超入門! お城セミナー 第113回【構造】ランキング発表! 天守台を含めた本当に史上最大の天守はどこ?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロからわかりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。日本を象徴する高層建造物である天守。最大の特徴はその高さにあるわけですが、それでは史上最大の天守は何城なのでしょうか? 今回は天守台を含めたランキングを発表します。1位は名古屋城? 姫路城? 大阪城?

名古屋城、天守
日本一大きい天守はどこか? 今回は天守台を含めた高さで測定。だって天守を見上げるときは天守台の下から望むもんね(写真は名古屋城大天守)

分類別に見る天守with天守台の高さランキング

日本に存在した天守の中で、日本一大きいのはどこなのか? 連載「超入門! お城セミナー」では、これまでも天守の高さランキングを紹介してきましたが、今回は建物が乗る天守台を含めた、“真”のランキングを発表します!(以前のランキングは、第11回【構造】日本一高い天守は何城?、第67回:再建された天守で一番高いのは何城?をご覧ください)

通常、天守の高さは建築部分だけの数値を示すのが一般的です。天守の建物を支える土台部分の石垣を「天守台」というのですが、世に公表されている天守の高さは、天守台を含めないものが多いようです。ほとんどの解説書がそうですし、本連載のランキングも、これまでは天守台を含めていませんでした。

でも、本当の高さを示すのに、天守台抜きでは不十分ですよね。だって、お城に行って天守を見るときは、天守台の下から眺めているわけですから。建物に天守台が加わってはじめて、我々は「でかいなぁ」と天守の高さを実感しているわけです。

そこで、今回のランキングでは天守台も含めた数値で示しました。ただし、天守台の高さは計測場所によって差が生じます。例えば松本城(長野県)の天守台は一部が水堀に面しており、水堀の中からの高さと、水面からの高さと、本丸の地表面からの高さは異なります。見る場所、計測する場所によって、数値が違ってくるわけです(だから通常、天守の高さを出す場合は天守台が含まれていないのでしょう)。

今回の天守台の高さは、地表面からを基準にしました。あくまで参考の数値と捉えてください。

まずは<現存天守><復元・復興天守><消失した天守>と分類別のランキングを紹介し、最後に日本に存在した天守で史上最大はどこなのか、総合ランキングを発表しましょう。なお、下記はすべて、各城に取材するか、公的な資料に掲載された数値になります。

<現存天守ランキング>
1位:姫路城(兵庫県) 46.5m(建物31.5m+天守台15m)
2位:松江城(島根県) 30.0m(建物22.4m+天守台7.6m)
3位:松本城(長野県) 29.4m(建物24.4m+天守台5m)
4位:犬山城(岐阜県) 24.0m(建物19.0m+天守台5m)
5位:彦根城(岐阜県) 23.5m(建物15.5m+天守台8m)
次点:松山城(愛媛県) 20.1m(建物16.0m+天守台4.1m)

姫路城、天守
現存天守1位は姫路城。堂々とした天守台の高さも現存1位

現存天守は江戸時代以前から現在まで残っている天守のこと。全国にわずか12城しかありません。

その第1位はやっぱり、国宝であり世界遺産の姫路城。2位以下に15m以上の差をつけてのぶっちぎりですね。建物も1位ですが、天守台の高さもトップなんです。ちなみに、15mは備前丸からの高さになります。

建物だけなら2位の松本城は、天守台の差で松江城に抜かれてしまいました。松本城天守台の5mは本丸から見た高さで、内堀側から見るともっと高さがあります。内堀の水面から測れば、きっと松本城が2位を奪還することでしょう(松本城に聞いてみたのですが、内堀側の天守台の高さは正確に計測したことがないそうです)。

次点で入れた松山城ですが、松山城の連立式天守は、本壇と呼ばれる1段高い曲輪に建てられています。上記の数値は本壇の上から計測したもの。本壇の高さが8.3mあるので、本壇下から見たときの天守は高さ28.4mとなり、4位にランクアップするわけです。

ちなみに、現存の最小の天守は備中松山城(岡山県)。建物11m+天守台2.7mで計13.7mと、小ぶりなかわいらしさが特徴となります。

<復元天守・復興天守ランキング>
1位:大阪城(大阪府) 54.8m(建物41.5m+天守台13.3m)
2位:名古屋城(愛知県) 48.3m(建物36.2m+天守台12.1m)
3位:広島城(広島県) 39m(建物26.6m+天守台12.4m)
4位:小田原城(神奈川県) 38.7m(建物27.2m+天守台11.5m)
5位:熊本城(熊本県) 37.2m(建物31.2m+天守台6m)

大阪城、天守
復元・復興天守の1位は大阪城。その高さも人気の理由。昭和初期の再建だが、天守台は江戸時代に築かれたもの

復元天守は江戸時代までの姿を忠実に再現した天守のこと。復興天守はかつて天守が建っていたのですが、その姿が正確にわからずに、推測も含めて再建した天守のことです。

1位は大阪城。さすがは来場者日本一を誇る城です。太閤秀吉の天守が大坂の陣で灰燼に帰し、江戸幕府による再建天守も早々に落雷で焼失、その後約260年を経て昭和初期に再建されたのが現在の天守閣。土台となる天守台は、徳川期大坂城ママとなります。

2位の名古屋城は外観を忠実に再現した復元天守であり、太平洋戦争で焼失するまではこの大きさの木造天守がそびえ建っていました。なお、天守台の高さ12.1mは本丸から計測したもので、内堀側から計ると19.5m。計55.7mとなり、大阪城を抜き1位に躍り出ます。

