2020/12/07
超入門! お城セミナー 第103回【鑑賞】お城の屋根や壁を雪から守る驚くべき工夫とは?
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回のテーマは雪国の城。冬に降る雪は城を美しく彩る一方で、人を傷つけ建物をも破壊する恐ろしさも持っています。そんな雪と長く付き合ってきた雪国において、城にどんな工夫を凝らしていたのかを紹介します。
「横手のかまくら」で有名な横手城(秋田県)。横手市は、毎年1m以上の雪が積もる豪雪地帯だ
天守や櫓を破壊してしまう雪国の冬
お城めぐりがなかなか満足にできなかった2020年もはや年末。寒さも本番を迎えようとしていますね。北海道・東北・北陸・信越地方といった日本海側を中心とした積雪・寒冷地域は、実に国土の約60%を占めるそうです。日本は、世界有数の雪国なのです。今回は、そんな雪国日本の積雪・寒冷地に築かれた城たちの、雪や寒さに対する工夫についてのお話です。
天守をはじめ、櫓や御殿や門など、たくさんの瓦葺の木造建築で構成された近世城郭。大枚をはたいて築き上げた政権のシンボルを存続・維持するために最も気を遣ったのは、防火対策だったでしょう。このため、城には壁を漆喰で塗ったり、まじないとして屋根に鯱を乗せたりといった工夫が行われています。
でも雪国の近世城郭では、雪と寒さへの対策が最優先事項。当時一般的だった黒いいぶし瓦を用いると、雪や雨が沁み込んだり、粘土に含まれる水分が凍ることで割れたり剥がれたりして、屋根を健全な状態に保つことが困難。さらに、瓦屋根に雪が積もると、屋根の重さは相当なものになります。これらの対策を怠れば、建物は傷み、住むこともままならず、やがて崩壊するきっかけとなってしまいます。
冬の弘前城。初代天守は江戸時代初期に落雷で焼失したが、文化7年(1810)に再建。以降、200年以上の風雪を耐えしのぐ
このため雪国の城の建造物では、まずは寒さで破損しない屋根材を用いることが第一に考えられました。そして工夫を重ねながら軽量化も実現されていきました。また、強い横なぐりの風雪に耐える壁も採用されています。
それでは、弘前城(青森県)、松本城(長野県)、金沢城(石川県)、丸岡城(福井県)など、江戸時代からの現存建築物が残る名城をはじめとする雪国の城が行った、雪や寒さに対する具体的な工夫をみていきましょう。
屋根や壁に施された寒さ対策
雪国の城で最も工夫されたのが、屋根の部分です。前述の通り粘土を焼いて作る通常の瓦は、雪国では粘土に含まれる水分が凍ったり、雪や雨が沁み込んで割れたり剥がれたりしてしまうことがあるため、雪国の城には、瓦以外で屋根を葺く、金属や石などの瓦といった工夫がされていました。まずは、瓦以外の屋根の葺き方を見てみましょう。
【柿葺(こけらぶき)】
ヒノキ・サワラ・スギなどの木の板を幾重にも重ねて葺く日本古来の工法で、神社建築によく見られます。瓦ではないため割れる心配もなく、素材が木なので軽量化も可能です。
高島城(長野県)の復興天守は銅板葺ですが、旧天守はヒノキの板を使用した柿葺でした。村上城(新潟県)も柿葺か檜皮葺(ひわだぶき/ヒノキの皮を重ねて葺く工法)だったとみられており、信越地方の城にはこの屋根を採用している城が多かったようです。防火性より耐寒性を重視していたことがわかりますね。
松代城の復元太鼓枡形門(左)と屋根のアップ(右)。松代城の建物は杮葺の一種である、栩葺(とちぶき/1〜3cmの厚い木片を葺く)だったとされる
瓦そのものの素材を工夫した例もありました。
【石瓦】
石材そのものを瓦に加工して使用。石材は粘土瓦に比べて水を吸いにくいため、瓦のひび割れや破損を防ぐことができます。
