2019/12/25
ウモ&ちえぞー!に聞く城旅のコツ ⑩ 絶景を楽しむ! 富士山が見える山城
夫婦二人で6000近くの城を訪れているウモ&ちえぞーさんが、城巡りの計画の立て方や山城の歩き方などをレクチャーする「ウモ&ちえぞー!に聞く城旅のコツ」。城巡りの醍醐味は縄張や歴史などたくさんありますが、山上からの景色は格別。第10回では、富士山が見える絶景の城をちえぞーさんが紹介します!
山城を登るのはしんどいけれど、素晴らしい眺望に疲れが吹き飛んだという経験は誰にでもあるだろう。特に空気が澄んでいる冬場は、お城からの景色も楽しみの一つという人も多いだろう。今回は、その中でも富士山を望めるお城を紹介しようと思う。
富士山と青木ヶ原樹海が眼前に広がる本栖城
富士山といって真っ先に思い浮かぶお城は山梨県の本栖(もとす)城である。ここは樹海越しに富士山が見渡せるのが他に類を見ない特徴だ。圧倒的なスケール感で、このパノラマを見るためだけに訪れる価値があるといっても過言ではない。
左/主郭からの光景。樹海の緑色と山頂の白の対比が鮮やかだ 右/狼煙台跡の石積み。溶岩をL字型に積んだ珍しい石積みである
城は尾根上に曲輪を配し、堀切で尾根を断ち切った構造だ。東西の尾根には連続堀切が穿たれているが、特に岩盤を掘削した大堀切が見所である。更に溶岩が積まれた石積みが点在するのも珍しい。西端には狼煙台があり、そこにも溶岩の石積みが見られる。甲斐と駿河を結ぶ中道往還(なかみちおうかん)という街道が山麓を通っており、この街道を監視する役割を果たしていたと考えられる。また、山麓には桝形状に構築された石塁や、国道の先には信玄築石という長々と続く石塁もある。樹海というと危険なイメージを持つ方もみえるだろうが、遊歩道が整備されているので安心して散策することができる。
武田氏流の縄張が味わえる深沢城
深沢城(静岡県)は抜川と馬伏川が合流する河岸段丘上に築かれている。雄大な富士山を登る苦労もなく間近に望むことができるのがありがたい。城は北から本丸、二の丸、三の丸と続くが、曲輪が広く農地となっている部分も多いため全体を把握しづらいかもしれない。
左/深沢城には、武田氏時代に構築されたと考えられている三日月堀や丸馬出が残る 右/富士山のお膝元・御殿場に築かれた深沢城からは、四季によって異なる富士山の姿を見ることができる
丸馬出や三日月堀といった武田氏流の縄張が見られ、堀の規模に驚くことだろう。特に入口に立つ石碑の道路西側にある三日月堀は幅が広く、ここから西方に大きな富士山を望むことができる。戦国時代には北条氏と武田氏が争奪戦を繰り広げており、元亀元年(1570)、北条綱成(つなしげ)が守備する深沢城を武田信玄が大軍で包囲し、開城を勧告した「深沢矢文」が有名である。
北条氏の水軍城・長浜城
眼前の駿河湾越しに富士山を眺めることができる長浜城(静岡県)は、北条氏が武田水軍に備えるために築き、水軍の根拠地の一つとした。現在、公園整備され見学しやすくなっている。内浦湾に突き出た岬に築かれ、L字形を成し、北側と南側で造りが異なる。南側は東西に曲輪が連なり、各曲輪を堀切で遮断し、曲輪内には土塁が取り巻くなど山城の様子を呈する。掘立柱建物跡を明示した二曲輪から一曲輪へは、復元櫓から往来する構造になっているのが興味深い。一曲輪からは北へ向かって段々に曲輪が連なり、どこからでも北方に富士山が見られる。北側は海に面して海城の様子を呈し、原寸大の安宅船を地表面に復元しているのも面白い。今はヨットハーバーになっているが、往時の船着き場の様子が見られるのも水軍城ならではである。
左/駿河湾越しに望む富士山は、他の城とはひと味違った趣だ 右/二曲輪と一曲輪をつなぐ復元櫓
静岡と神奈川の県境に位置する足柄城
静岡県小山町と神奈川県南足柄市の境に位置する足柄峠を監視する城で、現在も領有権を毎年両者の綱引きで決めているのが面白い。別名霞城といわれるだけあって、雲や霧が発生しやすく、距離は近くても富士山を眺められるチャンスは意外と少ない。だが、運が良ければ一曲輪の石碑が立つ場所から、裾野まで広がる美しい姿の富士山が見られる。
左/本曲輪からの光景。西側にある石碑のあたりで撮影するのがベストショット 右/本曲輪と二曲輪を断ち切る堀切
主要部は城址公園として整備されている。道路がすぐ近くを通っているため一曲輪へ簡単に訪れることができる。ここから北へ向かって五曲輪まで連なり、曲輪と曲輪を隔てる大きな堀切が見所だ。豊臣秀吉の小田原征伐に備え北条氏が城を大改修しており、現在見られるのはその姿と思われる。道路の反対側には足柄関所跡や足柄古道が通っているので、これらも見学していこう。
遠くても富士山が見える飛山城
かなり距離があるが、条件さえ揃えば富士山が拝めるという栃木県の飛山城。私は残念ながら見たことはないが、晴れた真冬の早朝か夕方にチャレンジしてみてはいかがだろう? 城は飛山城史跡公園として整備され、堀や土塁の様子が分かりやすい。櫓台を外へ張り出させ、堀を屈折するなど、横矢を掛けた構造に感心する。北から西にかけては鬼怒川が天然の堀となし、東と南は二重堀を築いて守りを堅固にしている。掘立柱建物や中世竪穴建物を復元するなど、往時の様子も分かりやすく、併設された「とびやま歴史体験館」で歴史や文化を学ぶこともできる。
左/公園として整備された城内は、土塁や堀などの遺構が観察しやすくなっている。写真は櫓台跡 右/発掘調査を元に復元された竪穴建物。城内には他にも掘立柱建物などが復元されている
この他にも富士山が楽しめるお城は沢山ある。特にお膝元の静岡県は、興国寺城、戸倉城、山中城、韮山城、大見城、金山城など列挙しきれないほどである。また、山梨県では甲府城、岩殿山城、若神子城もお勧めである。千葉県の関宿(せきやど)城では、利根川の対岸(茨城県側)から富士山を背景に模擬天守型の博物館を見ることができる。遠方では、長野県の富士見城がその名の通り富士山が見えるという。眺望が素晴らしい群馬県の太田金山城からも富士山が見えることがあるという。
左/山中城岱崎出丸からの光景。標高約580mに位置するが、整備が行き届いているので登りやすい城だ 右/伊豆金山城からの眺望。冷えた溶岩でできた岩山で、ロッククライミングスポットとしても人気である
富士山が見えるととても嬉しくなり、それだけで何か良いことがあったと幸せな気分になるのではないだろうか。是非ともお城と富士山の両方が楽しめる欲張りなお城巡りをしてみて欲しい。
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執筆・写真:ちえぞー
愛知県出身。Webサイト「ちえぞー!城行こまい」管理人。城めぐりを趣味としており、ウモさんと一緒に年間約500城(再訪含む)をめぐり、これまでに約6000城に訪城している。主な執筆協力に『廃城をゆく』シリーズ、『あやしい天守閣』、『“復元”名城 完全ガイド』(いずれもイカロス出版)、『完全詳解 山城ガイド』(学研)など。