2023/02/03
PR 復元CGってどう作る!? 秘境度No.1(?)の「志布志城」360度映像制作レポート
お城人気が高まるにつれ、お城の復元CGを目にすることが増えてきました。今はもう失われた当時の様子を見ることができるので、興味深いし、何より楽しいですね。そんな復元CGをどのように作っているのか気になりませんか? 今回、お城のAR/VRアプリなどを制作している曽根俊則さんが、現在制作中の志布志城解説映像のPRを兼ねて、お城の復元CGの作り方を紹介してくれます。志布志城「現場調査」報告に一番熱量を感じるのは気のせいです、きっと(笑)
全国ウン千万人のお城好きの皆様初めまして。私は歴史、史跡、文化財のアプリや映像などを制作しております曽根俊則(株式会社ジーン)と申します。私もお城好きです。日本100名城はもちろん制覇済。続日本100名城も現在75城登城。頑張っております。よろしくお願いいたします。
さて、そんな私がなぜ今回、ここに記事を書かせていただいているのかと言いますと、ただいま弊社にて続日本100名城の一つである鹿児島県のアノ名城“志布志城(しぶしじょう)”の解説映像(しかも360°映像)を制作しておりまして、そのPRを…と思って「城びと」編集部に相談しましたら、「ならばお城の復元CGの作り方の説明を兼ねた記事にした方が読者の皆さんに喜んでいただけると思います。是非そのように、というかそうして下さい必ず」…はい、そうさせていただきます。
というわけで、お城好きの皆様が必ず興味を抱くであろう、お城の復元CGの作り方の説明を兼ねた、志布志城解説映像只今絶賛制作中!な記事を書かせていただきます。すみません、長い記事になりますが、最後まで飽きずにお読みいただければ幸いですm(_ _)m
志布志城の位置、地図で指せる?
志布志城空撮
さて皆さん、志布志城ってご存知ですか? 続日本100名城に選ばれているぐらいですから「城びと」読者はもちろん皆さんご存知のはずですよね! きっと! 絶対!! そしてもちろん全員が志布志城の場所もご存知のはず! なぜならそれは「城びと」読者だから!…いや、すみません。志布志城、もっと言えば「志布志市」の場所を地図上でズバリ指せる人って正直なかなかいないと思うのです。はい、ココです。皆さん今日で覚えてください。
ココ、九州の端っこの方です、右下の端っこの方
そして志布志城はココ。海のすぐそばの山城です
豆知識を1つ。ここ志布志は今でいう鹿児島県にありますが、実は旧国では薩摩でも大隅でもなく日向だったんですね。ほぼ宮崎の日向。縄張り図にもこのように記載が。
「日向国」志布志内城縄張図
縄張り図に「志布志内城」って書かれてますね。はい、実は志布志城は内城(うちじょう)、松尾城(まつおじょう)、高城(たかじょう)、新城(しんじょう)という4つの山城の総称なのです。4つの山城の位置関係はこちら。
志布志城4城(内城・松尾城・高城・新城)
で、そのうちの中心的な城が内城であり、現在絶賛制作中な映像も内城の解説映像になります。
さぁ、九州の端っこ志布志。ここに行くにはなかなかたいへ…いやいや、鹿児島空港からバスが出てます。便利。路線バスで2時間。山道を。なかなかのものです(汗)。運転手さんありがとうございます。もしくは船です船。大阪から太平洋を航海して志布志に直行する関西人にはお馴染みのフェリー「さんふらわあ」が出ております。優雅。そんな旅を経て志布志に着きます。いやぁ、さすが南国。青く輝く海と緑豊かな山に囲まれた大変に気持ちが良い、心が伸び伸びとする街なんですね。
【クセになるこの響き】
今回の映像制作は市の事業ですので、市の担当者との打ち合わせは市役所で行うのが基本です。オンラインでの場合もあるけど。
志布志市志布志町志布志2丁目にある「志布志市役所本庁・志布志支所」にて打ち合わせです。いやウソじゃありませんよ、ほんとなんですよこの地所表記。書くのはめんどくさいのですが(笑)、何だか言いたくなりますでしょ?志布志市志布志町志布志2丁目の志布志市役所本庁・志布志支所。はい、もう皆さん覚えましたね。ちょっとした豆知識です。トリビアです(死語) 市もこれをむしろウリにしています。こんな看板まであります。
