ナワバリスト西股さんと行く! ビギナー女子の山城歩き STEP6【座談会の弐】縄張図を読み解くコツはケバにあり!

一見、ただの山と木しか見えないけど、山城ってどういうところが面白いの? どこに注目すればいいの? そんな迷えるお城初心者のために、実際に山城を歩きながら山城を学ぼう!という「ビギナー女子の山城歩き」。前回に引き続き、今まで5城歩いての復習をかねて〝ナワバリスト〟西股総生先生と今まで連載に登場したビギナー女子が対談。実際に城に行ってみての感想や縄張図について語り合いました。



山城、座談会、縄張図
立ち上がって、山中城の話で盛り上がる一同

縄張図は難しくなかった!

——これまでの連載で山中城(静岡県)、茅ヶ崎城(神奈川県)、新府城(山梨県)、小机城(神奈川県)、深大寺城(東京都)の5城を、縄張図を片手にめぐってきた西股総生先生とビギナー女子中村蒐、二川智南美、伊達レン)たち。今回は縄張図の復習をかねて、ビギナー女子目線で山城の魅力を語ります。

(西股総生:以下西股)
「中村さんは5城全部を訪れたわけですが、その中でも特に記憶に残っているのはどこですか?」

(中村蒐:以下中村)
小机城(神奈川県)の空堀ですね。深さ10m以上もあるスケールの堀を造るのに、手で掘っていたというのにびっくりしましたね」

小机城、空堀
小机城の空堀。高さ10m以上もあり、迫力満点

(伊達レン:以下伊達)
「えっ、手で掘ったんですか? それヤバいですね! 新府城も手じゃないですよね」

(二川智南美:以下二川)
「伊達さん!!! 手といっても素手じゃないですよ(笑)」

(伊達)
「あっ、そういうことか! てっきり素手でガーッと掘っていたのかと(笑)」

(西股)
「人力って意味で、もちろんクワなどは使っていましたよ」

(伊達)
「失礼しました(笑)。私は新府城の中で最後にまわった・・・馬出でしたっけ? が印象に残っているんですけど、あれも人力ですか?」

(西股)
「そうですよ。ちなみに、今僕たちの目の前のホワイトボードに、拡大した縄張図が貼ってありますが、どれがその馬出かわかりますか?」

(伊達)
「わかります! 右下(南東)の部分ですよね。四角い枡形虎口があって、馬出は半円状をしていましたよね」

(西股)
「おっ、よく覚えていますねぇ」

ビギナー女子、城びと、新府城、縄張図
新府城の丸馬出と枡形虎口の場所を見事当てた伊達

丸馬出、桝形虎口、新府城
丸馬出から見た枡形虎口。手前と奥にそれぞれ開口部があって、土塁で四角く囲まれている様子がわかる

(中村)
「正面の入り口なのに、門がなかったんですよね」

(伊達)
「そうそう! 門が出来上がる前に城を捨てることになったというエピソードの切なさといったら! 馬出を下から見上げた時の迫力も覚えています」

(二川)
「中村さんは小机城だけでなく、深大寺城でもテンションが上がっていたけれど、深大寺城の縄張図を見て特徴を思い出して説明できる?」

(中村)
「できますとも! まず、本丸の櫓がちょっと二ノ丸に張り出しているので、本丸の虎口の土橋に攻撃できるだけでなく、三ノ丸まで遠く見渡すことができました。本丸の手前にある堀は、漏斗状のえげつない薬研堀で、しかも手前には土塁が盛ってある。土塁を勢いよく駆け上がると、薬研堀に落ちて抜け出せないという仕組みです。あとは・・・忘れました(笑)。これじゃあ、10点満点中3点くらいですかね?」

(西股)
「それだけ説明できればバッチリです! 別に試験ではないのだから、点数をつけたり、縄張図のすべてを理解・説明できる必要はなくて、おもしろいな、なるほどなと思ったところから、興味を広げていけばいいと僕は思いますよ」

城びと、ビギナー女子、座談会、縄張図
縄張図を使って深大寺城を説明する石原。ちょっとは縄張図が読めるようになった・・・かな!?

