2019/05/21
訪城数日本一の夫婦ウモ&ちえぞーに聞く城旅のコツ ⑥ 横堀がスゴい! 関東の城
夫婦二人で6000近くの城を訪れているウモ&ちえぞーさんが、城めぐりの計画の立て方や山城の歩き方などをレクチャーする「ウモ&ちえぞー!に聞く城旅のコツ」。第6回はちえぞーさんが、これまで訪れた関東の城の中から、横堀が見事な城をセレクト。迷路のように堀が入り組む小幡城や、深さ15mを超える横堀を持つ箕輪城など、その規模の大きさには圧倒されること間違いなしです!
愛知県出身の私は、初めて関東の城巡りをした際、それまで見たことがない規模の空堀を持った城がゴロゴロと存在することに驚嘆した。それまでは石垣が好きだったのだが、関東の城を見てからというもの、すっかり空堀に魅了されてしまった。そこで、今回は空堀の中でも特に素晴らしい横堀が見られる関東の城を紹介したいと思う。
[小幡城(茨城県)]侵入者を惑わす堀底道
城の北側にある駐車場から少し歩くと登城口となる。ここに立った瞬間、異次元の世界に入り込んだ錯覚を覚える。そこは幅約15m、高さ10m程もある堀底だ。歩を進めども延々と土の壁に囲まれ、どこをどう歩いているのかさっぱり分からなくなってしまう。更に堀底道は屈曲し、先が見通せないようになっている。曲輪の隅部を張り出させたり、土塁を折り曲げる横矢掛りの工夫もある。これらは、死角を無くし、側面からも攻撃できるようにするためだ。主郭の周囲に横堀が巡り、北側は特に堅固な造りで二重堀になり、間の土塁も高く櫓台もある。その外側に配置された曲輪にも横堀が張り巡らされている。
櫓台跡と本丸を隔てる堀。複雑に屈曲する堀底道は、縄張図なしに入れば容易には抜け出せなさそうだ
まさに巨大迷路で、侵入者は本来の登城路が分からず堀底道を進むしかないだろう。そして、進路に迷い右往左往しているうちに、土塁上から簡単に狙撃されてしまう仕掛けだ。今すぐ現役として使えるほど遺構の保存状態が良く、堀底道を歩いていると不安に駆られてくる。また、堀底だけでなく土塁の上も歩いて、どこからでも堀底の敵を狙えることも確認して欲しい。
[滝山城(東京都)]城外と城内を隔てる長大な横堀
滝山自然公園として整備され見学しやすくなっている。南西の大手口から見学するのが一般的で、近くに駐車場やバス停もありアクセスも良い。広大な城域に配置された各曲輪に、大規模な横堀が張り巡らされているのが特徴である。是非、縄張図を持って散策しよう。大手口から入るとすぐ左手に小宮曲輪があるが、まずは本丸方面を目指そう。少し進むと今度は右手に深さ10m程の巨大な空堀が見えてくる。三の丸を囲む横堀で、更に千畳敷の南から東へと長々と続く。
小宮曲輪の長大な堀は、城域西側の斜面を遮断している
その先の二の丸は尾根が集まる重要な場所で、周囲に桝形虎口や馬出しを多用し、横矢をかけ空堀を屈曲させるなど守りを堅固にしている。このように進路を複雑にすることで敵を迷い込ませ、動きを制限するとともに、城内の様子を見通せないようにしている。また、色んな場所から攻撃ができたり、不意な出撃も可能にするなど、防御力と攻撃力を兼ね備えた構造だ。この二の丸を取り囲む横堀は特に幅も広く、20mはあるかと思われる。二の丸の北に中の丸、本丸が続くが、この間の堀切も巨大で驚くだろう。また、二の丸から東尾根へ進むと信濃曲輪をはじめ屋敷が連なるが、この先にも巨大な堀切がある。最後に小宮曲輪から山の神曲輪を見学しよう。小宮曲輪の西から南にかけて延々と続く堀はまさに横堀天国で、大満足になること間違いなしだ。
[村上城(栃木県)]侵入者を阻む急傾斜の堀
観音山に築かれた東西約200m、南北約250mと、今回紹介するお城の中では、比較的小規模な山城である。郭の一角には観音堂が建ち、本丸は梅林となっているため、山城といってもお手軽に訪れることができる。本丸の虎口は桝形となっており、本丸は歪な三角形で土塁が取り巻いているが、削平が甘く傾斜している。
