「令和の大改修」真っ最中の岡山城!城びとアンバサダーが現地見学会をレポート

岡山城(岡山県)は令和4年(2022)11月のリニューアルオープンに向けて大規模改修の真っ最中! 実際にどのような改修が行われ、またどこまで工事が進んでいるか気になりますよね。令和3年(2021)11月27日に行われた「岡山城令和の大改修」現場見学会の様子を、岡山が地元の城びとアンバサダーのたけ◎曲輪衆さんと石工集団穴太衆さんにレポートしていただきます。たけ◎曲輪衆さんの本職は建築関係なので、職人さんならではの着眼点も!



「岡山城令和の大改修」現場見学会~石垣保存修理工事~

岡山城レポート,令和の大改修

こんにちは、城びとアンバサダーのたけ◎曲輪衆です。今回の「岡山城令和の大改修」は、天守や他の建物の耐震改修・修繕工事と樹木の伐採整理にその他園内整備などが行われる「岡山城天守閣等大規模改修他工事」と、石垣保存修理などが行われる「史跡岡山城跡歴史的環境整備工事」が主なものです。その他付随工事として電気設備工事・機械設備工事・展示工事も行われ、令和4年(2022)11月にリニューアルオープンする予定です。

岡山城(岡山県岡山市)天守は、昭和20年(1945)6月29日の空襲で戦災焼失し、昭和41年(1966)鉄筋鉄骨コンクリート造で再建されたので、今年で築55年です。天守、不明門、廊下門の耐震調査が行われ、平成30年(2018)に発表された結果は……大規模な地震(震度6強から7)に対して、天守は「倒壊し、又は崩壊する危険性がある」、不明門は「倒壊し、又は崩壊する危険性が高い」! さらに調査報告には「これらの施設は今後も継続して利用することから、利用者の安全確保を図る必要があるため、然るべき時期を見計らって耐震補強行うよう、検討を進めます」と付け加えられ、今回の大規模改修工事となりました。

現在、岡山城天守と不明門は仮設足場が完成し、すっぽりとシートに覆われています。金烏城(きんうじょう)と呼ばれる黒い外壁と金色に輝く鯱瓦と軒先瓦が美しい天守の姿も当分の間お預けです。「工事の様子がとてもとても気になる!」と思っていたところ、ちょうど開催されたのが、施工を担当している業者であるアイサワ工業(株)・(株)まつもとコーポレーション特定建設工事共同企業体による現場見学会。工事の様子を知る絶好の機会ということで、私たち、城びとアンバサダーのたけ◎曲輪衆と石工集団穴太衆で現場見学会をレポートします!

ちなみに、岡山城以外にも、日本全国には昭和30~40年代、いわゆる昭和の築城ブームの時に建てられた鉄筋コンクリート造の復元天守や復興天守、模擬天守、櫓や門があります。今、それらの建物が築50~60年を迎え、耐用年数を超えようとしています。平成28年(2016)の熊本地震で熊本城復元天守が大きな被害を受けたのを契機に、各地で鉄筋コンクリート造の城郭建築物の耐震調査も行われました。その結果などから、近い将来、全国から天守が消えるとまで危惧されています。

▼天守消失の危惧について詳しく知りたい方は、加藤理文先生の記事をチェック
・「理文先生のお城NEWS解説 天守復元の新基準1(https://shirobito.jp/article/1200)」、「天守復元の新基準2(https://shirobito.jp/article/1222)」、
「天守復元の新基準3(https://shirobito.jp/article/1246)」

岡山城,令和の大改修
現場事務所に掲げられたスローガンを見ると、この工事に携わる建築技術者と職人たちの心意気が伝わってきます

現場説明会午前の部は9:30に仮設現場事務所横に集合です。少し早めに行って待っていると津山市の城友(しろとも・お城好き仲間)さんが来てビックリ! 岡山県内外問わずとても多くの方から関心が寄せられているようです。参加者が集まったところで現場事務所にて工事内容に関する簡単な説明と注意事項のガイダンスがあり、A班・B班に分かれていよいよ見学のスタート。私たちはA班に同行させていただきました。
 
最初は天守と同時に整備をしている本丸下の段西側、内堀に面した外石垣の石垣保存修理工事現場へ。石垣工事の様子をレポートするのは、石工集団穴太衆さんです!

岡山城レポート,令和の大改修
内堀に面した外石垣の石垣保存修理工事現場

城びとアンバサダー・石工集団穴太衆です。早速、石垣保存修理工事を担当するアイサワ工業さんと岡山市の文化財課の方の案内で現場へ。

令和の大改修、岡山城
説明場所では工事担当の皆さんが作業中。ちなみにこの時、岡山藩に実在したといわれる忍者が一瞬現れました!