深大寺城、薬研堀
深大寺城の薬研堀。そのままでは危険なため、現在は多少埋め戻されている

(伊達)
「西股先生にそういってもらえると安心します! ちなみに、縄張図の斜線って何を表しているんでしたっけ?」

(西股)
「斜線は「ケバ」といって、斜面を表しています。縄張図って、実はケバが斜面を表現していることさえわかれば、理解できてしまうんですよ」

(二川)
「そうか、ケバが斜面、ケバが書かれていない白い部分は平らな場所ってことですもんね!」

(伊達)
「なるほど! なんだか縄張図の見方のコツが一気にわかった気がします!」

(西股)
「縄張図の書き方はもともと、斥候(偵察する兵士)が敵陣地の地形や部隊の把握をするための技術です。だから、基本原理さえ飲み込めれば、直感的に見てわかるようになっているんです。ちなみに、縄張図と対応させながら現地を歩けば、半日で縄張図を理解できるようになりますよ」

(伊達)
「本当ですか! もう一度縄張図を持って歩きたくなってきました!」

凝った縄張は本当にすごいか!?

(中村)
「伊達さんは新府城以外の山城に行っていないわけですが、山中城・茅ヶ崎城・小机城・深大寺城の4城の縄張図を見て、新府城以外で気になるお城ってありますか?」

(伊達)
「そうですねー、深大寺城かな」

(西股)
「ほう、それはまたなぜ?」

(伊達)
「他の山城、特に新府城ってごちゃごちゃしてますけど、深大寺城の縄張ってざっくりしているじゃないですか。一体どんな景色が見られるのかなと興味がそそられます」

(二川)
「確かに深大寺城はシンプルですし、曲輪の数が少なくて、一つ一つが広いですよね。しかも湿地や川の自然地形で周囲を守っているためか、技巧が少ないように感じます」

新府城、縄張図深大寺城、縄張図
左が新府城、右が深大寺城。比べてみると、縄張の複雑さ(技巧の多さ)は一目瞭然

(西股)
「深大寺城は、扇谷上杉氏が江戸城を奪回するための作戦基地として造られたので、多くの兵を収納する必要がありました。その収納力を確保するために曲輪が広いんです。敵が攻めにくいように自然地形を上手く利用して、守備兵もたくさん用意できるなら、縄張で悪あがきする必要はないんです」

(伊達)
「えっ、悪あがき、ですか??」

(西股)
「僕は、縄張にものすごく技巧を凝らしているのは一種の悪あがきだと思うんですよ。立地がすぐれていて、守る人数が多かったら、深大寺城のようにシンプルな縄張でも十分守れるんですよ。でも、道を何度も折り曲げたり、枡形虎口をいくつも造ったりするということは、それだけ立地が悪かったり、守る側の人数が少ないといったように条件が厳しいから、技巧を凝らして防御力を補おうとしているんです。城の三方がなだらかな地形の新府城とかね」

(中村)
「なるほど、人手が足りないから、さまざまな工夫を凝らして悪あがきせざるを得ない城もあるんですね」

(二川)
「てっきり、縄張が凝っている城の方がすごいんだと思っていましたけど、そうではないんですね」

(伊達)
「私もそう思ってました! この勘違いは、ビギナーに多いと思います」

(西股)
「城を守る人の人数、立地、戦法、さまざまな条件から城の縄張は決まってゆくので、どっちがすごいというわけではないんですよ。ちなみに、技巧が悪あがきだとわかって歩くと、これがまた切ないんですよ。ああ、少ない人数で頑張って守らなきゃならなかったんだなと」

(伊達)
「ああ! 考えただけで胸が締めつけられる!」

深大寺城、新府城、縄張図
深大寺城と新府城の縄張図を見比べてみる西股先生と伊達

“ない”からこそ、好きに妄想しやすい

(中村)
「そういえば、新府城のついでに甲府城(山梨県)にも寄ったじゃないですか。甲府城は石垣の城でしたけど、甲府城よりも新府城の方が、“戦場感”がある気がするんですよね」