市役所の方から送られてくるメールにはもちろん毎回漏れなく志布志市志布志町志布志2丁目志布志市役所本庁・志布志支所って書かれております(笑)
志布志城を「秘境度No.1のお城」と強く推す
さてさてこの志布志城、構成する地形がかなり珍しいのです。姶良(あいら)カルデラからの噴出物が堆積して形成されたシラス台地です。最上部が台地になる。そして崖、切岸なのですけども、これがまた急。ほんとに急。つまり急峻な崖の上に平らな土地がある。そして削りやすい地質なので地形を整えやすい。これ、シラス台地の特徴なんですね。このシラス台地の特徴を存分に活かしたのが志布志城なのです。
志布志市埋蔵文化財センターにある復元模型をご覧ください。こんな城です。独特。険しい
いやね、このお城。来るべき“価値”が本当にあるんですよほんとに。凄いんですよ、ここ。全国ウン千万のお城好きな皆様ならば絶対に満足します。必ず行くべきです、絶対行くべきです!とんでもないお城だといい意味で驚くこと間違いなし! いい意味でですよ、いい意味で! こんな“秘境のお城”、日本100名城・続日本100名城で他にあるでしょうか。いや、ないと思います。例えば飯盛城は都会から近いけども険しい。基肄城や金田城も古代山城だけあって自然たっぷり、規模が大きくてもちろん険しい。勾配なら河後森城も負けてない。鳥取城の久松山も意外とかなりの急勾配でへとへとになる。こんな風に「険しい」山城はままありますが、志布志城は…
志布志城はこの標柱の右側を入っていくのです。入口からしてこの有り様。ワクワクしますね(笑)
これが自然です。油断禁物
この志布志城はね、ただ険しいだけじゃなく、樹木の密度が違うんです密度が! もうもうと、むわむわと、これでもかと生い茂っているのです植物が。森林というより密林! 下からだけでなく、横からも、そしてなんと上からも(笑)成長著しい樹木ですよ、ええ。他のお城とはレベルが違う。同じ鹿児島県の知覧城も同様の地形の特徴がありますがあちらはも少し広い感じ。こちらはぎゅっと、堀も切岸も樹木もギュギュギュッと詰まってる感がとても大きい! ギュギュギュッと!
むわむわっと
自然に溢れる志布志城跡ではこのようなキノコも。これをどっさり持ち帰れば女子は… すみません鎌倉殿に引きずられました。野生のキノコを採ってはいけません
そんな魅力的な自然たっぷりの、山城好きには堪らないお城なのです。野性味溢れる魅力が攻めてくるお城なんです! 現地に行けば分かります、ほんとに攻めてきます(笑)
日本全国に数多の山城はあれども、私はこの志布志城を“秘境度No.1のお城”として推したい。
ドローン撮影中。この画像の中でドローンが飛んでます。見つかりますか?
曲輪と曲輪の間の空堀が通路になる空堀迷路な志布志城。この曲輪のなんとまぁ高いこと高いこと。ただでさえこんな地形でしかも樹木が鬱蒼としてるので、日の光が届かない場所が多数あります。写真では多少明るく見えますけども、体感的には全体的にもっと暗いのです…。
お城内にはこのような案内看板が多数ありますので、空堀迷路とはいえ迷うことはございません。ご安心を。(というか、この看板が無ければ絶対迷います(汗))
でね、神秘的なんですよ。私も様々なお城に行きましたけども、お城でこんなにね、自然だらけの神秘的な光景ってなかなかありませんよ。実際にここに来ますとね、地形と生い茂った樹木のせいで写真で見るよりもっと暗く、そしてそこに陽の光が鮮やかに差し込み緑が煌めく。いやもう、素晴らし過ぎてため息が出るんですよこの光景は! 是非! 皆さんに体験していただきたい!
ほら!私、その場で感動してしまいましたほんとに!
ようやく本題?お城の復元CGの作り方
冒頭でも触れましたが、ただいま私、この楽しい楽しい志布志城散策、いや探索、いや探検がより一層楽しくなる動画を現在制作中なのであります。戦国時代の志布志城の姿をCGで高精細に復元し、そして志布志城を舞台に“攻める豊州家島津氏”と“守る新納氏”との戦いも体験できる360°映像です。いきなり豊州家島津氏なんて書いちゃいましたが、かつてこんなマイナーな戦い(失礼)を映像化したことなんてあったのでしょうか!? いや、きっとないはず! そんな映像を志布志城跡にて、ご自身のスマホで視聴することがこの春にできるようになります! 乞うご期待です!
