最年少世界遺産検定マイスターに聞く 世界遺産に選ばれるお城には、誰もがあっ!と驚くストーリーがある

姫路城、二条城、首里城、勝連城、今帰仁城、中城城、座喜味城、原城。現在、ユネスコの世界遺産として登録されている日本のお城ですが、「え!世界遺産に登録されているお城ってこんなにあったんだ」とか、「数あるお城のなかで、この8つのお城が選ばれた理由って何だろう?」と思ったことはありませんか? 今回は、“史上最年少の世界遺産検定マイスター”として様々なメディアなどにも登場・活躍されている、山本リシャール登眞(とうま)君に、リモート取材を敢行!「世界遺産のお城のココがすごい!」「どうやって遺跡のことを調べたり、覚えたりしているの?」などなど、聞いちゃいました。



山本リシャール登眞
オンラインでの取材に答えてくれた山本リシャール登眞君(オンラインインタビューでの様子)

山本リシャール登眞(とうま)君は、京都在住の中学3年生。なんと、11歳で世界遺産検定のマイスターに合格しています。史上最年少!だそうです。検定試験といえば、お城ファンにとっては、日本城郭検定の1級が超難関として知られていますが、世界遺産検定のマイスターもすごいです。まず、受験資格は1級合格者のみ。そして、試験は論述が3題。マイスターを名乗るには知識はもちろんですが、「世界遺産に関する諸事象について自分の意見をもつ」ことも求められるのです。

一冊の図鑑との出会いが人生を変えた

山本君は弱冠11歳で世界遺産検定のマイスターに合格しています。でも、それには膨大な量の知識のインプットと、世界遺産に対する自分なりの考察が必要。小さいころからお城が好きな人はご両親がお城や歴史が好きだったということも多いですが、山本君がそもそも世界遺産に興味を抱いたきっかけもご両親などの影響なのか聞いてみると、運命的ともいえる「図鑑との出会い」を教えてくれました。

(山本君)
幼稚園児の頃に博物館での見学をきっかけに古代エジプトへ興味を抱くようになり、関連本を捜していたところ出会ったのが世界遺産の図鑑です。そこにはただ美しいだけでなく先人の知恵が詰まった文化遺産もあれば、どうやってこんなものが出来上がったのかな?と思えるような自然遺産もありました。地球の美しさや人類が造り上げてきた建造物の素晴らしさに感動し、たちまち世界遺産に惹かれました。

世界遺産に限らず文化全般に広く関心を抱くようになり、フランスやベルギーで過ごしていた頃は旧市街を散歩するなどしながら、世界遺産への知識と関心を深めていきました。実は、引っ越しが決まった時、母が思い出として色々な図鑑を揃えてくれたのですが、この「世界遺産図鑑」が一番気に入っていたのです。

日本に住んでいた思い出として図鑑を買ってもらうなんて素敵なお話です。たくさんの図鑑の中から、「世界遺産」の図鑑に惹かれた山本君。実は、世界遺産検定3級には9歳で合格しているそうです。9歳なんて検定試験の存在も知らなそうな年頃なのに。どうして受験することになったのか、きっかけが気になります。

(山本君)
ヨーロッパから再び日本に戻ってきた小学2年生の頃、書店で世界遺産検定のパンフレットを見つけたのがきっかけです。もちろん、まだ小さかったので読めない漢字はたくさんありましたが、「世界遺産」という文字だけは分かりました。そこで、母に内容を尋ね、ぜひチャレンジしたいと思いました。ユネスコの資料に基づいたテキストブックで学習し、また検定では時事問題も問われるので新聞もたくさん読みました。

世界遺産検定のテキストは大人向け。小学生や中学生が受験するには、かなりハードルが高かったのでは?と思った編集部に対して返ってきた答えは、想定外の「しんどかったこと」でした。

