2023/06/16
超入門! お城セミナー 第115回【鑑賞】意外な施設に生まれ変わったお城を知りたい!<第1弾>
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回は、ホテルや温泉、遊園地などに“転生”したお城を紹介。遺構はほとんど残っていないけれど、訪城が楽しめる。そんな、普段とは違う城めぐりができる城跡に行ってみませんか?※初掲2021年6月28日
静岡県浜松市の「浜名湖パルパル」。どこからどう見ても遊園地だが、ここはかつて堀江城というだった
廃城になったお城の現在の姿とは…?
かつて、全国に林立していた城は、江戸時代の一国一城令や明治時代の廃城令で多くの城が機能を停止しましたが、現在も姫路城(兵庫県姫路市)や名古屋城(愛知県名古屋市)などの城は歴史を伝える観光地となり、私たちに戦国時代や江戸時代の光景を教えてくれます。
しかし、観光地や史跡としてきちんと保存された城は、全国でもごく一部。残りの大多数は、廃城とともに市街地に埋もれていきました。その後、城跡の広い敷地は官公庁や住宅、学校などに活用されましたが、中には意外な施設に生まれ変わったものも。今回は、そんな城跡の中から宿泊施設やレジャー施設に“転生”した城を紹介します!
ここもそうなの!? 宿泊・レジャー施設になったお城大集合
【湯浅城(和歌山県有田郡)】お城も温泉も楽しみたい欲ばり旅に!
「湯浅温泉 湯浅城」は、連結した四基の櫓風建物の中心に天守風建物が建つ、ちょっと変わった連立式になっている(ましゃいこ / PIXTA)
まず、ご紹介するのは和歌山県の「湯浅温泉 湯浅城」。おいしい食事と天然温泉が楽しめるホテルなのですが、初見でここがホテルだと気づくのは至難の業。なんと、ホテルの外観が立派な連立式天守風になっているのです!
どうして天守風のホテルになったのかというと、この地にはかつて湯浅城という城があったため(正確にはホテルの向かいが城跡で、登城の際には事前連絡が必要)。城主は有田郡一帯に勢力を張っていた湯浅党の惣領家。現在建っている天守は模擬天守ですが、城跡には湯浅氏時代の土塁や曲輪が残っています。五階建ての天守(風建物)とこれを囲む櫓(風建物)は、もちろん宿泊用の部屋。天守に泊まれて遺構散策もできるなんて、お城ファンにとってはコスパ最強なのではないでしょうか?
湯浅城跡の土塁。城跡は普段施錠されているため、登城の際は事前に管理者へ連絡する必要がある
【堀江城(静岡県浜松市)】家族で楽しめる遊園地…、実はお城だった!?
浜名湖パルパルの駐車場では、城跡名の看板や城の説明板など、城の名残を偲ぶことができる
浜名湖の東岸にある舘山寺温泉は、はままつフラワーパークや浜松市動物園などを擁する、浜名湖一帯でも人気の観光地。実は、この温泉街にも“前世”が城のアミューズメント施設があるのです。それは、「浜名湖パルパル」。約30種類のアトラクションやヒーローショーなどがある、親子で楽しめる遊園地です。浜名湖パルパルの“前世”は、今川氏や徳川氏に仕えた大沢氏の城・堀江城。江戸時代に堀江陣屋となり幕末まで存続した城なのですが、遺構はほぼ消滅。城の面影が残っていないのは残念ですが、一度に城跡と遊園地を楽しめると考えると、ちょっとお得な気分になれそうですね。
【大山城(茨城県東茨城郡)】天守風のホテル…? え、本当にお城だったの!?
ホテル大山城。一見すると、どっしりした望楼天守に思えるが、れっきとしたホテルである
茨城県にある大山城は、鎌倉時代に大掾氏(だいじょうし)が築き、文禄4年(1595)に廃城となったとされています。遺構はほとんど残っていませんが、城内に建つ「あるもの」のおかげで城跡であることは一目瞭然。なんと、天守風のホテル、その名も「ホテル大山城」が建っているのです。もちろん、大山城に天守が存在したことはありませんが、ホテルからの光景は当時の城主が見たものと同じ。宿泊すれば、お殿様気分が味わえそうですね。
大山城。天守(?)脇の建物も櫓風の外観になっているため、下から見上げると、立派な城に見える
【飯田城(長野県飯田市)】お殿様気分で温泉が楽しめる!
