2019/07/04
訪城数日本一の夫婦ウモ&ちえぞーに聞く城旅のコツ ⑦ 夏にオススメな城旅プラン
夫婦二人で6000近くの城を訪れているウモ&ちえぞーさんが、城めぐりの計画の立て方や山城の歩き方などをレクチャーする「ウモ&ちえぞー!に聞く城旅のコツ」。第7回は、夏でも楽しめるお城のめぐり方について。せっかくの夏休みにお城めぐりをしたいと考えている人へ、夏でも安全に楽しめる城を紹介します!
夏の山城は危険がたくさん!
冒頭から話の腰を折るようで恐縮だが、お城めぐりを夏に行うのはあまりお薦めできない。特に山城や、整備の行き届いていない中世城郭などへ夏に行くことは避けた方がよい。理由は簡単で、
・単純に暑い。熱中症の恐れがある。特に山城では異常に体力を消耗する
・草木が覆い茂って遺構が見づらい
・不快な虫やクモの巣が多い
などである。雪国以外は秋から春にかけての時期が冬枯れで遺構が見やすく、ベストシーズンである。しかしそうは言っても、夏休みを使ってお城に行きたい、なんとか夏でもお城を見たいという方もいるはずだ。
7月に撮影した菅谷館(埼玉県)。公園として整備され、土塁や堀などの遺構が楽しめる城なのだが、夏は草が生い茂り、堀の位置や深さがほとんどわからなくなっている
そこで「夏でも見れる・楽しめる」という観点でいくつかプランを考えてみたい。なお、移動手段は考慮していないので、車なのか公共交通なのか等、自分の場合に置き換えてプランニングしてほしい。
夏は近世城郭めぐりがオススメ!
まず何といっても、きちんと整備された近世城郭である。有名な近世城郭は史跡、城址公園などとして整備されていることが多く、オールシーズン楽しめる。それに冬枯れのシーズンは山城を優先しがち。そこで、オフシーズンの間こそ近世城郭をじっくり見てみたい。
近世城郭を夏にめぐる利点としては整備状態が良いという他にもメリットがいくつもある。まず、比較的都市部にあることが多いため、暑さでバテそうになったら飲食店やコンビニ、城跡に併設する施設などに逃げ込んで涼むことができる。歴史資料館や櫓などで涼みつつ見学もできる。また、石垣の写真は冬枯れよりも少し夏草が生えているくらいの方が写真映えすることも多い。自分なりのフォトジェニックな景色を探してみよう。さらに、近世城郭は一般的な中世城郭に比べて広大なので、中核部だけでなく市街地になっている外郭や門跡を歩いてみたり、武家屋敷や城下町とセットで楽しむのもおすすめだ。
具体的なプランとしては地域によって異なるが、たとえば2、3泊で旅行できる場合などは、四国で4つもある現存天守をまとめて制覇する、なんていう豪華な計画もよい。コース上には復元された有名なお城もいくつかあるので、道すがらに立ち寄りながら回るのも楽しい。
山城には適さない季節だが、そんな時こそよく整備された近世城郭をじっくり見よう。中でも現存天守がまとめて4つ見られる四国は魅力的だ。写真の丸亀城(香川県)では、小ぶりな天守もさることながら、山麓から山頂まで隙なく積まれた石垣が圧巻
超有名どころでは姫路城(兵庫県)。現存天守や櫓、門のある中核部は勿論だが、その周囲の広大な範囲に外郭の土塁、石垣、門跡、水堀などが残っている。建物、中核部に外郭をあわせれば、一日中楽しめるはずである。
世界遺産・姫路城の美しい天守や櫓の影に隠れて目立たないが、広大な外郭には石垣、土塁、門跡や中濠などが残っており、順々に見ていくと良い。写真は二重枡形を持つ車門
発掘や修復の様子が見られる城なども良い。静岡県の駿府城では現在本丸の発掘を行っており、巨大な天守台が出土していて度肝を抜かれる。青森県の弘前城では石垣修復工事のため天守を曳屋という工法で本来の場所からずらして置いており、珍しい光景が見られる。また、地震で大きな被害を受けた熊本城(熊本県)は被害状況や復興の状況などが見られる。痛々しくて楽しいという気分にはなれないかもしれないが、貴方自身が歴史の証人として見ておく価値があるだろう。いずれも、今しか見られない光景である。
戦国武将ゆかりの地を歩いてみよう!
