2019/10/18
ウモ&ちえぞー!に聞く城旅のコツ ⑨ 個性豊かな山城に出会える信州をめぐる
夫婦二人で6000近くの城を訪れているウモ&ちえぞーさんが、城めぐりの計画の立て方や山城の歩き方などをレクチャーする「ウモ&ちえぞー!に聞く城旅のコツ」。第9回は、多数の山城を擁する信州の名城を紹介。地形を活かした縄張を持つ城や有名武将と縁が深い城など、山城大国信州の名城の見どころをウモさんが解説します!
山城の聖地・信州!
山々に囲まれた信濃国(長野県)は山城天国だ。点在する盆地の周囲の山々にはズラリと山城が並び、峰ひとつに城ひとつがあると言っても過言ではない。時には一回の登山で何城も縦走して歩くこともできる。そして多くの信濃の山城の特徴として、巨大な堀切や竪堀が連続したり、独特な石積み・石垣が見られたり、主郭を高い土塁が完全に巡っていたりと、総じて遺構のレベルが高く見応えがある。武田信玄、上杉謙信、真田一族など有名な武将たちゆかりの城も多い。ここでは、秋から初冬にかけて、一級品の信濃の山城を堪能できる贅沢な計画をご紹介したい。
戦国の名将!真田の山城
信濃の東部、佐久郡や小県郡は甲斐の戦国大名、武田信虎・信玄が最初に攻め込み、これに抵抗する国衆らと激しい攻防を繰り広げた土地である。そのためか付近には大小数多くの城があり、実戦の記録がある城も少なくない。戦国時代に頭角を現し、真田昌幸や信繁などの名将を世に出した真田氏も、東信濃の中小土豪の一つだった。その真田氏の本拠地が、上田市の旧真田町の盆地である。訪れてみると至る所に真田氏の家紋である六連銭の幟がはためいていて気分が高揚する。
山城もいいが、まずは平城の真田氏館(お屋敷)を訪れてみよう。ここは真田氏の居館とされており、よく整備されている。周囲を土塁が囲み、虎口も明瞭だ。北西隅には土塁に囲まれた厩とされる珍しい遺構も見られる。隣接する真田氏歴史館に立ち寄るのも良い。
この真田氏館から北に約1㎞歩いた場所に、山城の真田氏本城がある。搦手に車道が通っており、城内も綺麗に整備されているので楽々登城できる。本丸には大きな土塁があり、そこから曲輪が段々に続く。何よりもここからの眺望は素晴らしく、真田の盆地一帯から、遠く上田の市街地まで見渡せる。山城として素晴らしい立地だという事を体感できる。
(左)真田氏館、通称お屋敷の東門。お屋敷公園として整備されており、周囲の土塁が良く残る。北西隅には厩跡とされる珍しい遺構もある/(右)真田氏本城から見る真田の盆地。真田氏の領土全体を見渡せる絶好の位置だという事が分かる
真田の盆地の一番奥に鎮座するのが松尾古城だ。遠目に見てもいかにも険しい、刃のような山容が目につく。山麓の日向畑遺跡から登山道が整備されているが、比高約200mのきつい登りだ。息を切らせて登っていくと、やがて目の前に道をふさぐように並ぶ石積みが現れる。ここから主郭にかけて、独特な石積みが多数用いられている。とくに主郭はグルリと石積みが囲い、さながら石の砦である。さらに搦手は巨大な堀切と竪堀で断ち切っている。
数ある信濃の山城でも筆頭クラスの歴史上重要な城が戸石(砥石)城である。天文19年(1550)、武田信玄はこの砥石城を攻めて大敗、人生最大の負け戦となり「砥石崩れ」といわれた。あの武田信玄を撃退した堅城なのだ。
神川沿いの陽泰寺奥からの大手道からの登山道の他、南側の住吉地区の模擬櫓門がある登山口からの登城が便利だ。この砥石城は本城を核に、最高所の桝形城、見晴らしの良い戸石城、出城の米山城からなる複合城郭であり、規模も大きい。本城は高い切岸で囲まれ、虎口付近には石積みがある。