まずは工事担当者から「今回の保存修理は、内堀外石垣の老朽化や間詰石の沈下、落下、植栽木の根張りによる石垣の保護を目的とした工事です」という説明がありました。将来的にはこの石垣の上に土塀を復元するので、その基礎にもなることから補強も兼ねているそうです。
石垣保存修理は「石垣空隙充填工」と呼ばれる工法で行われています。ちょっと難しそうですが、実際に職人さんの作業を見学できたのでその様子を見てみましょう。

岡山城レポート,令和の大改修
石垣での作業の様子。想像していたよりも細かい作業が行われていました

上の写真の作業は、石垣の石と石の間にたまっている堆積土を表面から約25~40cm程度撤去後、混合樹脂が既設の石垣に直接接触しないように緩和材として不織布を設置し、その間に手作業で丁寧に混合樹脂剤を充填している状況です。充填された樹脂の表面仕上げは特殊な器具で凸凹に仕上げます。最後に、樹脂が固結する前にふるいにかけられた土を表面に散布して付着させ、堆積土感を出して仕上げとしています。後日、はみ出した不織布をカッターナイフで切断して完了。思ったより、とても細かい作業です。

そして、今回修理している石垣の反対側(城内側)には、土塁状に埋め立てられた場所があります。この場所は明治時代以降に埋め立てられたものと考えられ、平成27年(2015)9月から本丸下の段の発掘調査を行った結果、本来の石垣は今より2mほど奥にあり、高さ2.0m~2.5mほどの内石垣が良好な状態で残されていることが確認されました。

岡山城レポート,令和の大改修
(左)赤丸の部分が明治以降に盛られた土塁、(右)盛られた土を取り除き発掘された内石垣。平成27年(2015)10月24日の現地説明会に参加した時撮影したものです。今回この土を除去する土工事も行われ、埋もれていた石垣が露出する予定です

令和4年(2022)11月のリニューアルに向けて着々と工事が進み、工事終了後の岡山城の印象はがらりと変わると思います。地元民である私としては、「今後の建物や石垣の復元整備が行われて本来の岡山城の姿に少しでも近づければいいな」と思っています。

「岡山城令和の大改修」現場見学会~天守耐震工事~

岡山城

ここから再び、私、たけ◎曲輪衆がお伝えします。次はいよいよ天守へ向かいます。
担当者の説明によると、平成9年(1997)の改修時に天守最上層の一対の金鯱の裏面につけられた願いの込められた刻印が、天守に足場を組んでみて見つかったとのこと。内部で内装材を撤去すると、昭和41年(1966)の再建当初のレンガ積みの仕上げ材がそのまま出てくるなど予想外の発見もあったそうです。

見学会では天守入り口から中の様子を覗き見ることができ、見学者の皆さんは内装材がすべて取り払われてコンクリートがむき出しになった内部の様子を珍しそうに眺めていました。
興味深かったのが、外壁の黒い下見板部分。ここに使う黒い塗料が下の写真のように3種類試し塗りされていました。色はとても難しい問題ですが、まだどれになるか決まっていないそうです。さて、どの色になるのでしょうか?

岡山城レポート,令和の大改修
どの色になるのか楽しみです!

そして、天守同様耐震工事が行われる不明門をくぐって現場事務所へ戻り、場内を一周して見学が終わりました。

次に、見学では見られなかった部分を動画や図面を交えながら、再び現場事務所内で説明がありました。面白かったのは、現場と事務所をライブカメラでつなぎ、見学者のリクエストで最上層の鯱に発見された刻印と金箔の桃瓦を見られたこと。まるで最上層の足場の上に登っている感覚になりました。

岡山城レポート,令和の大改修
リアルタイムで足場の最上層にいるような気分に!

見学会が終わった後、岡山県内から来られていた小・中学生の兄弟と父親の3人連れのご家族に感想をお聞きしました。ご兄弟は「ライブカメラで見た金鯱がとても良かったです。石垣のところも良かったです。内部のレンガ積みは今しか見られないので貴重な体験でした」、お父様は「試験中にもかかわらず子供がどうしても行きたいというので来てしまいました。岡山城には何度か来ていますが、今日は普段は見られないところも見られたし、説明をお聞きしてお城の見方も変わりました。リニューアルしたら、また来て今日見たところがどう変わっているのか確認するのが楽しみです」とお話しくださいました。とても楽しくて、貴重な体験だったようです。

