超入門! お城セミナー 第96回【歴史】令和の時代に城跡が「新発見」される理由とは?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロからわかりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。近年相次ぐ城の大発見。駿府城の天守台や岐阜城の山麓居館跡など、在りし日の姿が発掘調査によって明らかになりつつありますが、そもそも、遺跡はなぜ土の中に眠っているのでしょうか? 遺跡が地中から発見される理由、そして発掘調査を行う意義について説明します。



佐和山城、移設石垣
岐阜城山麓居館跡の発掘現場の様子。織田信長の居館跡かどうか、調査をもとに議論が進んでいる。近年、全国的に城跡の発掘調査が盛んだ

京都のド真ん中から発見された秀吉の城

2020年6月、城ファンにとってはコロナ禍の憂鬱を吹き飛ばすようなニュースが報道されました。京都御苑内から、秀吉の“幻の城”と呼ばれる京都新城(京都府)の石垣と堀跡が発見されたのです。

秀吉が築いた京都の城と聞いて、聚楽第(京都府)を想起する人がいるかもしれません。京都新城は聚楽第跡に規模を縮小して築かれた城ですが、聚楽第とは異なります。聚楽第は秀吉から関白を引き継いだ豊臣秀次の失脚後、破却されてしまいます。今回発見された京都新城は、聚楽第が壊されてから2年後の慶長2年(1597)に築かれた城郭であり、京都における豊臣家の新たな拠点になるはずでした。

京都御苑、仙洞御所
京都新城は、京都御苑内の御所の南東に位置する仙洞御所の敷地で発見された。仙洞御所は江戸時代、天皇を退位した上皇らの住まいだった

しかし、築城の翌年に秀吉は死去。京都新城は秀吉の正室・北政所(ねね)が隠居屋敷として使用しますが、関ヶ原の戦い直前に破壊されます。その後は数少ない文献に伝えられるだけで、人々の記憶から消えた城となってしまいました。それが400年以上の時を経て、地中から見つかったのです。発掘現場からは石垣や堀跡といっしょに金箔瓦も発見! それが京都新城だということを裏付ける決定打になりました。

さて、近年では発掘調査によるお城の新発見が相次いでいますが、そのようなニュースが流れるたびに、「なんで城跡が地下に埋もれているの?」と疑問に思う人がいるかもしれません。そこで今回は、遺跡が地中から発見される理由、そして発掘調査を行う意義について説明していきましょう。

城跡が地中にあるのはなんで?

発掘調査は、土の中に埋もれてしまった遺構や遺物を掘り起こし、見つけ出すことを目的とします。地中から発掘される遺構や遺物は「埋蔵文化財」と呼ばれ、この埋蔵文化財をもとに、かつてこの場所に何があったのか、この地でどんなことが起こったのかを研究する学問が「考古学」というわけです。

それでは、文化財が“埋蔵”されてしまうのはなぜなのでしょうか?

理由の一つは、数百年にわたって風雪にさらされることで、土砂に埋もれてしまうからです。例えば、かつてあった都市や村落が何かしらの理由で人が住まなくなったとします。するとそこに草木が生え、それらが枯れ、四季が繰り返されることで腐葉土が形成し、堆積されていくのです。

洪水や地震によって土砂をかぶることもあるでしょうし、日本は火山列島ですから火山灰が降り積もることもあります。そうして、都市や村落の跡はすっかり土中に埋もれてしまうわけです。

こうした自然作用による土の堆積は、城跡でも例外ではありません。山城などであなたが鑑賞している曲輪や土塁・堀などの地表面は、数百年前の戦国時代の人が築きかっ歩していた地表ではありません。かつての地表は、数十cmから数m下にあるのが普通です。発掘調査によって、戦国時代の堀の深さが現在の地表面より数m深かったことがわかるということは珍しくありません。

諏訪原城、二の曲輪中馬出
諏訪原城(静岡県)を代表する遺構である二の曲輪中馬出。2013年から行われた調査によって、戦国時代の堀底は地表面から2mも深かったことが判明した

遺構や遺物が土に埋もれてしまう二つ目の理由は、人為的に埋められるためです。かつての都市や村落、または城を埋め立て、その上に新たな建造物なり生活空間が築かれたのです。

わかりやすい例が大阪城(大阪府)でしょう。現在我々が見ている大阪城は、大坂の陣後に秀吉が築いた城を破却し、徳川幕府が築き直したものです。その際、建物を撤去して秀吉時代と同じ地表面に新たな城を築いたわけではありません。秀吉の大坂城を徹底的に破壊したあと、建物の部材などは堀に投げ捨て、城全体に盛り土をしてから城を築いたのです。

