理文先生のお城がっこう 歴史編 第20回 戦国時代の攻城戦と籠城

加藤理文先生が小・中学生に向けて、お城のきほんを教えてくれる「お城がっこう」の歴史編。20回目の今回は、多くの戦国大名たちは、領国を守るために国境付近に城を築き上げましたが、当然のように区域の境界線で城を巡る戦いが起こりました。どのような戦いが繰り広げられたのでしょうか。



■理文先生のお城がっこう
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戦国時代になると、「領国(りょうごく)」と呼ばれる領土(りょうど)を多く持つ領主(りょうしゅ)が、国内のいろいろな地方で力を発揮(はっき)するようになりました。甲斐(かい)の武田氏(たけだし)、越後(えちご)の上杉氏(うえすぎし)などです。こうして地方で力を蓄(たくわ)えた領主たちは、支配する土地をもっと多くしようと他の国へと攻め込むことになります。当然、そこでは戦いが繰(く)り広げられます。さらに戦闘(せんとう)が繰り返され、徐々(じょじょ)に小さな勢力(せいりょく)は追い払(はら)われ、ある程度(ていど)の規模(きぼ)の領国を支配するようになった大名が登場してきます。こうして支配(しはい)、または勢力下(せいりょくか)に置(お)く領域(りょういき)を広めて、地方の政治(せいじ)を行う領主は、やがて戦国大名(せんごくだいみょう)と呼(よ)ばれるようになります。

高根城
遠江・信濃の国境の峠越えの安全確保(かくほ)を目的に築かれた高根城(静岡県浜松市)。遠江の最北端(さいほくたん)の国境の峠道(とうげみち)を押(お)さえる目的が考えられます

国境を守る、国境を攻める

自分たちの領国の守りを固(かた)めるために、多くの戦国大名たちは国境(こっきょう)付近(ふきん)の軍事(ぐんじ)・交通・産業(さんぎょう)のうえで大切な地点に多くの城(しろ)を築(きず)き上げました。当時、生活や活動のために必要な品物・資材(しざい)を運ぶために最(もっと)も多く使われたのは河川(かせん)でした。米や木材(もくざい)といった荷物(にもつ)を運ぶためには、険(けわ)しい山道を歩く陸上交通よりも、水運の方がはるかに速く容易(ようい)であったことから、ほとんどの河川が、現在の道路の役割(やくわり)を持っていました。

人や貨物(かもつ)を運ぶ重要(じゅうよう)なルートとして、河川や海上交通が利用されたのです。今のように、陸上交通が中心ではなかったのです。主要な輸送路(ゆそうろ)であった河川や海上交通はもとより、陸上交通を含めてすべての輸送路を押さえることが求められたため、城は数多く築かれることになりました。こうした城は、自分たちの領域を守るための城であり、国境の守りを固めるための城でした。そのため、城は敵(てき)に攻(せ)められても耐(た)えることができるような姿(すがた)になったのです。

各地の戦国大名たちが、領国を守るために、こぞって国境付近に城を築き上げていったことにより、当然のように戦いはそれぞれの戦国大名の、支配または勢力下に置く区域の境界(国境)付近で起こることになります。簡単(かんたん)に言うなら、国境付近の城を巡(めぐ)る戦いにならざるを得(え)なくなったのです。

美濃金山城
美濃金山城(岐阜県可児市)は、木曽川水運を頻繁(ひんぱん)に利用したため、本丸から川港が一望(いちぼう)されます。木曽川は、当時米や木材といった荷物を運ぶ大動脈(だいどうみゃく)でした

たとえば、境界(きょうかい)にある城が敵方に攻められたとします。味方は、当然その城の救援(きゅうえん)に向かいます。こうした敵に囲まれた城の救出戦を「後詰(ごづめ)」と呼びます。城を奪(うば)いに来た軍隊は、後詰が来ることを見越(みこ)して、城攻めを一時中断(ちゅうだん)して、助けに来た軍隊に勝つことが出来れば、拠点(きょてん)の確保に成功することになります。逆に、助けに来た軍隊と戦っているうちに、城から出てきた軍に攻められ、挟(はさ)み撃(う)ちになって負けてしまえば、勢いに乗った軍隊が領国に攻め込んで来る危険性(きけんせい)もあったのです。

このような戦いの例(れい)を見てみましょう。遠江(とおとうみ)高天神城(たかてんじんじょう)静岡県掛川(かけがわ)市)や二俣城(ふたまたじょう)(静岡県浜松市)を巡る武田・徳川(とくがわ)の攻防戦(こうぼうせん)がこれにあたります。

天正2年(1574)、高天神城では、武田勝頼(たけだかつより)の攻勢(こうぜい)に対し、徳川家康が援軍(えんぐん)(後詰)を送ることが出来ず、遂(つい)に城を開けて降伏(こうふく)することになります。

逆に、徳川方に囲まれ籠城戦(ろうじょうせん)(城を拠点に立てこもり(籠城)、守りを固めて戦うことで、攻め手の食料や武器が不足し引き払ってしまうまで待つ戦いです)を繰り広げた高天神城に対し、勝頼は援軍(後詰)を派遣(はけん)できず、天正9年、最後は全軍城を討(う)って出て、気の毒(どく)で見ていられないほど痛(いた)ましい最後を遂(と)げることになりました。