搦手は土塁と堀切で分断される。桝形城は最も標高が高く、真田の盆地を見渡せる。南端の戸石城は南側の上田市街地側の眺望に優れている。米山城は僅かな石積みと曲輪程度の簡素な城だが、村上義清の顕彰碑が立っている。付近の山城の中でも群を抜いて大きな城なので、半日くらいは時間を取っておきたい。その他、付近には真田氏ゆかりの小規模な山城や寺社、史跡が多数あり、全部回るには数日かかる。まずは欲張らずに1、2日で歩ける計画を立ててみよう。
(左)松尾古城の主郭周囲の石積み。信濃の山城でよくみられる、平べったい石を交互に積む独特の技法によって作られている/(右)村上義清の顕彰碑。義清は武田信玄を2度撃退した名将だ
激戦! 川中島の山城
武田信玄と上杉謙信が激しく争った川中島。千曲川と犀川の合流点付近から広がる平地で、現在の長野市を中心に坂城町、千曲市から飯山市あたりまでの地域が激戦地だった。有名な第四次川中島合戦の古戦場公園などもある。そしてこの盆地の周囲にはビッシリと山城が並んでいる。これらの中でも行きやすくて見ごたえのある城を紹介しよう。
旭山城は第二次・第三次川中島合戦で登場する城である。もともとは地元勢力の城であったようだが、武田氏が改修し、さらに甲越両軍の取り合いにより要塞化した。城は市街地から比高500mもあるが、南側の旭山観音堂付近から登山道を使えば比高150m、20分ほどで行ける。旭山城の主郭は低い土塁が巡り、周囲は崩落した石積みがグルリと巡る。主郭周辺や尾根には大きな堀切が設けられ、一部には横堀状の遺構も見られる。東端の物見からは長野市街地や川中島一帯が一望に見渡せる。
旭山城から裾花川を挟んで対峙するのが葛山城である。こちらももともと在地の城であったものが、甲越両軍の取り合いの中で巨大山城となったものである。南側の静松寺から、もしくは北側の葛山神社から登るのが便利だ。城は主郭を中心にT字型の尾根に築かれており、各尾根に多数の堀切、曲輪がある。中でも東側の尾根には何重もの堀切と竪堀が連続していて、山全体が凸凹になっている。この城の一番の見どころだ。主郭から南側にはわずか2㎞ほどの距離で旭山城がよく見える。両軍がこんな近距離で対峙していたことに驚く。
(左)旭山城の石積み。主郭の周囲は低い土塁で囲まれ、その周囲には崩れた石積みが多くみられる。巨大な堀切・竪堀なども見どころ/(右)葛山城の主郭の東尾根には堀切が何重にも刻まれている。一説に、堀切ではなく破城の跡という説もある
このほか、大峰山城、桝形山城、若槻山城、髻山城など、見ごたえのある山城がズラリと並んでいる。また千曲川の東岸には、尼巌城、鞍骨城など、少々難易度の高い山城もある。全部いっぺんに回るのは不可能なので、じっくり行こう。
小笠原帝国の山城
現在の松本市周辺は信濃守護であった小笠原氏の本拠地だ。黒い現存天守が人気の松本城も、もともとは小笠原氏の支城のひとつに過ぎなかった。その小笠原氏の戦国時代の本拠は現在の市街地から少し東に行った山地にある林城である。この林城は大城、小城の2つの山城が並ぶ複合城郭である。比高約200mの本城は大城で、北西の金華橋の袂から登れるほか、道が荒れているのでRV車限定となるが、東側の橋倉集落からの林道で主郭のすぐ下まで行くこともできる。広い主郭は土塁で囲まれ、所々に石積みもある。尾根続きとなる搦手には堀切を配し、山麓側の大手道沿いには数多くの曲輪と要所には堀切・土橋などがある。非常に規模が大きく、守護小笠原氏の力を見せつけられる思いがする。
大城の南西、比高約160mの小城は大城に比べて規模は小さいが、主郭の高い土塁やぐるりと取り巻く石積み、堀切や連続竪堀など、大城以上に見応えがある城だ。近年、大嵩崎集落側から登山道が整備されたので見学もしやすい。