(二川)
「それ、すごくわかる! 土の城の方が迫ってくるものがあるし、本当に兵士がいたのかもって感じやすいよね」

(西股)
「実際に歩いてみると、土の城の方がナマナマしいっていう人、多いんですよ。甲府城はつくりものっぽい感じがしちゃう?」

(伊達)
「そうそう。山城って最初は何もないな〜って思いましたけど、逆に余計なものがないからこそ、妄想しやすいなって思いました。武将と同じ道を歩いているんだ!  同じ景色を見ていたかも! って」

(中村)
「「これが土塁です」だけじゃなく、「これが土塁だよ、あの上から狙われたらどう思う?」という風に、いかに敵をやっつけるか、その手段や工夫の解説を聞いている時が一番わくわくします!」

山中城、石畳
山中城のすぐ脇を通る石畳の道は、豊臣軍が通った道。秀吉も歩いたかも!? と妄想が広がる

(西股)
「女子の方が、妄想力がたくましいですよね」

(伊達)
「女子は妄想大好きですからね!!」

(中村)
「土塁の造形がきれい、とかいうアートとして山城を捉える人もいるかも知れませんが、私はドラマがあるとすごく萌えます」

(二川)
山中城を守っていた北条氏勝から、岱先出丸を守っていた自分の部下の間宮軍が豊臣軍にやられていくのが見えていたかも、なんていう話を聞いたら、もう光景がありありと浮かんでたまりませんでした・・・!」

(伊達)
「なにそれ、切なすぎる〜!! そういうストーリー性がある山城、行きたいですね」

山中城、縄張図
山中城のエピソードに思わず手を握ってはしゃぐ二川と伊達

(中村)
「私も、感動がひとしおというか、臨場感のある山城にもっと行きたいですね。あとは、小机城みたいに土木量のすごい山城。それと、敵を仕留めるために迷路みたいに技巧が凝らされている山城にも行ってみたい」

(伊達・二川)
「わかる!!」

(伊達)
「私たち、敵を仕留める側、やられる側を演技していましたけど、また再現したいですよね」

(二川)
「いかに相手を仕留めるかという手段を見てみたい」

(西股)
「僕がガイドする時、わざと血なまぐさいエピソードを交えることがあるんだけど、意外にも女子の方がウケが良いんだよね(笑)」

(伊達)
「はい、女子はやっつけるのが大好きです(笑)」

(西股)
「でも、その反応は実は、城の本質を突いているんだよね。というのも、城は本来、敵を倒すための施設だから。ビギナー女子の心を掴む山城は、土木量があって、ドラマがあって、敵を仕留める妄想が膨らむ山城かぁ・・・。これは選びがいがあるなぁ(笑)」

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イラスト:伊達レン

——女子たちの妄想ワールドが展開し、“いかに敵を仕留めるか妄想するのがおもしろい”という結論に。みなさんは城にどんな魅力を感じますか? 今回でビギナー女子の山城歩きシーズン1は終わります。シーズン2をお楽しみに!

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西股総生(にしまた・ふさお)
1961年、北海道生まれ。城郭・戦国史研究家。学生時代に縄張のおもしろさに魅了され、城郭研究の道を歩む。武蔵文化財研究所などを経て、フリーライターに。執筆業を中心に、講演やトークもこなす。軍事学的視点による城や合戦の鋭い分析が持ち味。主な著書に『「城取り」の軍事学』(角川ソフィア文庫)、『戦う日本の城最新講座』『土の城指南』(ともに学研プラス)、『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』『首都圏発 戦国の城の歩き方』(ともにKKベストセラーズ)、『杉山城の時代』(角川選書)など。その他、城郭・戦国史関係の研究論文・調査報告書・雑誌記事・共著など多数。

執筆/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・二川智南美・中村蒐)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。最近の編集制作物に『歴史REAL いま見るべき日本の名城』(洋泉社)、『廃城をゆく6〜石垣の城を極める!』(イカロス出版)、『テーマ別だから理解が深まる日本史』(朝日新聞出版)、『マンガで一気に読める! 日本史』(西東社)、『御朱印めぐりと寺社巡礼さんぽ』(廣済堂出版)などがある。

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