2018/07/11
マイお城Life マイ お城 Life |漫画家・ 山田果苗さん 学校の帰り道に、気軽に東京のお城に寄り道してほしい
連載「マイ お城 Life」。3人目のゲストは漫画家の山田果苗さん。最近、お城ファンの間で密かに話題のマンガ『東京城址女子高生』をご存知でしょうか? 城にはまったく興味のない主人公・あゆりと、城好き女子・美音(みおん)の女子高生コンビが、東京の城跡(といっても遺構はほとんどない)を巡りながら、心を通わせ、城の魅力に徐々に気づいていくというストーリー。女子高生が城めぐりというだけでも異色なのに、取り上げるお城もマニアック! 今回は山田さんに「女子高生×城址めぐり」という作品が生まれた経緯などをうかがいました。
書名:東京城址女子高生
著:山田果苗
発行:KADOKAWA
既刊:1巻(続刊中、マンガ誌『ハルタ』連載中)
『東京城址女子高生』。表紙には、東京の名所スポットがちらほら。
最初は「皇居=江戸城」だとは知らなかった
『東京城址女子高生』というマンガは「女子高生×城址めぐり」という今までになかった作品。お城にまったく興味のない女子高生・広瀬あゆりと、城址めぐりが趣味の同級生・持田美音。対照的な2人がめぐるのは、都市開発のためにほとんど遺構が残らない東京の城だ。「ロマンがある」と目を輝かせる美音に対して、「何が楽しいの?」とうんざりしながらついて行くあゆり。城に興味がある人とない人、それぞれの気持ちを代弁する2人の掛け合いは、マニアックすぎず普通の女子高生の会話としてすんなり入ってくる。城に興味のない人も読みやすいというのが、この本の第一印象だ。
第3話で登場する深大寺城でのワンシーン。土塁や堀がしっかり整備されているが、あゆりの目にはただの広場に見える。
とはいえ、取り上げられる城は、第4話で登場する江戸城を除けば、石浜城、深大寺城、稲付城、成宗城など、ほとんどが山城だったり、そもそも推定地もあいまいな城だったりと、一般人が想像する「城」とはかけ離れている。なぜ、こんな東京のマニアックな城址を取り上げたのか。山田さんは相当な城マニアか、と思いきや、「いやいや、お城はそんなに詳しくないですよ」と打ち明けた。
(山田)
連載をはじめる前の私の知識は、それこそ主人公のあゆりと同じくらいでしたね。私は地元が東京で、20数年間東京で育ってきたわけですが、東京から一番近いお城って小田原城(神奈川県)だと思っていたんです。恥ずかしながら、皇居=江戸城だというのも知りませんでした。
新連載のテーマを考える中で調べてみると、江戸城以外にも、東京にはたくさんのお城があったことがわかりました。犬の散歩でよく行っていた多摩丘陵自然公園が、実は高幡城というお城だったとか。そんな身近にお城があることを知らずに生きていたなんて・・・・・・とショックを受けたのと同時に、お城がとても身近な存在に感じられて一気に興味を持ちました。自分が感じた“東京にも城があった!”という驚きと発見を伝えたい。単純ですがそんな思いで、『東京城址女子高生』をスタートしました。
第6話で、自分が住んでいる杉並区に成宗城があると知り、嬉しくなったあゆり。山田さんは、こうした地元に城があったと知った時の高揚感を伝えたいと語る。
それほど城や歴史について関心がなかったという山田さん。そもそも、城に興味を持つようになったきっかけはなんだったのだろうか。
(山田)
きっかけは大学時代、友人から借りたゲーム『戦国BASARA3』で石田三成を好きになったことですね。ゲーム内で不器用だけど真っ直ぐなキャラクターとして描かれていて、史実でも同じような一面があるとわかり、さらに好きになりました。じゃあ、三成はどんな場所にいたんだろう、三成の居城に行ってみたい、と思ったんです。ただ、その居城である佐和山城(滋賀県)には、遠くてまだ行けていないんですが(笑)。
お城の知名度よりも入りやすさを優先
三成好きをきっかけに、居城としての城に興味を持ち、東京の城を“発見”した山田さんだが、第1話では「世田谷城」といきなりマイナーな城が取り上げられている。江戸城などのメジャーな城ではなく、世田谷城をトップバッターに選んだその理由とは?
(山田)
世田谷城は公園化はされていますが、遺構がしっかり残っているので、他の城に比べると絵面的に良かったのと、「サギソウ伝説」はあまりお城に馴染みのない読者の方でも入りやすいと思ったので、第1話目に選びました。
初めて取材として行ったのも世田谷城なんですが、地図で見ると住宅街のど真ん中にあるんですよね。ここに本当に城址があるの? と思って、実際に行くと「お! 本当にあった!」と思うぐらい埋もれていて発見の喜びがありましたね。地味で都会に埋もれている感じが愛しくて、ロマンを感じます。狭いけれど高低差があるアスレチックのような公園で、常に人がいて地元の憩いの場になっているのだなとうかがえ、お城が身近にあることを改めて感じました。
お城を正確に描くためには、取材はマンガのキャラクターが訪れるのと同じ時間帯に行うようにしています。午前と午後で、遺構の見え方が違うんですよね。工事中なら工事中のまま描くようにしています。日々、景観が変わっていくのも、東京の魅力の1つだと思いますから。
第4話で江戸城の見附のひとつ・赤坂見附跡を訪れるシーン。石垣が細かく描写されている。
気軽にお城に寄り道してほしい
しかし、城址めぐりといえば、ひと昔前までオジサンの趣味、というイメージが強く、最近でこそ若い世代にもファン層が増えつつあるが、興味のない人からすれば「地味」のひと言で片付けられかねない。あえて女子高生を主人公に据えたのはなぜだろうか。
(山田)
学校の帰りにちょっと寄っていけるくらい気軽に触れられたらいいな、という思いがあります。身構えることなく、気楽に楽しんでほしいです。あとは、都会の城址は地味なので華を添えるという意味も少しあります(笑)。
初めて城址めぐりをしても、たぶん何が何だかわからないと思います。第1話であゆりが「公園を歩いているだけだろ」と言っていますが、お城をよく知らなかった頃の私も同じ感覚でした。わかりやすい遺構はほとんど残っていないし、絵としてもすごく地味。道理で誰も題材にしないわけだ・・・・・・と思いました(笑)。
第1話で世田谷城を歩くあゆりと美音。公園化されている世田谷城を歩いたあゆりの感想は、最初は誰もが思うことだろう。
マンガ内で2人が歩いたルートを地図で示しているので、ぜひ参考にしてください。 また、お城好きな方はぜひ本に入れているアンケートハガキを使って、色々とご指南ください。時には、東京以外の城も出したいと考えています。よろしくお願いします。
赤坂見附から虎ノ門まで、江戸城に由来する地名めぐりをするあゆりたち。彼女たちが歩いた場所は、マンガ内でマップとして示されている。
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山田果苗(やまだ・かなえ)
東京生まれ、東京育ち。漫画家。作品に『東京城址女子高生』(KADOKAWA『ハルタ』連載中)、『本日の四ノ宮家』(KADOKAWA)など。
取材・執筆/かみゆ歴史編集部(二川智南美)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。