(山本君)
そうですね。3級を受験した時は、テキストブックには小学校で習わない漢字もあって、文章の感じからだいたいは分かりましたけど、どうしても分からないものは母に読み方や意味を教えてもらいました。それ以降も、覚えることがたくさんあって大変でしたが、好きだったのでその熱意に動かされて、全然苦ではありませんでした。ただ、僕は本が世界遺産に限らず小説とかも大好きなので、検定2週間位前に「しっかり覚えるために本は読まない」と決めた時に読書を我慢しなきゃいけなかったのがしんどかったですね。

読書の時間がなくなってしまうのがしんどかったとは!! 普段読んでいる本はもちろん、どのぐらいの量の本を読んでいるのかも気になります。

(山本君)
小説なら司馬遼太郎さんや原田マハさんが好きで、最近は直木賞を受賞した『少年と犬』(馳 星周)を読んですごく良かったです。最近は中学校の部活動とかが忙しいので、前よりは減ってしまったんですけど、それでも月に15冊は読んでいますね。歴史小説だと本に出てくるこの場所でほかにどんな事件があったかだとか、中国の王朝ものだとこの王朝の終わりはこうだとか、物語の背景や舞台がいろいろな世界遺産と結びつくことがあるのも面白いです。

確かに歴史小説を読んでいて、行ったことがあったり知っているお城が出てきて、自分の知識が物語とリンクしたりすると、とても面白いし、もっといろいろなことを知りたいなと思いますよね。世界遺産についての知識はどうやって深めているのでしょう。

(山本君)
本は重要な情報源ですが、実際に世界遺産を訪れる場合は、まず周辺にある博物館や歴史館でしっかり事前知識を吸収してから現地に向かうようにしています。また、原城や沖縄のグスク(城)に訪問した際には地元の方々に説明していただき、より詳しい知識を得ることができました。

ちなみに、普段世界遺産についての本はどのように入手しているのかを尋ねたところ、図書館にたくさん注文しているとのこと。最近の図書館は、色々な図書館から取り寄せることができたりするので、とても便利ですよね。また、本以外には、ICOMOS(※)の資料を読んだりして、知識を蓄えているそう。

(※)国際記念物遺跡会議。ユネスコをはじめとする国際機関と密接な関係を保ちながら、世界文化遺産の保護・保存、そして価値の高揚のための重要な役割を果たしている。

世界遺産マイスターの認定カードとバッジ
世界遺産マイスターの認定カードとバッジ。写真からも、テキストが使い込まれているのがわかります

世界遺産に選ばれた日本のお城には、遠い外国の人でも「あっ!」と驚くようなストーリーがある

世界遺産ってよく耳にするし、旅行先で世界遺産は見ておかないと…と思ったりしますが、世界には、色々な歴史的価値のある建物や遺跡が星の数ほど現存しています。その中で「世界遺産に選ばれる遺跡」というのは、他の遺跡と何が違うのか、選考基準が気になります。

(山本君)
世界遺産というのは、まず各国政府が候補を絞り込んでユネスコに推薦し、厳しい審査を受けて評価されたものが登録されます。そこで重視されるのは、性別や文化を問わず「誰が見てもこれはスゴイ」と思えるような普遍性です。また、パッと見て感じる美しさだけでなく、地球の歴史や人類の進歩に与えてきた影響といった「ストーリー性の分かりやすさ」も世界遺産の特徴です。お城においても、特に代表的で分かりやすいストーリー性のあるお城が、世界遺産に登録されています。

なるほど。世界遺産に登録されるものとそうでないものの違いは、個々の歴史的価値の優越ではなく、代表性やストーリー性が大きく影響するということなんですね! これは、ちょっと目から鱗な情報でした。

(山本君)
そうですね。これは僕個人の感覚なのですが、特定の文明や社会によって残された世界遺産を通じて、当時の人々の知恵であったり協力関係や交流が見えてくるのも魅力として感じています。

日本のお城では姫路城二条城(古都京都の文化財)、首里城勝連城今帰仁(なきじん)城座喜味城中城(なかぐすく)城(琉球王国のグスク及び関連遺産群)、原城(長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産)の8城が世界遺産に登録されています。以前、山本君が沖縄のお城を訪れている様子をテレビで見たことはありますが、これらのお城はほぼ訪れたことがあるのでしょうか?