まずは模型やイラストで「城郭の全体像」の把握
さてさてお待たせいたしました。ようやく肝心の“お城の復元CGの作り方“です。まずは城郭の全体像の把握から。
それには『模型』や『イラスト』が役立ちます。この記事の最初の方で、志布志市埋蔵文化財センターにある復元模型の写真を載せました。険しい。但し実は、この模型は地形の険しさを強調するために地形の高さを1.5倍にしているというなんともアクロバティックな模型です。ずるい(笑)
内城本丸推定復元イラスト。上手い
縄張り図や測量図等の資料を使って「“地形”作り」
全体像をイメージできましたらいよいよ実作業です。まずは“地形”を作ります。そのための資料はと言いますと、基本的には以下のようなものがあります。
●縄張り図
●等高線図、地形測量図
●模型の図面
●国土地理院による3Dデータ
上記の資料が全部ないとダメということではありません。あればあるほど助かりますが、最悪1つでもあれば制作可能です。
志布志城内城の測量図です
さらに、最近流行りの『赤色立体地図』。これは点群データなのですが、そのまま3Dモデルに転用できることもあります。なのでもし、既に赤色立体地図が用意されていればなんと素晴らしい!大助かりになる可能性があります!
(大東市・四條畷市教育委員会 所蔵)
参考までに、こちらは大阪府大東市と四條畷市にまたがる飯盛城跡を含む飯盛山の赤色立体地図です
なお、縄張り図以外は全て現代の地形のデータです。場合によっては縄張り図も。よって、復元したい時代と現代とで地形が変わっている場合には取り扱いに注意する必要があります。そのような資料から作成した地形モデルがこちら。志布志城の地形モデルです。
志布志城地形モデル
さらにご参考までに。こちらは愛媛県松山市、道後温泉のそばにございます道後公園。その正体である湯築城の地形モデルです。
湯築城地形モデル。PCモニターを写した画像なのはご愛敬。この城の特徴である二重の堀と土塁がはっきり分かります
なぜか出てきた「湯築城」。はい、現在弊社では志布志城のみならず、湯築城の映像も制作させていただいております。こちらも春の公開。お待ちを。
地形モデルに貼りつける「テクスチャ」の作成
さて、現地調査は地形モデルに貼り付けるテクスチャの作成に大いに役立ちます。テクスチャとは3Dモデルの表面素材のこと。画像です。表面の模様と考えていただければOK。3Dモデルは立体物です。極端な例を挙げますと、細長い1本の薄い板状の3Dモデルを作ったとします。薄い直方体。そこにアスファルトのテクスチャ(画像)を貼ればそれは道路になる。土のテクスチャを貼れば未舗装の道になる。水のテクスチャを貼れば川になる…。以上は極端な例ですが、そうやってテクスチャ次第で3Dモデルが何になるかが決まりますし、復元CGとしての表現を高めるためには、いかにリアリティ溢れるテクスチャを作成できるかが超重要。そのためには、現地調査は欠かせません。
これ、崖の表面です。なかなかありませんよこの見た目。美しい…
作業の中心で現地調査の重要性を叫ぶ
現地調査のもう1つの大きな目的は、雰囲気を体感すること。アナログ的な考えなのですが、でもでもでも! 間違いなく! 現地を体感することは全てに活きてくるのです。CG作成もそう、そしてそのCGをどう活かすかについてもそう。現地にいるからこそ考えつくことって毎回必ずあるのです。不思議と言えば不思議なのですが、現地でなければ思いつかない何かがある。現場百遍とはよく言ったものです、ほんとに。やはりこれは現地に漂う何かが…
そうそう、場合によってはこれも今流行りの『フォトグラメトリ』を行う場合もあります。フォトグラメトリとは、さまざまな角度から大量に撮った写真から3DCGモデルを作成する手法です。例えば飯盛城の復元CG作成の際に採用し、以下の画像のように、御体塚郭に残る御神体?的な岩の塊、これをフォトグラメトリによってそっくりそのままの3Dモデルを作成しました。
岩の塊のフォトグラ撮影中。棒の先にカメラがついており、動きながら連続写真を撮っている様子です。対象物に対して何百枚何千枚と写真を撮ります
撮影した写真から生成した実物そのままの3Dモデル。この3DモデルはiOS・Androidアプリ「よみがえる飯盛城 ~天下人 三好長慶最後の居城~」に活用されていますのでぜひ皆さん、アプリをダウンロードして飯盛城に訪れてみてください。現地に行かずとも復元CGを楽しめる機能もあります。はい、お察しの通りこのアプリも弊社制作です
