2020/10/26
超入門! お城セミナー 第100回【鑑賞】実はこんな所もお城だった!?私たちの身近にある城跡を探すヒントを教えて!
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回は記念すべき100回目ということで、城めぐりが楽しくなる実践的なテーマをご用意! 地名や町の構造など、普段とはひと味違う城めぐりが楽しめる城跡探しのヒントをご紹介します。
ビジネスマンが行き交う四谷。四ツ谷駅に隣接する四谷見附橋には、かつて江戸城の門が建っていた
各地に残る知られざる城を探してみよう
2018年に「第1回 【鑑賞】お城へ行くにはどんな格好がいいの?」からはじまった「超入門!お城セミナー」も100回目。これまでこの連載では、城の構造や歴史、鑑賞の仕方など、様々な知識を紹介してきましたが、今回は実際の城めぐりにも役に立つ「城跡を探すヒント」がテーマです。
城めぐりの計画を立てる際は、城の書籍や自治体の情報、地図アプリなどを使って訪れる人が多いと思います。ですが、今回はより城歩きが楽しくなる方法の一つとして、それらに頼らない城跡の探し方を伝授します!
日本全国には3万とも4万ともいわれるほど、無数の城があるといいます。つまり、観光地として知られている城は、全体のごく一部にすぎないということ。地元の人しか知らない城、地元の人にもほとんど知られていない城がものすごくたくさんあるということになるわけですが、それって一体どんな所にあるのでしょうか?
お城を探す時に注目してほしいポイントは、地名、街の構造、そして地形です。軍事拠点、領主の住処、地域の政庁と、時代とともに多くの役割を担うようになった城。そんな城があった場所は、少し注意して探してみると、それらしい痕跡をとどめているものです。
街中の地名には城の痕跡が隠れている!
まずは、街中に残る地名に注目してみましょう。「無形の文化財」「歴史の記憶」などといわれる地名は、城跡探しの大きなヒントになります。実際、地名が手がかりとなって城跡や館跡が発見された例は数多あるとか。城跡によくある地名を「城郭地名」と呼ぶそうです。以下に少し例をあげておきます。
市民の憩いの場として人気の津久井湖城山公園。「城山」という名前が示す通り、公園内はかつて津久井城という城があった
城山(しろやま・じょうやま)、古城、城之内、要害、館、御殿、大屋敷、根城(根小屋・根古屋なども)、堀之内(ただし寺社の堀であることも)、陣屋、出丸、茶臼山、土居、枡形、千畳敷、大手、搦手、的場、馬場、物見、城戸(木戸)、曲輪(郭)、城之腰、見附、〇〇丸、〇〇市場、〇〇宿 などなど…。
名古屋市役所や愛知県庁の住所は「名古屋市中区三の丸」。かつてこの地が名古屋城の三の丸だったことからついた地名だ
これらの地名が残るところには、かつて城や館があった可能性が高いようです。ただし、中には意外と新しい地名もあるので百発百中とはいきません。また、正式な呼称ではなく地元での通称程度なこともしばしば。本格的に調査するなら、地籍図や江戸時代の村絵図、検地帳といった資料が役に立ちます。でも手軽で意外に役立つのは、バス停名や電柱に貼ってある地名。ここに失われた小字名や通称が残っていることが多いので、チェックしてみて下さい。
この他、鍛冶屋・鋳物師・金屋・紺屋・番匠・大工といった職業由来の地名にも注目。城下の職人町の名残であることが多く、実際に今でもそこに伝統工芸の職人さんが住んでいることもあります。
次に、街の構造にも注意を払ってみましょう。まず川は、現在田園地帯になっている所でも、街中でも要注意。天然の川筋を堀に利用したものもありますし、堀を新しく掘って近隣の川や海などの水を引き込んだものもあります。ほんの溝程度の細い川、今は水が枯れている川、段差などもお見逃しなく。また、暗渠(あんきょ)となって地下で流れていることもあるので、溝の蓋も気を付けてみてください。これらの川筋や段差が城下町と城外を区切るラインだったり、武家地と町人地の境目だったりします。今でも多くが町割りのラインとして残っているようですよ。
三重県の桑名城の水堀跡。市街地を流れる河川で、不自然にまっすぐだったり直角に折れたりしているものは、城の堀である可能性があるため、注目してみよう
また、直線の道が多い街は、為政者によって城下町として整備された可能性があります。古い街道の周囲に城下町が発展した例や、城下町に街道を引き込んで整備した例もあるので、現在賑わっているかどうかよりも道筋に注目を。そしてこの直線が、鍵の手、食い違い、丁字路になっていたり、屈曲の先に広場(枡形のようなもの)があったりしたら、近くに城跡がある確率は相当に高いはず。古い町屋の老舗っぽいお店などがあれば、質問してみるのもいいですね。
女城主の悲劇で知られる岩村城(岐阜県)の城下町には、「下町枡形」と呼ばれる場所がある。これは、城下に侵入する敵を妨害する枡形という防御施設の名残だ
松本市内に残る「袋町の鍵ノ手」。このように不自然に折れ曲がる道があったら、そこは城や城下町の名残である可能性が高い(新まつもと物語プロジェクト提供)
街中の城跡を見つけられるようになったら、山城探しにも挑戦してみよう!
最後に上級テクニックとして、地形から山城を探すヒントをご紹介しましょう。中世の山城跡を見つけるなら、なんといっても注目すべきは山。「守りやすく攻めにくい」山、地域全体が見渡せそうな山、麓に大きな道が通っている、または集まっている山…。このあたりの条件を頭において、地図を見てみましょう。
真田氏の本拠地として知られる上田市(左)。真田昌幸が築いた上田城は有名だが、市街地を囲む山々を調べてみると無数の山城が残されていることがわかる(右)
さらに、山城跡によくあるのが、山頂部や尾根筋の一部が平らに削平されていること。その削平地を有効利用して、今は公園になっていることもありますし、寺や神社があることも多いようです。一つの地域に好条件を満たす山がそう多くあるわけではないので、古来の聖地でもとは磐座や古墳や寺社があった場所を城に転用した例もあります。また、城主と関係の深い神仏や、城主その人が祀られた寺社が残っている例も。
そして、もう一つ重要なポイントとなるのが、川です。自然地形を利用した山城には、断崖の下など山の周囲に天然の堀の役割となる川が流れていることが多いのです。
長篠の戦いの舞台となった長篠城も川の合流地点上に建つ城。戦国時代の城は、このような河岸段丘上に築かれていることが多い
上級者になると、もっと広い範囲を地図などで見渡して、「こことこことの境界であるこの辺りの山に、一つ城を築いたのでは?」と、同時代の領主目線であたりをつけることもできるとか。
「知られざる城」とはいっても、実際役場などでは地元の史跡はほとんど調査されています。資料をもらえたり閲覧できたりする城跡もあるでしょう。また、これらは意外に細かく地図アプリでも反映されていますので、「この辺りは城跡っぽいぞ」と思ったら、アプリ上で「城」「城跡」「史跡」などと検索してみてください。実はその周囲が城跡だらけでビックリ! なんてことも。
今回紹介した城探しのポイントは、著名な城跡や城下町を歩いている時にもぜひチェックしてみてください。新発見ではなくても確認できると嬉しいものです。地形・街の構造・地名と、テーマを変えて何度でも好きな城跡を訪れるというのも、また一興です!
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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『図解でわかる 日本の名城』(ぴあ株式会社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『隠れた名城 日本の山城を歩く』(山川出版社)、『「戦」と「美」で読む日本の城100選』(イースト・プレス)「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。
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