っても声を上げたり、背を向けてダッシュしたり、バタバタと物音を立てないこと。わざわざこちらの存在を熊に知らせ、驚かせることになってしまいます。熊は動くものはすぐ見つけられるけど、じっと動かない物体の識別は苦手という特性もあるようです。熊を発見して写真を撮りたくなる気持ちもわかりますが、シャッター音やフラッシュで気づかれる可能性が高まるので、自分の身を守る行動をとりましょうね。

次に熊がこちらの存在に気づいている場合。その場合も落ち着いて、ゆっくり後退しましょう。この時も熊を見たまま後ずさりするのがポイントで、背中を見せちゃダメ。熊がこちらに突進する素振りを見せても、距離があればそれは威嚇行動であることが多いのですが、ここで背中を見せてしまうと追いかけられる可能性が高まります。熊が近づいてきた場合は、ストックや長い棒を振り回す、または手を広げて自分を大きく見せるような威嚇は有効です。熊を目の前にして冷静になれというのは無理があるかもしれませんが、とにかく落ち着いて、相手と距離を保つようにしましょう。

よく、「熊に出会ったら死んだふりしろ」なんて言われますが、今では推奨されていません。熊の中には動物や魚の死肉を食する個体もいるようで、死んだふりによって逆に関心を引いてしまうことになりかねないからです。ただし、熊を目の前にして顔や首への致命傷を避けるために、うつ伏せに寝転ぶのは有効のようです。両腕で頭や首回りを守り、必死で耐えるようにしましょう。

といった説明をしてきましたが、じゃあ著者がいざ熊を目の前にしてそんな冷静なリアクションをとれるかというと、まったく自信がありません。やはり、出会わない努力が大切ですね。繰り返しになりますが、熊鈴をつける、スマホやラジオから音を発する、複数人で行動しておしゃべりをするなど、熊にこちらの存在を知らせるようにしましょう。彼らのテリトリーにお邪魔していているのは、我々人間側なんですから。

最後に、城跡やハイキングコースで食事をして、食べ残しや生ゴミを含むゴミを放置して帰った場合、それを食べた熊が美味しい味を覚えてしまい、それが人を襲うきっかけになることもあるそうです。悪い意味で、熊の胃袋をつかんでしまうわけですね。人間由来の食事の味を知ったことで、人里に降りて民家などに立ち入る熊も発生してしまいます。ゴミはきちんと持ち帰り、マナーを守った山城歩きを楽しみましょう。

小谷山城
地元の人に聞くと、山城登山者が増えたことで熊が慣れてしまい、登山道に出没するようになったというケースも最近は増えているとのこと。写真は「熊出没中」と注意喚起する小谷山城(福島県)

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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』(ワン・パブリッシング)、『日本の山城を歩く』(山川出版社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『決定版 日本の城』(新星出版社)、『廃城をゆくベスト100城』『あやしい天守閣ベスト100城+α』『ざんねんなお城図鑑』(すべてイカロス出版)など。

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