さて、1〜5位までの天守はすべて、鉄筋コンクリート製(RC造)となります。RC造のほうが手間もコストもかからずに高層建造物を建てやすいというのは、専門家でなくてもなんとなくわかりますよね。木造復元天守の最大は大洲城(愛媛県)ですが、高さ19.15mでトップ20にも入りません。現在、名古屋城天守の木造復元が議論されていますが、本当にこのサイズで木造復元されれば空前絶後のことなのです。

<消失した天守ランキング>
1位:江戸城寛永天守(東京都) 58.8m(建物44.8m+天守台14m)
2位:徳川期大坂城(大阪府) 57.3m(建物44m+天守台13.3m)
3位:駿府城(静岡県) 52.5m(建物33.5m+天守台19m)
参考:安土城(滋賀県) 41m(建物32m+天守台9m)

江戸城、寛永天守
消失した天守の1位は徳川家光が築いた江戸城の寛永天守。大火で焼失したが、どれほど猛火になったか想像するだに恐ろしい(イラスト/香川元太郎)

かつて存在しましたが何かしらの理由で消失し、その後再建されることのなかった天守のランキングです。1〜3位までは残された図面や文字史料をもとにした数値で、現存する大阪城天守台以外は、当然ですが実測値ではありません。参考として織田信長の安土城も入れましたが、天守については推測するしかなく、上位3城以上に数値の裏付けはあいまいです。

江戸城寛永天守は徳川家光時代に築かれた天守、徳川期大坂城は上でも触れましたが大坂の陣後に江戸幕府(徳川秀忠)が再建した天守、駿府城は大御所となった徳川家康が隠居城として建造した天守です。1〜3位まですべての城が(加えて名古屋城も)、江戸時代初期の築造であり、多くの大名を動員した「天下普請」によるもの。江戸幕府の威光が、天守の高さに表れているわけです。

<天守閣風建造物ランキング>
ここまで取り上げた天守は歴史上存在した城となりますが、日本には歴史うんぬんに関係なく、建てられてしまった天守閣も多く存在します。通常の天守ランキングであれば相手にされなくてしかるべき天守閣たちですが、「日本に存在した史上最大の天守」を謳う今回の企画では、無視するには忍びないので加えてあげたいと思います。

天守閣風建造物のランキングはこちら!

1位:勝山城博物館(福井県) 57.8m
2位:伏見桃山城(京都府) 50.0m
3位:常総市地域交流センター(茨城県) 48.5m
4位:熱海城(静岡県) 43m

勝山城博物館
天守閣風建造物の1位に輝いた勝山城博物館。農村風景に突如現れる巨大建造物は、ゴジラや怪獣を想起させる

城ファンの方でも知らない人が多いのではないでしょうか。それもそのはず、通常の城本ではまず掲載されることのない城ばかりです。高さはすべて天守台を含みますが、そもそも建造物として石垣が一体化した構造なので、それを天守台と呼んでよいのかどうかはわかりません。

1位の勝山城博物館は、大名武具や合戦図屛風などを展示する資料館であり、茶会などが開催される催し物会場としても利用されています。田園地帯にドンッと現れ、高さが一層際立ちます。2位の伏見桃山城は、かつてあった「伏見桃山キャッスルランド」の一角に建てられ、遊園地が廃園となったのちも建物だけが取り残されました。一応、かつての伏見城(京都府)の敷地内に建つので、模擬天守と見る向きもあります。3位の常総市地域交流センターは勝山城博物館と同様、資料館兼イベント会場として地元に親しまれる施設。熱海城は熱海の温泉街や東海道新幹線から望むことができる、あの天守閣です。

史上最大の天守TOP10を発表!

それでは最後に、これまでの天守をすべてあわせた「史上最大の天守TOP10」を発表しましょう。

<史上最大の天守ランキング>
1位:江戸城寛永天守 58.8m(消失、木造)
2位:勝山城博物館 57.8m(天守閣風、RC造)
3位:徳川期大坂城 57.3m(消失、木造)
4位:大阪城 54.8m(復興、RC造)
5位:駿府城 52.5m(消失、木造)
6位:伏見桃山城 50.0m(天守閣風、RC造)
7位:常総市地域交流センター 48.5m(天守閣風、RC造)
8位:名古屋城 48.3m(外観復元、RC造)
9位:小倉城 47.5m(復興、RC造)
10位:姫路城 46.5m(現存、木造)

鉄筋コンクリート製(RC造)の天守ばかりになるかと思いきや、寛永期江戸城、徳川期大阪城、駿府城、そしてかつては木造だった名古屋城と、江戸時代初期に築かれた天守が上位に並ぶ結果に。江戸幕府って、すごかったんですね。

今、見ることができる天守としては勝山城博物館、現在の大阪城、伏見桃山城がTOP3。どれも史実にともなわない復興天守、もしくは天守閣風建物なのは残念なところ。そんな中、姫路城が10位にランクインしているのは、現存天守の意地というところでしょうか。

今回の史上最大の天守ランキング、お楽しみいただけましたでしょうか。もし、「こういうランキングが見たい」というリクエストがありましたら、教えてくださいね!

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第112回【構造】空堀と水堀はどうやってお城を守っていたの?
第98回【構造】お城の曲輪や出入口の配置の仕方にはルールがあったの?
第95回【構造】石垣を崩れにくくするための積み方って?
第85回【構造】山城にとって井戸はどれほど重要だったの?
第83回【構造】山中城のワッフルみたいな堀って何の意味があるの?

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執筆・写真/かみゆ歴史編集部 <お城情報WEBメディア 城びと>
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。近刊の『あやしい天守閣ベスト100城+α』(イカロス出版)は、全国にある天守を完全網羅。復興天守・模擬天守を中心に、現存天守から天守閣風建物まで全184の天守閣を掲載している。

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