(山本君)
はい。すべてではありませんが、プライベートやテレビの収録を通じて足を運び、その魅力を直接体感しました。これはお城に限ったことではありませんが、世界遺産について本から学んだ知識が、実際に自分の目で見て取れる瞬間がとても面白いんです。だから、僕にとっては学ぶだけでなく実物を見ることも大事なことです。


山本リシャール登眞、姫路城、二条城
姫路城(写真左)と二条城(写真右)を訪れた時の写真

では、ここでお城ファンにとって気になる、世界遺産に登録されている日本の8つのお城が評価されたポイントを聞いてみました。


(山本君)
まず、日本で最初に世界遺産に登録された姫路城。圧倒的な美はもちろんのこと、当時の建築技術の最高傑作といえます。それに対して二条城は、京都から全国へ広がった桃山文化を物語る文化財であり、また江戸から明治という時代の大転換期を見守った重要な場所であることに大きな価値があります。

二条城も豪華絢爛で美しいお城ですが、世界遺産における評価ポイントがストーリー性重視というのは興味深いです。

(山本君)
はい。長崎潜伏キリシタンの遺産群の一つである原城も、当時のキリシタンたちが守ろうとした独特の伝統を物語っていて、また日本においてキリシタンを異端の存在とした「島原の乱」の舞台という、ストーリー性がとても顕著な世界遺産です。現存する遺構は少ないですが、当時の戦いの様子を頭に思い浮かべながら訪れると、お城のスケールに驚かされます

山本リシャール登眞、首里城、グスク
テレビの取材で、首里城(写真左)や中城城(写真右)など沖縄のグスクを訪問

(山本君)
沖縄のグスクも石垣しか残っていないところが多いですが、当時の様子や人々の暮らしを想像することで、より楽しく見ることができると思います。当時の琉球王国は日本とは別の国で、文化形態もまったく異なるものでした。それは、本州とは違って敷地の中で宗教的儀式が行われていたというお城も同様です。三山時代を経て琉球王国として統一され、その後開国されて日本の付属領となり、さらにアメリカに占領されるという歴史を物語る上で大切な文化遺産なんです。ちなみに、江戸末期に黒船で日本に来航したペリーが、横浜を訪れる前に琉球を訪れていて、グスクのことを「エジプトの遺跡のようだ」と言ったそうです。

ペリーは沖縄にも来航していたんですね! でも、ペリーって確か教科書では横浜に来航したことしか書いてなかったはず…。一体そんな教科書にも書いてないことをどうやって知っていくんですか?

(山本君)
僕も沖縄の世界遺産について勉強する中でそのことを知り、とても新鮮な発見でした。

世界遺産についての理解を深めようと幅広い知識を求めたからこそ得られた発見ですね。ところで、ちょっと気になるのは、世界遺産に登録された8城の中で、山本君が特に好きなお城がどこかというところです。

(山本君)
二条城ですね。薩長連合による討幕の気運が高まる時代の中で、平和のため自ら江戸幕府の歴史を終わらせようと決意した徳川慶喜のことを僕はとても評価していて、彼が大政奉還を執り行った舞台である二条城が好きなんです。

お城ファンとして気になるのは、今後、日本で世界遺産に登録されそうなお城はどこなのかということ。そういうのって、「ここが登録されそう」という情報があるのでしょうか。

(山本君)
実は、世界遺産には「暫定リスト」という、登録を目指している資産のリストがあります。彦根城は、1992年から暫定リストに載っていてずいぶん長くなりますが、江戸時代が始まってからの幕府の統治を雄弁に物語る歴史的資産です。また、最近の推薦資料に書かれている、「お侍さんが勉強を教えていた」というストーリーは、斬新で面白いと思います。イメージとしては意外ですよね。特に、外国から見たら「へー」ってなります。もっと、日本国内だけではなく、海外の色々な人に、日本の城郭がもつ、別の顔を伝えることができるのではないかと期待しています。以前、父と自転車で琵琶湖一周の旅をしたときに彦根城の外観だけ見たことがあり、とても美しい造りだったのを覚えています。