天正3年、長篠城(ながしのじょう)(愛知県新城市(あいちけんしんしろし))を巡る攻防戦も同様ですが、この時は、後詰に来た織田(おだ)・徳川連合軍(れんごうぐん)が、野戦(やせん)(山野で行う戦いのことです)で武田軍を完全に打ちのめしてしまいます。これによって、武田氏は力を落とし滅亡(めつぼう)への道を進んでしまうことになったのです。

長篠合戦で最大の激戦地であった設楽原
長篠合戦で最大の激戦地(げきせんち)であった設楽原(したらがばら)を見る(馬防柵が復元(ふくげん)されています)。武田軍は、織田・徳川連合軍の鉄砲(てっぽう)による攻撃になすすべもなく、あたり一面戦死者(せんししゃ)でいっぱいだったと言われています

短期戦と長期戦

城を攻める戦いは、短期間で勝敗(しょうはい)を決める短期戦と長い日数をかけて戦い続ける長期戦に分けられますが、短期戦の場合は、圧倒的(あっとうてき)な数の兵力(へいりょく)と兵器(へいき)の差によって力づくで攻め落とすか、城に籠(こも)っている兵たちの命(いのち)を救(すく)うことを約束したうえで、城を明け渡(わた)すように説得(せっとく)することが中心だったのです。あるいは、奇襲(きしゅう)夜襲(やしゅう)(敵の予期しない時期・場所・方法により組織的な攻撃を加えることです)によって敵方(てきかた)の思いもよらないところから攻撃(こうげき)をしかけることも多く見られます。

織田信長による上洛(じょうらく)(都へ上ることです)戦は、圧倒的な兵力差で、六角方の箕作城(みのつくりじょう)(滋賀県東近江市(しがけんひがしおうみし))を夜間の不意打ち(ふいうち)と火攻めによって数時間で落城(らくじょう)させると、和田山城(わだやまじょう)(東近江市)兵も逃げて身を隠(かく)してしまいます。長期戦を予想(よそう)して計画を立てていた六角義治(ろっかくよしはる)は、戦いが開始されてから一日も立たずに箕作城と和田山城が落ちたことを知ると、居城(きょじょう)観音寺城(かんのんじじょう)(滋賀県近江八幡市(おうみはちまんし))をすてて、目立たないようにして落ち延(の)びています。

対して、城を守る側が周囲(しゅうい)の地形を上手く利用し、城の周囲に万全な守りを固めるための施設(しせつ)を造り上げ、奇襲や挟み撃ちなど、地の利(ちのり)を生かしたゲリラ戦を展開(てんかい)し、城を攻めてきた敵を圧倒することもありました。第一次上田合戦(だいいちじうえだがっせん)などは、その特徴(とくちょう)をよく表している城を守る側の作戦勝ち(さくせんがち)で、対抗策(たいこうさく)を見出せない徳川軍は撤退(てったい)せざるを得なくなったのです。

観音寺山城
六角氏の居城・観音寺山城(右側の高い山)。観音寺山と安土山の間が、当時のルートの関所(せきしょ)的役割(やくわり)を担(にな)う場所でした

長期戦の中心を占(し)めるのは、敵方の周囲に付城(つけじろ)(重要な場所に築いた臨時的な城のことです)を築き囲い込み、足りなくなった食料や武器を補(おぎな)うための道や逃げ道(にげみち)を完全に止めてしまい孤立(こりつ)させることが多く見られます。干殺(ほしごろ)しと呼ばれる兵糧攻め(ひょうろうぜめ)(敵の食糧が足りなくなった分を補うためのルートを断ち、兵糧を不足させることによって打ち負かす攻め方です)が最も代表的な長期戦にあたります。

羽柴秀吉(はしばひでよし)による城攻めは、この戦法(せんぽう)が多く使われています。三木城(みきじょう)(兵庫県三木市)攻め、備中高松城(びっちゅうたかまつじょう)(岡山県岡山市)水攻め(みずぜめ)(川をせき止め、敵の城の周囲を水浸しにして孤立させる攻め方です)鳥取城(鳥取鳥取市)兵糧攻めなどがこれにあたります。戦国時代を終わらせた小田原合戦(おだわらがっせん)も、籠城戦の一つです。

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足守川(あしもりがわ)を堤防(ていぼう)で堰(せ)き止め、高松城(たかまつじょう)を水攻めにして降参(こうさん)させました。(作画:香川元太郎)



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加藤理文(かとうまさふみ)先生
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公益財団法人日本城郭協会理事
(こうえきざいだんほうじん にほんじょうかくきょうかい りじ)
毎年、小中学生が応募(おうぼ)する「城の自由研究コンテスト」(公益財団法人日本城郭協会、学研プラス共催)の審査(しんさ)委員長をつとめています。お城エキスポやシンポジウムなどで、わかりやすくお城の話をしたり、お城の案内をしたりしています。
普段(ふだん)は、静岡県の中学校の社会科の教員をしています。

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