鉄筋コンクリート造城郭建築物の改修工事の難しさ

マンションや学校校舎などで普段行われる耐震補強工事や外壁改修工事は、耐震調査・外壁調査をして劣化箇所を見つけ、それぞれに適した工法で設計されて工事が行われます。
しかし、城郭建築物では外観が重視されるため、耐震工事では補強材を建物外部に取り付けたり造作したりすることはできません。建物内部の柱や梁の補強や、補強材の設置・造作も内部に限られた状態で建物の強度を増さなければなりません。だからこそ、建築技術者の腕の見せどころと言えます。
 
岡山城レポート,令和の大改修
見学後に紹介された、具体的な耐震工事の説明があった時の3D画像です。耐震ブレスの設置・柱や梁や壁の補強・増設など最新の技術で施工されます

外壁改修工事も漆喰のひび割れ・浮き部や欠落・鉄筋の露出した箇所を丹念に調査で見つけて一つひとつ補修していかなければなりません。
普通はスプレー缶を使い劣化箇所にマーキングしていくのですが、コンクリート造の不明門の外壁は漆喰です。そのため下の写真のように「色が浮いてくることを考慮して色のついたチョークでマーキングした」と担当の方からお聞きしました。普通の工事と違い細かい配慮が必要なのですね。天守も同様に外壁調査が行われたそうです。
施工も補修痕の残らないように細心の注意を要します。ここも職人の腕の見せどころです。

岡山城レポート,令和の大改修
チョークのマーキングの様子

そして、岡山城天守工事の難所は足場! 工事用の仮設足場工事も大変です。
まず、天守台は不等辺五角形で、北面では石垣の高さは14.5m、本丸御殿側の南・東面は低くなっており5m位。そして塩櫓の付属する西側には石垣はなく地面から直接立ち上がっていて、地表面の高さがすべて異なっています。
さらに、天守の1階は不等辺五角形で、2階は不等辺六角形、3階からやっと矩形(くけい。四辺形)になります。さらに、東西面には大きな入母屋の破風がそれぞれに2つもあり、西面にはプラスして塩蔵の破風も。
南北面は2重目の上に3階部分の出窓形式の大きな千鳥破風、3重目の上には5階部分の唐破風が。北面にはプラスして2階に唐破風があります。天守の中でも最高レベルの複雑な構造です。足場の組み上げに約2カ月かけて慎重に工事が進められたそうで、足場設計もさぞかし大変なことだったでしょう。

岡山城レポート,令和の大改修
一番複雑な構造の天守北面に設置された仮設足場。天守台石垣には石垣に傷がつかないように防護シートがかけられています

工事車両用の通路も、史跡を傷めないよう石段の上に真砂土を盛り、その上にコンクリートを流して保護しています。このように私たちの知らないところで最新技術を使い、細心の注意を払って工事が行われているのだとよく分かりました。

岡山城レポート,令和の大改修
土を盛るのもコンクリートも史跡を守るため!

今回の改修が終わってリニューアルオープンした時には、天守内の耐震補強工事が行われた場所はすべて内装材などで覆われ、私たちが目にすることはありません。外壁も補修された後、塗り直しや塗装されるので補修箇所もすべて消えます。もちろん足場や仮設通路なども撤去されます。

平成を見ても、大阪城天守閣、岸和田城天守、岡崎城天守、大垣城天守、富山城小田原城天守、岐阜城洲本城小倉城杵築城上山城唐津城が、さらに令和に入ってからも熊本城天守、小牧山城清洲城平戸城と、主だったものだけでも多くの天守・模擬天守が改修されています。長浜城福山城の天守も現在耐震工事の真っ最中です。

私たちが改修され完成した天守に行った時、天守などを見て「わぁ!綺麗になったねー」と一言で終わってしまいますが、その陰には建築技術者や職人たちの奮闘と努力で維持管理されているんだってことも忘れないようにしたいと思いました。

おまけ

現場説明会時には、岡山城が写った思い出の写真を一般から募集した「思い出の写真展」も開催中でした。展示された写真を見ていると、再建されてからずぅ~っと岡山のシンボルとしてあり続けた岡山城天守にたくさんの思い出が詰まっていることが伝わりました! 

岡山城レポート,令和の大改修
(左)中には戦災焼失前の天守の写真も!、(右)岡山城を中心に活動する「岡山戦国武将隊」。これから様々なイベントに出陣し、リニューアルされた岡山城でおもてなしをする予定だそう。

リニューアル後の岡山城は、天守内部の展示も一新されます。展示監修を務めるのは、テレビなどでおなじみ岡山市出身の歴史学者・磯田道史先生です。とても楽しい分かりやすい展示になりそうですね! そして「集う城」としての活用法も新しい試みでスタートします。リニューアルオープンが今から待ち遠しくて仕方ありません。

執筆・写真 / たけ◎曲輪衆(小野雅章)・石工集団穴太衆(岩本尚也)


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