2022/03/07
超入門! お城セミナー 第124回【鑑賞】お城の外だけじゃなく中でも家紋が見られる?
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回はお城と家紋の関係を紹介します。日本人のほとんどが持っている家紋。実はお城の中でも見られるんですよ。城内を注意深く観察して、あちこちに隠れている家紋を探してみましょう!
戦国時代に活躍した武将たちの家紋。①〜⑧の家紋は何という名前で誰が使っていたか分かるかな?
※答えは記事の最後に記載
城内で家紋を見たいなら「瓦」に注目!
家系や身分を表す家紋。現在では身近で見られるのはお墓くらいですが、史跡や日本史の書籍ではおなじみですよね。武将グッズにもよく使用されているので、“推し”武将の家紋グッズを買ったことがある人も多いのではないでしょうか。最近は独特のデザインが注目され、外国人からの人気も高まっているようです。
そんな家紋、じつは城でたくさん見られるって知っていましたか? 例えば、御殿などの建物内。城主が使用した調度品や部屋の中の建具などの装飾に使われていることがあります。見落としやすいので注意深く探してみましょう。
復元された名古屋城の本丸御殿。釘隠しの金具(左)をよ〜く見てみると(右)、徳川家の三つ葉葵が彫られていることが分かる
この他、家紋をもっとも見つけやすいのは「瓦」の部分です。建物のてっぺんに鬼瓦のようにはめられている家紋瓦もありますが、城の建物はとにかく高さがあるので、肉眼ではなかなか確認しづらいことも。それに比べて、土塀や建物の軒にズラ〜ッと並んだ「軒丸瓦(のきまるがわら)」にあしらわれている家紋ならバッチリ見えます。軒丸瓦は使われている箇所が多いので、織田・豊臣関連の金箔瓦や、徳川関連の三つ葉葵の瓦など、近年続々と発掘されています。
宇喜多秀家の居城・岡山城も瓦に桐紋が使われていたという。秀家は豊臣秀吉の猶子(相続を目的としない養子)としてかわいがられ、五大老まで上りつめた豊臣政権の有力大名である
軒丸瓦には、水を表すため火除けのまじないになっているという「三つ巴(みつどもえ)」の紋が入ったものも多いですが、城主の家紋が入っている城もたくさんあります。また、豊臣秀吉が許可制にしていた桐紋だったり(秀吉と無関係の桐紋もあり)、江戸幕府の重要な城だったために葵紋が使われているなど、家紋が入った「紋瓦」から、当時の為政者とその城との関わりが浮かび上がるという楽しみ方も。
現在城内で見られる家紋入りの紋瓦は、城や使われている箇所によって現存遺構のものも復元したものもありますが、おもしろいのは、御城印と同じく城主が頻繁に交替した城の場合、一つの城の中で複数のデザインの紋瓦が見られることです。これは、築城・改修時などにその時の城主の瓦を葺いたからです。
分かりやすい例が姫路城(兵庫県)です。城内には膨大な数の軒丸瓦がありますが、ほとんどに城主の紋が入っていて、10種類ほどの家紋が見られます。これが、その建物がどの城主の時代に建てられたか、または修理されたかという見当をつける時に参考になるのだとか。天守や門の瓦をチェックするのもいいのですが、千姫とその侍女たちが使っていたという西の丸の、細長〜い長局(ながつぼね)から化粧櫓までをゆっくり歩いてみてください。複数の軒丸瓦と、その説明・展示が見られます。
姫路城瓦コレクション①:大手を守る菱の門には格調の高い桐紋があしらわれている
姫路城瓦コレクション②:二の丸と上山里をつなぐぬの門。城を大改修した池田氏の揚羽蝶紋が瓦に使われている
姫路城瓦コレクション③:西の丸に建つヌの櫓には、西の丸を増築した本多氏の立葵紋の瓦が使用されている
姫路城瓦コレクション④:二の丸から天守方面に抜ける道を守るろの門の付近にある塀。徳川四天王・榊原康政の孫である忠次の源氏車紋が使われている
御城印やお城グッズでも家紋が楽しめる!
このように、家紋を探しながら城内を歩くのも楽しいものですが、最近は「御城印」の登場で、より家紋を目にする機会が増えています。城を訪れた時の記念品として、ここ数年ですっかり定着した御城印には、必ずといっていいほど家紋が取り入れられています。神社でいただく「御朱印」に押されているものは「神紋」といいますが、これは、その神社や御祭神にゆかりの物や神職の家の紋、また神社を支えた有力者の紋だったりします。では、御城印に押されている家紋はというと……そうです、城内の紋瓦と同じく、城主をつとめた殿様の家の紋なのです。
とはいえ、政情によって頻繁に城主が交替した城もたくさんあります。この場合、1枚の御城印の中にズラッと家紋が並ぶことになります。主要な城主の家紋だけを採用している御城印もありますが、二つや三つは当たり前で、多ければ会津若松城(福島県)や高田城(新潟県)のように、八つもの家紋が押されているものも。
最近人気の御城印。印面にはかつての城主の家紋や使用していた印判などがあしらわれていて、見ているだけでも楽しい気分になる
たとえば、下の写真の御城印は、「難攻不落の真田の山城」こと岩櫃城(群馬県)のもの。押されているのは、向かって左上から、真田氏の雁(かりがね)とおなじみ六連銭(または六文銭)、左下から武田氏の武田菱(たけだびし)と斎藤氏の六つ柏(むつがしわ)。真ん中は家紋ではなく、険しい岩櫃城の山容が描かれています。一つだけでもたくさんでも、日本の家紋はデザイン性に優れていてカッコイイので、どれも見事に「ばえ」ますよね!
岩櫃城は、元は斎藤氏の城だったが真田幸隆によって攻略され、後に幸隆の子・昌幸が城主となる(画像は合同会社忍びの乱提供)
御城印のブームにより、御朱印帳ならぬ「御城印帳」も、家紋をあしらった小洒落たデザインのものが全国の城で発売されています。また、御城印が登場する前から、城内や城下のお店では、城主の家紋をあしらったお城グッズや、せんべい、まんじゅうなどのお菓子もたくさんありました。殿様たちが必死に守った日本の城は、御家の象徴である家紋とは切り離せないもの。これを機会に家紋にも注目してみると、その城の歴史と、城に関わった人たちのことが、ちょっと違う視点で確認できるかもしれませんね!
#家紋クイズ答え
①「織田木瓜」(織田信長など) ②「三つ巴藤(黒田藤)」(黒田官兵衛・長政など) ③「竹に雀(上杉笹)」(上杉謙信・景勝など) ④「一文字三つ星」(毛利元就・輝元など) ⑤「五骨扇に月丸」(佐竹義重など) ⑥「割菱(武田菱)」(武田信玄・勝頼など) ⑦「二頭立波」(斎藤道三など) ⑧「梅鉢」(前田利家など)
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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。主な制作物に、『地域別×武将だからおもしろい 戦国史』(朝日新聞出版)や、『あやしい天守閣 ベスト100城+α』(イカロス出版)など。『歴史と人物 面白すぎる!鎌倉・室町』(中央公論新社)など、日本中世史の入門書も好評発売中!
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