この本丸を巡るように穿たれた横堀に、誰もが驚くだろう。鋭いV字形の薬研堀になっているのだ。最大箇所で深さ約3m、幅約5mと飛びぬけて規模が大きいわけではないが、急傾斜のため圧迫感がある。堀からよじ登るのが難しく、堀底が狭いため通行も困難になっている。折れも伴っており、見通しが悪い中でもたついている間に槍に突かれてしまうだろう。遺構の状態は良好で、梅林となっている本丸からは想像だにしなかった見事さだ。更にこの外側にも不整な三角形の二辺を描くように横堀が二重に巡っている。こちらも薬研堀となっている上に、折れも入っていて見応えがあるが、未整備のため残念ながら見学はしづらい。
本丸をめぐる堀は残存状況がよく、薬研堀の形状がしっかりと観察できる
[箕輪城(群馬県)]1度落ちたら登れない深堀
城域は広大だが、広範囲にわたって散策コースが設置されていて歩きやすい。搦手側に駐車場が完備されており、搦手口から登城すると良いだろう。すぐに二の丸に至り、この北側に本丸、大きな井戸がある御前曲輪と続く。この本丸と御前曲輪を取り囲む横堀の規模が圧巻だ。最大箇所で深さ15m、幅40mはあると思われる。発掘調査にて堀は6m程埋まっていることが判明しており、往時はもっと深かったことに仰天する。しかも切岸が鋭くとてもよじ登れそうにない。横堀だけでなく、二の丸と郭馬出の間の堀切も巨大だ。圧倒的な土木量で、堀の規模だけでいったら箕輪城は全国屈指だろう。更に石垣も至る所で確認できる。特に三の丸に積まれた石垣は高さ4m程もある。近年には郭馬出西虎口門が復元されるなど見所が多い城だ。
一見道路と見まがうような幅を持つ箕輪城御前曲輪の堀
[川崎城(栃木県)]本丸を守る深く幅の広い堀
東は内川の支流である宮川に、西は弁天川に挟まれた南北に細長い丘陵上に築かれている。すぐ西側を東北自動車道が通り、城へは南側の高速道路脇からアクセスすると良い。駐車場から東西に細長い段々の曲輪を進むといきなり大規模な横堀に出くわす。本丸の西面に弧状に巡る横堀だ。幅は10m程で、本丸側の高さは15m程もあるかと思われる。先程までの腰曲輪からはこの堀が全く見えず、横堀に落ちた所を高さのある本丸や二の丸から攻撃される構造だろう。冬場は下草が刈られ、堀が見通せるため、堀底を歩けばその脅威を存分に体感できる。本丸から先程の横堀を隔てた北西から北には二の丸があり、この北側の大空堀も見応えがある。
本丸西側の空堀。この堀は角度も急で、曲輪内へ侵入するのは容易ではない
この他にも、各曲輪に巨大な堀が延々と続き、石垣や桝形も見られる烏山城(栃木県)が近年整備されお勧めだ。あまりに複雑な縄張で城域も広いため、この城も縄張図が必須だ。更に、巨大な上に折れが随所に見られる滝の城(埼玉県)・石神城(茨城県)・小机城(神奈川県)や、規模はさほど大きくは無いが、複雑かつ執拗に堀を屈曲させている杉山城(埼玉県)など、見応えのある横堀を持つお城はまだまだ沢山ある。
これらの城の堀はただ単に大きいから凄いという訳ではない。技巧を凝らした縄張によって堀も複雑に入っているため、その防御性や攻撃性に脅威を感じるのだろう。今回紹介したお城は何度訪れても楽しめると思う。見学しやすいように整備されているので、縄張の妙技も考えながら堀底を歩いてもらいたい。
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執筆・写真/ちえぞー
愛知県出身。Webサイト「ちえぞー!城行こまい」管理人。城めぐりを趣味としており、ウモさんと一緒に年間約500城(再訪含む)をめぐり、これまでに約6000城に訪城している。主な執筆協力に『廃城をゆく』シリーズ、『あやしい天守閣』、『“復元”名城 完全ガイド』(いずれもイカロス出版)、『完全詳解 山城ガイド』(学研)など。