お城をめぐる時は遺構を中心に見がちだが、夏の城めぐりでは、遺構はさておいてテーマを決めて歩いてみる、というアプローチもある。その中でもオススメは古戦場や、武将のゆかりの地を絡めた歴史散策である。この連載の3回目、武田信玄ゆかりの地めぐりや、4回目で紹介した三木合戦の付城めぐりなどもその一種である。ここでは夏場でも歩けそうな簡単な例をあげてみよう。なお当り前だが暑いので、しっかり水分補給して、休み休み歩こう。
①小田原城外郭を歩く
戦国ファンにはよく知られていることであるが、北条氏の時代の小田原城(神奈川県)は中核部だけでなく、現在の市街地を取り囲むように巨大な外郭=惣構が作られていた。小田原市内にはこの惣構の痕跡が所々に残っており、とくに「小峰台の大堀切」「蓮上院土塁」などは圧巻である。他にもあちこちに堀、土塁や説明板があり、全部見るには一日かかるだろう。一泊程度できるなら秀吉が築いた石垣山一夜城(神奈川県)、北条氏の菩提寺である早雲寺、さらに伊豆まで移動して山中城や韮山城(ともに静岡県)を見るなど、北条氏と小田原合戦ゆかりの地をいっぺんに回ってしまう贅沢な計画を組むこともできる。
小田原の市街地や丘陵上には中世小田原城の惣構の遺構が点々と残る。中でも巨大な小峰台の大堀切は必見。この他にも堀、土塁や発掘の模様を示す写真付き看板があちこちにある
②「のぼうの城」を歩く
もう一つの例として埼玉県の忍城を挙げておこう。ここは映画「のぼうの城」で有名になった場所で、石田三成の水攻めでも落城しなかったという面白いエピソードを持つ城である。忍城そのものは遺構に乏しいが、本丸には模擬三階櫓があり、中が資料館になっている。また少々マニアックだが、忍城の周囲の市街地・宅地にはかつて櫓や門があったことを示す石碑があるので、これらを探しながら歩くのも面白い。
そして三成が水攻めのために築いた土手である「石田堤」は必見だ。有名な水攻めの遺構が数か所に残っていて、解説板なども立っている。そして「さきたま古墳群」にある丸墓山古墳は、石田三成その人の本陣である。頂上から市街地をよく見ると、先ほど見た忍城三階櫓の上部が見え、気分は三成である。これで「のぼうの城」の世界を十分に楽しめる。さきたま古墳群自体も見ごたえのある遺跡なので見ていくと良い。
「のぼうの城」の舞台となった忍城、その忍城の水攻めのために石田三成が築いた「石田堤」と、本陣となった丸墓山古墳はぜひ見ておきたい。有名なエピソードを持つ合戦の現場をリアルに味わうことができる
このほか、大坂の陣ゆかりの地、島原の乱と切支丹遺跡めぐりなど、テーマに沿って古戦場や史跡を歩くのは大変有意義で楽しいものだ。ぜひ地図を片手にその地理や地形なども考えながら歩いてみてほしい。
どうしても山城に行きたいなら……東濃三名城めぐりをしてみよう!
「それでも山城に行きたい」という猛者のために、最後に名城ツアーの例を作ってみよう。ここで取り上げるのは岐阜県東部、東濃地方の三名城である岩村城、苗木城、美濃金山城である。岩村城は日本百名城、苗木城と美濃金山城は続百名城に選定されていて、非常によく整備されているので夏でも安心して見学できる。上手く移動すれば一日で見ることもできてしまう距離にある。
岩村城は本格的な山城で、誰が呼んだか「日本三大山城」のひとつとされる。車道を使って山頂近くまで車で行くこともできるが、ここはぜひ大手口から歩いて、途中の門跡なども見てほしい。山頂部は累々と連なる石垣、枡形虎口など見ごたえ十分、特にこの城の最大の特徴である六段石垣(六段壁)の造形などは印象的である。
東美濃3名城はいずれも日本100名城・続日本100名城に指定されていて、夏でも気持ちよく見学できる。岩村城は六段壁をはじめとする石垣が良好に残っており、織豊期から江戸初期までの石垣を楽しむことが可能だ
苗木城は木曽川に面した岩山にある。山城といっても登城口からあっという間に城内だ。最大の特徴は巨石をうまく使った石垣である。とくに大櫓と呼ばれる櫓台は、巨大な自然石の周りに実に器用に石垣を積んでいる。いったいどういう技術で作ったのか、驚きである。また展望台のある山頂も巨石がゴロゴロしており、その間を縫うように石垣や通路の石段が残っている。この巨石には懸造り(かけづくり)という工法で建てられた建物の柱跡もあるので見逃さないようにしたい。展望台からの木曽川や恵那山の眺めも最高だ。隣接する苗木遠山資料館の復元模型で独特な懸造りの様子も見ていこう。
苗木城本丸。巨石を使用した石垣が、他の城にはない独特の景観を生み出している
美濃金山城も出丸まで車道があり楽々登城できる。徒歩でも山麓から15分程度だ。もともと典型的な土作りの中世城郭だったものが、戦国末期に改修されて最新鋭の織豊城郭になり、さらに近世初頭に廃城となって破却された城である。破城の痕跡が明瞭で、まさにタイムトラベル感を味わえる城である。城内には至るところに崩された石垣や枡形虎口がある。地表面には建物の礎石、石敷きの水路跡や、建物の瓦片がみられるのでこちらも見逃さないようにしたい。
破城の痕跡が見られる金山城は織豊城郭の最終形を知るには絶好の城。枡形虎口や礎石建物跡も必見
ここに挙げた3城は夏でも十分回れるくらいきれいに整備されており、遺構も見やすい。ただしあくまでも山城だから、熱中症・脱水対策を万全にするとともに、蚊がいっぱい飛んでいるはずなので虫よけスプレーなども用意しておきたい。
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執筆/ウモ
新潟県出身。Webサイト「埋もれた古城」管理人。城めぐりを趣味としており、ちえぞーさんと一緒に年間約500城(再訪含む)をめぐり、これまでに約6000城に訪城している。主な執筆協力に『図説 茨城の城郭』(国書刊行会)、『廃城をゆく』シリーズ(イカロス出版)、『完全詳解 山城ガイド』(学研)など。