飯田城は舌状台地上に本丸などの曲輪が並ぶ。飯田城温泉は台地の先端である山伏丸跡に位置する
戦国きっての温泉好き大名として知られる武田信玄。その領内にある温泉施設が「飯田城温泉 天空の城 三宜亭本館」です。温泉名に城とついている通り、この地は戦国時代、武田氏の支城でした。残念ながら信玄がこの温泉に浸かったという史実はありませんが、大浴場や露天風呂では目の前に南アルプスが広がる絶景を楽しめます。周辺には武田氏ゆかりの城や信玄最期の地とされる駒場などもあるので、武田ファンはぜひ一度訪れてみては?
「飯田城温泉 天空の城 三宜亭本館」の外観
【練馬城(東京都練馬区)】「としまえん」の名前に隠された練馬の歴史
ありし日のとしまえん。園内には国内初の流れるプールやミニ動物園などがあり、特に夏休みは親子連れで賑わった(ogasaku / PIXTA)
プールや巨大な立体迷路があり、東京の親子に親しまれていた「としまえん」。このテーマパークは、何回か名称が変更されているのですが、開園当初の名称は「練馬城址 豊島園」。そう、としまえんは城だったのです!
この地に立っていた城は練馬城。南武蔵の国人・豊島氏の支城として室町時代に築かれ、長尾景春の乱(1476〜80年)の豊島氏滅亡と同時に廃城となりました。市街地化の影響で遺構は残っておらず、豊島の名前だけが城の名残をうかがわせてくれます。残念ながら、2020年にとしまえんは閉園してしまいましたが、跡地に映画「ハリー・ポッター」のテーマパークが映画「ハリー・ポッター」や「ファンタスティック・ビースト」シリーズの制作の裏側を体験できる屋内型エンターテイメント施設「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 –メイキング・オブ ハリー・ポッター」完成、2023年6月16日に堂々オープン! 見事、2度目の“転生”を果たしました!
【番外編/熱海城(静岡県熱海市)】天守がないから建てちゃった!
熱海城天守(?)。史実ではこの地に城は建っていなかったが、北条氏が水軍の拠点として城を築こうとしたという伝承があるのだとか
せっかくなので、最後にレジャー施設に城を建てちゃったパターンも紹介しましょう。温泉地として有名な熱海にあるアレ。そう、熱海城です。錦ヶ浦山の頂上に建つ天守風建物は、「ここに城があったらいいのに」という地元の要望で造られたのだとか。とはいえ、町と海を一望する高台は、城の立地としては最適。華やかな織豊天守風の外観と相まって、そうと知らなければ、「熱海にはこんな立派なお城があったのか〜」と、納得してしまいそうです。
建物内は、ゲームコーナーや江戸体験コーナーなど子どもから大人まで楽しめるアミューズメントが盛りだくさん。また、2階には城の絵図や模型、城郭復元図の第一人者・荻原一青氏の復元図などを展示する「日本城郭資料館」もあり、城ファンも楽しめること間違いナシです。
いかがでしたか? 城跡って意外と身近な場所にあるものなんですね。自分の地元にある施設や旅行先の地名について調べてみると、意外な発見があるかもしれません。今後も「お城セミナー」では、ちょっと意外な施設に生まれ変わった城をご紹介していく予定なので、ぜひお楽しみに!
▼超入門!お城セミナー【鑑賞】のその他の記事はこちら!
執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。全国各地に存在する模擬天守・天守風建物を紹介する『あやしい天守閣 ベスト100城+α』(イカロス出版)が好評発売中。戦国時代の出来事を地方別に紹介・解説する『地域別×武将だからおもしろい 戦国史』(朝日新聞出版)は重版出来しました!