小笠原の城郭群でも抜群の見応えがあるのが桐原城だ。比高200mほどの険しい山の端に築かれており、約30分の険しい登りとなるが、途中に二重堀切や虎口、林城と共通する多数の曲輪が現れ、疲れている暇がないほどである。そして圧巻は主要部の曲輪群で、いたるところに石積みが築かれている。これらは切岸上部の「鉢巻き石垣」と切岸下の「腰巻石垣」が混在しており、各曲輪の周囲の他に堀切に面した切岸や、小型の桝形虎口なども用いられていた。主郭は高い土塁が囲み、その周囲を見事な石積みが囲っている。さらに尾根続きの搦手側は巨大な堀切と竪堀が幾重にも続き、竪堀は山肌を切り裂きながら山麓近くまで続く。石積みの見事さとともに、圧倒的な土木量にも注目してほしい。
(左)林小城の石積み。隣の林大城が本城であり、小城はその支城であるが、主郭の石積みや土塁、連続竪堀など、むしろこちらの方が見ごたえがある/(右)桐原城主郭周囲の石積み。主郭だけでなく全体に腰巻・鉢巻の石垣が多用されている。その他、連続堀切や巨大竪堀、主郭の土塁など縄張り自体も見応えが多い
その他、小笠原城郭群のなかでも東端に位置する山家城は二つの城が連結したような構造で、石積みのある下の城の主郭から、圧巻の五重堀切を経て最高所の上の主郭へと至る。各尾根には堀切や長大な竪堀を配しており、さながら巨大な要塞である。
巨大な要塞といえば埴原城がとどめだ。比高200m、主郭の標高は1000mを越える。登山道の途中から多数の堀切や竪堀が見られ、息つく暇もない。主郭は桐原城と似た土塁や石積みがあり、この辺りの城には共通した様式が見られることがわかる。そして搦手の尾根や、各方面の尾根には数多くの堀切や竪堀がある。とにかく広い城なので、一通り見るには半日は確保しておこう。
城攻めの前に…
他にも、武田信玄の最初のライバルとなった村上義清の葛尾城、模擬櫓や模擬建物がならび、数々のドラマのロケ地にもなった荒砥城、伊那地方の河岸段丘の城など、信濃は魅力的な城にあふれていて、山城の聖地と言っても過言ではない。
櫓などの建物が整備された荒砥城では、戦国時代の雰囲気を味わえる
ただし、比高200mクラスはザラで、300m、400mクラスの城も少なくない。標高も高いので平地に比べ気温が低く、急に天候が変わることもある。岩場や崖に囲まれている城もあり、見学には相応の体力とスキルが求められる場所が多い。欲張らず、無理のない範囲での見学を心掛けよう。また、地域によっては秋の松茸シーズンとなり全面的に止山(立ち入り禁止)になる山城もある。
自分が行きたい城が止山になっていないかどうか、事前に確認することをお薦めしたい。また、自然豊かな信濃の山々にはツキノワグマやカモシカが普通に生息している。過度に恐れる必要はないが、クマベルなどの最低限の装備を忘れないことや、動物に対する対処法など最低限の知識を事前に勉強しておいたほうがいい。
これらは別に信濃の山城に限ったことではなく、どんな城でも身に着けておくべきスキル、知っておくべき知識だ。素晴らしい山城に行く前にもう一度基本を再確認しよう。
それでは、ベストシーズンに極上の信濃の山城を存分にお楽しみいただきたい。
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執筆/ウモ
新潟県出身。Webサイト「埋もれた古城」管理人。城めぐりを趣味としており、ちえぞーさんと一緒に年間約500城(再訪含む)をめぐり、これまでに約6000城に訪城している。主な執筆協力に『図説 茨城の城郭』(国書刊行会)、『廃城をゆく』シリーズ(イカロス出版)、『完全詳解 山城ガイド』(学研)など。
写真提供/ウモ、かみゆ歴史編集部