新築の際に盛土をするのは、城に限らず一般的なことです。盛土をすることで少しでも水害を防ぐことができますし、かつての建物跡や柱穴が新築の邪魔になるため埋めたほうが早いというメリットもあります。城郭を改修する場合は、堀などはそのまま再利用することがあっても、曲輪はたいていの場合は盛土を行っていたようです。

都市や村落、城下町など人が住まう土地というのは、時代を超えて人々が集住するもの。時代時代で盛土をした結果、同じ場所の発掘調査によって、地下1メートルから江戸時代の城下町跡が発見され、その下から戦国時代の屋敷跡、その下から古代の村落跡、さらにその下から旧石器時代の貝塚が発見されるということもあります。遺構が重なり合って見つかるわけです。お城の例では、駿府城(静岡県)は発掘調査により、家康時代と秀吉(中村一氏)時代の天守台が同じ場所から重層的に見つかりましたね。

一乗谷朝倉氏館跡
1960年代に行われた発掘調査により、武家屋敷と城下町がほぼそのままの姿で発掘された一乗谷朝倉氏館跡(福井県)。信長によって城下が破壊されたのちに、水田として利用されたことで遺構が良好に保存された

発掘調査後に破壊されてしまう城跡も

遺構や遺物が地中に埋もれている以上、発掘調査によってそれを掘り起こすということは、歴史を解明するためにたいへん重要な手がかりとなります。それでは、発掘調査はどんなときに行われるのでしょうか?

史跡として保存されている(公園化している)城の場合は、自治体(教育委員会)が主導し、数年にわたる発掘計画を立てて調査を行うケースもあります。しかし事例として圧倒的に多いのは、住宅や道路などを建設する際、史跡が工事区域に引っかかっているために、または開発を進めた結果、そこが何かしらの史跡であることが判明したために、発掘調査を行うケースです。今回の京都新城も、仙洞御所内の地中に防火水槽を設置する工事を進めている過程で、偶然発見されたものでした。

日本の「文化財保護法」(1950年制定)では、遺跡として認知されている場所を工事・開発する場合は、事前に必ず調査して、遺跡の規模・範囲・内容を把握し報告しなければならないというルールが定められています。そのため、開発を始めてから史跡であることが判明した場合は、一度工事をストップさせ、学術的な発掘調査を実施する必要があるわけです。時折、発掘調査によって建設の工期がのびることを嫌い、史跡を見つけても届け出ないような、よからぬ業者がいるというウワサを耳にしますが、そのようなことが起こっていないことを祈るばかりです。

発掘調査が行われても、発掘調査後は住居や道路の建設のため、たいがいの史跡は破壊されるか埋め戻されてしまいます。しかし、遺構の重要性が評価され、関係者や地元住民の理解があって保存されるケースもないわけではありません。例えば、縄文時代の大規模集落跡として知られる三内丸山遺跡(青森県)は、県営野球場建設のための調査によって史跡であることが判明し、すでに着工されていた工事を中止して保存が決定しました。しかしこれはごくごく稀な例であり、実際は9割を上回る史跡が発掘調査後に破壊されるか埋め戻され、開発が進められています。

南山城跡
南山城跡。水害対策の河川工事のため、城があった山ごと掘削される予定だ。2019年9月に現地説明会が行われ、その後開発が進められている

建設・開発のために悲しい末路をたどっているのは城跡も例外ではありません。東名高速道路の拡張のために城跡の一部が破壊された蒲原城(静岡県静岡市)、河川拡張工事のために城のあった山ごと削られてしまう南山城(岡山県倉敷市)、新東名高速道路の建設にともなって消滅する運命にある河村新城(神奈川県山北町)、工場の増設工事のときに発見された阿波土居屋敷(岡山県真庭市)などなど——。都市部の城でも、石垣や堀の一部が発掘され、埋め戻されるということが繰り返されています。

せっかく発見された城跡が埋め戻されるなんて残念だな、と感じた人は、現地説明会に参加してみるとよいでしょう。発掘調査が行われた史跡の多くでは、一般でも参加できる現地説明会が開かれています(京都新城の説明会はコロナ禍の影響で中止)。数百年という時を経て我々の前に姿を現した遺構、その貴重な姿を開発で失われてしまう前に目に焼き付けてください。

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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『図解でわかる 日本の名城』(ぴあ株式会社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『隠れた名城 日本の山城を歩く』(山川出版社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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