丸岡城(福井県)の現存天守には、地元福井産の笏谷石(しゃくだにいし)が瓦に加工されて使われています。なるほど、現地の石材なので気候の変化に適応できそうです。ただし、瓦1枚が20~50kgと非常に重い(総重量はなんと約120t!)ので、これに耐えて現代まで残っている現存天守は見事としかいいようがありません。
丸岡城の屋根。やわらかくて加工しやすい笏谷石は、日用品などにも使われていた
【赤瓦】
瓦の表面に酸化鉄(ベンガラ)を多く含む釉薬をかけることで、耐水性と耐寒性を実現。
会津若松城(福島県)では、築城当初は通常の黒瓦だったようですが、保科正之(ほしなまさゆき)時代に赤瓦が登場。現在の再建天守も当初黒瓦でしたが、2011年に赤瓦が復活して幕末時の姿がよみがえりました。また福井城(福井県)や金沢城でも、越前産とみられる赤瓦が出土しています。
復元された赤瓦屋根の会津若松城天守。他にも津和野城や萩城でも赤瓦が使われていたという
続いて金属を利用した瓦を見てみましょう。
【銅瓦】
銅瓦は木製の瓦に銅板を貼ったものです。こちらは表面に金属を貼ることで、耐水性・耐寒性をクリア。さらに、中は木なので軽量化にも成功しています。
外観復元された現天守が銅板葺(瓦ではなく銅の板を葺いた屋根)である松前城(福山城/北海道)は、旧天守の屋根は銅瓦葺で、軒部分の木材も銅が巻かれていたとか。困窮時に城内の銅瓦や銅板を売却したという記録が残ります。また、弘前城のシンボル、現存天守の緑色の瓦も銅瓦です。なお、現存櫓の屋根は銅板葺になっています。
弘前城天守(左)と銅瓦(右)。酸化で生成される緑青(ろくしょう)には、腐食を防ぐ効果もある
【鉛瓦】
木製の瓦に鉛板を貼ったもので、上記銅瓦と同じく、表面が金属なので雪や雨が沁み込まず、割れもせず、軽い屋根になっています。
金沢城の石川門と三十間長屋(どちらも現存)、さらに続々と復元されている城内の建造物にも鉛瓦が使われていて、独特の鈍い光を放っています。構造展示も行われているので、ぜひ見学してみましょう。
金沢城の石川門(左/金沢市提供)と鉛瓦(右)。鈍く光る鉛瓦が独特の美観をつくり上げている
最後に、屋根以外の工夫をご紹介します。
【海鼠壁(なまこかべ)】
壁面に瓦を貼り付け、その固定のために目地に漆喰を盛り上げて塗ります。この目地が、なまこの形に似ていることがこの名の由来とか。防火性に優れるので、蔵によく使われています。瓦によって漆喰そのままより耐水性も増すので、風雪にも強くなります。多様なデザイン性も特徴。
城郭建造物では、金沢城や新発田城(新潟県)で見られます。特に金沢城では、鉛瓦と海鼠壁の洒落た外観が大きな特徴になっています。
海鼠壁で仕上げられた金沢城の石川門。他にも、金沢城の建物は柱に金属板を貼るなど、痛みやすい部分を風雨にさらさないための工夫が施されていた
また、弘前城の5つの現存門の間口は通常より高くなっているのですが、これは積雪時にも槍をかかげて通過できるように工夫されているのだそうです。
この他、松本城天守の屋根上には、数か所平たい瓦が敷かれています。これは「捨て瓦」といって、上の階の屋根から雪が凍ってすべり落ち、平瓦や丸瓦を痛めるのを防いでいます。こちらは昭和の大修理の時に採用された、現存天守を守る工夫です。
松本城の辰巳櫓と月見櫓。赤丸部分が捨て瓦だ
寒い地域の城に行った時には、こういった雪国ならではの工夫にも、ぜひ注目してみて下さい。縄張や石垣などとはまた違った築城技術を知ることができますよ!
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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。城郭の専門家が山城の見どころを紹介する『隠れた名城 日本の城を歩く』(山川出版社)が好評発売中。また、2020年12月には、“エライ人”を中心とする相関図で日本史が分かる『イラスト図解で速攻理解 時代別 本当にエライ人でわかる日本史』が発売予定。