世界遺産検定マイスターとしての目標、そして将来の夢

世界遺産検定のマイスター
プライベートの海外ツアーでプラハ城(写真左)やシェーンブルン宮殿(写真右)などの世界遺産を訪問

日本にも海外にも、たくさんのお城があります。山本君が今後行ってみたいお城を尋ねてみました。

(山本君)
かつてヨーロッパで城塞都市を囲む城壁が火砲によって容易に破壊されるようになった後、星形要塞という築城術が考案されました。その最先端技術を取り入れた五稜郭はぜひ見てみたいですね。あとは海外だと「赤い城」の異名を持つインドのアグラ城。ムガール帝国の王が国民を融和させるため、イスラム教とヒンドゥー教の建築技術を融合して造られたもので、そうしたストーリー性も含めて行ってみたいお城です。

来年は高校生。中高一貫校なので受験はないそうですが、世界遺産はもちろん、読書に音楽にといろいろなことに興味を持っている山本君。将来はどんなことをしたいのかな?と思いつつ、まずは、遠い将来ではなく近いうちにやってみたいことを聞いてみました。

(山本君)
世界遺産は地球を代表する素晴らしい資産であり、コロナ渦のようにさまざまな苦しみがある時こそ人々の心を洗ってくれます。世界遺産マイスターとして自らの知識や情報を日々更新し続け、今回のようなインタビューやテレビへの出演を通じてその魅力を積極的に発信していきたいです。

素敵ですね! 今は、コロナという状況があって、海外はもちろん日本国内もなかなか旅行に行きづらかったりもしますが、そんなときだからこそ、素晴らしい遺跡や自然など、美しい風景を見て癒されたい気持ちがあります。城びとスタッフが初めて山本君を知ったのもテレビ番組での発信ですが、とても楽しそうにお城を紹介していて、改めてお城ってこんなに素敵で面白いんだと感じ、それを発信してくれているのが中学生という若い世代だったのが頼もしく、そして嬉しかったのを覚えています。そんな山本君がお手本や目標にされている方はいるのでしょうか?

(山本君)
世界遺産アカデミー主任研究員を務めている宮澤光先生です。以前、共演させていただいた時に聞いたお話にとても感動し「先生のように世界遺産と接していきたい」と目標にしています。また、僕が『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』に出演したのをきっかけに世界遺産検定3級を受験し合格したという男の子がいて、そうした話を聞くこともとても糧になります。

尊敬する方に出会えるのも素敵ですが、自分のことを見てくれた小さな子が世界遺産に興味を持って、さらに行動してくれるなんて嬉しいですよね。では、山本君が大学で学んでみたいことや、大人になってからの夢はなんでしょうか。

(山本君)
世界情勢がますます複雑になっている中、世界遺産をどう守っていけばいいのか? その方法を法律の側面から探るため、大学では法学を学びたいと思っています。そして将来的には、イコモスで文化遺産の調査を行う研究員になりたいですね。

最後に、城びとの読者にメッセージをもらいました。

(山本君)
世界遺産もお城も、興味を深めていく始まりとなる観点はたくさんあります。お城についての理解を深めていく中で、その歴史や背景も学んでいき、世界遺産についても広く関心を持っていただけると嬉しいです。

今回は、吹奏楽部の練習の後に、城びとの取材に対応してくれました。吹奏楽部ではホルンを担当。バイオリンも演奏するなど、世界遺産はもちろん、音楽も大好きだそうです。世界遺産の話も音楽の話も、とても目をキラキラさせながら楽しそうに話してくれました。不思議とインタビューした城びとスタッフも「もっとお城や遺跡について色々調べたい!勉強したい!」と思いました。山本君、ありがとうございました!

山本リシャール登眞
山本リシャール登眞(とうま)
2005年フランス・リヨン生まれ。父親がスイス人で母親が日本人とベルギー人のハーフ。幼少期から世界遺産への知識と関心を深め、弱冠9歳で世界遺産検定3級に合格。さらに2016年には1級よりさらに上となる世界遺産検定マイスターの称号を11歳で取得し、当時の史上最年少記録を更新する。

執筆/城びと編集部

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