模型や実際の建築物を参考に「構造物・建築物」制作
さて、地形モデルが完成しましたらいよいよ上物(うわもの)、各種構造物を制作することになります。
お城の復元CG制作の工程を大まかに記すと以下になります。
現地調査
↓
地形モデル作成
↓
構造物・建築物検討
↓
構造物・建築物制作
↓
全体ブラッシュアップ
ここまでで復元CGとしては完成です。後はこのCGに、その活用方法に応じて手を入れる必要があります。このCGから360°画像を作成したり、スマホで3Dモデルを描画できるようにポリゴン数(曲面を構成する最小単位)を減らしたり…などなど。
もちろん専門家による監修も必要になります。例えば大河ドラマだったら建築考証の先生がいらっしゃいますけども、復元CG制作におきましても、当時の姿をきちんと再現するために監修が必要になります。監修のタイミングは随時、臨機応変。監修の対象は、地形、構造物・建築物など全てです。監修してくださる方は、大学教授や博物館学芸員さんなど様々です。この「城びと」でお名前を度々お見かけする先生方にも大変お世話になっております。
建築物制作の際には模型が大いに参考になります。模型があると大助かりです。しかし、模型がいつ作られたのか、には注意する必要があります。模型が作られてから結構な年月が経っていますと、模型制作後の発掘調査や研究の進展によって、実際には模型の姿とは一部異なることが判明、なんてことがあるのです。そう、日々の積み重ねで歴史は紡がれていくものですが、それは現代未来だけのことではなく、過去の歴史も日々塗り替えられていくのですね…。あらますみません、ちょっと遠くを見てしまいました。
例えばもう10年も前になりますが、アプリ「AR長岡宮」制作のために長岡宮復元CGを制作させていただきました。(iOS・Androidアプリ「AR長岡宮」、ダウンロード無料です。よろしくお願いしますm(_ _)m) その際に向日市文化資料館にある長岡宮復元模型が大変役に立ったのですが、しかしその模型では、朝堂院南門から東西南に伸びる栖鳳楼・翔鸞楼という2つの楼閣が存在しませんでした。以下の画像にある一番下の2つの出っ張りのことです。
これは模型ではありません。現地朝堂院公園にある立体説明板です
この楼閣の存在は模型制作後の発掘調査で明らかになりました。平安宮にはこの楼閣が存在したことが以前より知られていましたが、長岡宮にはなかったのではないか…と考えられていたところに発掘調査で大発見!てなわけです。
で、この栖鳳楼・翔鸞楼のCG制作をどうするか。模型にはない。ならば実際の建築物を参考に…とは言ってももちろん当時の建物が今の世にあるわきゃないのですが、実は京都には、平安宮の建築物を模した建築物があるのですね。はい、皆さまご存知、平安神宮です。平安神宮は平安宮の一部の建築物をおよそ8分の5のサイズで再現したものとのこと。ですので平安神宮を参考にさせていただきました。
このように、実際の建築物をCG制作の参考にさせていただくこともよくあります。復元建造物や、別の場所に残る同時代の建築物だったり。また、宇和島城や丸亀城の復元CGも制作させていただいたのですが、宇和島城では江戸時代の天守がそのまま残っている(寛文天守)、丸亀城ではカワイイ天守と、城全体をぐるりと囲む、地表からの総高で日本一高い石垣が見事に残っているわけです(2018年の豪雨と台風で一部の石垣が崩落し、現在復旧作業中ですね)。 当該建築物・構造物がそのまま残っていればもちろんそれが一番参考になります。iOS・Androidアプリ「VR宇和島城」「よみがえる丸亀城」ももちろんダウンロード無料ですのでぜひご確認を(笑)
えー、すみません、長い記事になりましたが、今回は復元CG制作における地形モデルの作り方をちろっと紹介させていただきました。次回、いよいよ志布志城復元CGが完成し、それを活用した映像も完成し、志布志城跡でこんなに楽しめます!皆さんぜひ志布志城へ!という記事を、4月になりますかね、また書かせていただきたいと思います。
長文失礼いたしました。ありがとうございます。
執筆・写真/曽根俊則(株式会社ジーン) 一部画像・資料提供/志布志市、大東市、四條畷市