ナワバリスト西股さんと行く! ビギナー女子の山城歩き STEP4【小机城の壱】超巨大な堀に驚愕!!

山城ってどういうところを見ると面白いの? そんな山城初心者の方のために〝ナワバリスト〟西股総生先生と実際に山城を歩きながら学ぶ「ビギナー女子の山城歩き」。今回の舞台は、横浜市内にあるお城・小机城。地理にも注目です!

小机城、堀
人と比べると圧倒的に大きいことがわかる小机城の堀

小机城はどんな土地につくられた?

——前々回の茅ヶ崎城と同じ、横浜市内のJR横浜線小机駅にやってきた西股先生と中村、木下の3人。小机駅改札を出ると目の前に、小机城が続日本100名城に選ばれたことを祝う張り紙があった。駅を出ると、小机城のある丘が遠目に見えており、周辺には住宅や田畑が広がっている。

(木下春圭:以下木下)
茅ヶ崎城のあったセンター南駅とは打って変わって、静かな場所ですね」

(中村蒐:以下中村)
「同じ横浜市でも全然違いますね。小机城も徒歩10分くらいみたいだから、すぐ着いちゃいますね!」

小机城、駅
駅の改札を出たところにある、「続日本100名城」選定を祝う張り紙の前でパシャリ

小机駅北口、小机城
小机駅北口を出てすぐ、中央に見える低い丘が小机城

(西股総生:以下西股)
「せっかくだから、なぜ小机城がこの土地につくられたのか、推察しながら行きましょう。ヒントはお二人の見えるところにありますよ」

(中村)
「ええ? まわりは畑や住宅ばっかりで何もないけど・・・

(西股)
「そんなことはありません。ほら向こうの北側の方、土手みたいなのがあるのわかりますか?」

(木下)
「確かにありますね。川でも通ってるんでしょうか」

(西股)
「それがポイントです! あれは鶴見川の堤防で、よく氾濫することで知られていた川でしたから、昔はこの一帯は湿地帯のようになっていたんです」

(木下)
「それと城の位置と、どんな関係が・・・?」

(西股)
「小机城のある丘は、あまり高くないですよね」

(木下)
「確かにがんばれば落とせちゃいそうです」

小机城、水田
小机城の全景を収められるスポットにてパチリ。城の立地がわかるようなカットも押さえておくとよい。手前が水田であることに注意

(西股)
「でももし、まわりが田んぼやどろどろの湿地帯だったら?」

(木下)
「むっ! それは攻めにくそうだなぁ・・・」

(西股)
「実は小机城が築かれているのは湿地帯に突き出した丘で、標高が低いわりには攻めにくい地形だったんです」

(中村)
「城がなぜそこに築かれたのか、ちゃんと理由があるんですね」

市民の憩いの森には巨大な堀が潜む

——小机城は現在「小机城址市民の森」として整備され、市民の憩いの場となっている。登り口から登るとすぐに巨大な空堀が待ち構えており、中村と木下はそのボリュームに思わず圧倒された。

(中村)
「看板があるから迷わずにこれましたね。登り口にはトイレもあるし」

(木下)
「『小机城址市民の森』として整備されているだけありますね」

小机城、登り口、トイレ、説明板
登り口には説明板とトイレがある。ここから坂道を上がると・・・

(西股)
「小机城も僕が描いた縄張図があるので、位置を確認しながら行きましょう。ちなみにこの登り口もあとからつくられたものなので、城としての本当の入り口ではありません」

(中村)
「茅ヶ崎城と同じパターン! じゃあ、本当の入り口は・・・って言っている間に、すごい堀が出てきましたね!」

(木下)
「わぁ、これは大きい!!」

(西股)
「大きな堀でしょう。実際に中へ降りてみましょうか」

小机城、空堀
巨大な空堀。人の背丈と比べると、その深さがよくわかる

(木下)
「わあ、降りるとさらにその大きさに圧倒されます。絶対登れない・・・!」

(中村)
「落ち葉がけっこう積もってますけど、ここの堀も本当はもっと深かったんですか?」

(西股)
「そうです。両側の土塁が今は崩れてしまっているんですね。だから、堀は今より2mくらい深かったでしょうし、土塁の立ち上がり方ももっと急だったはずです」

(木下)
「えー! 今でも十分急な角度と高さなのに、昔はもっとすごかったんですか!?」

(西股)
「現状のこの堀でも十分迫力があるけれど、昔はどうだったのかなと頭の中で思い描けるようになると、より城歩きが楽しくなりますよ」

(木下)
「想像するとなんだかワクワクしちゃいますね!」

(中村)
「あれ、堀が途中で分かれていますけど、堀の深さが違いますね」

小机城、縄張図、空堀
縄張図で見るとこんな感じ。空堀の中にも段差がある[作図・提供=西股総生(以下、縄張り図はすべて同)]

(西股)
「茅ヶ崎城と同じように、堀底にギャップをつくっていますね。堀の中に侵入した敵が動き回れないようにしてあるのでしょう」

(木下)
「いろいろ工夫されているんですね!」

櫓台から堀を見下ろすと・・・

——入り口近くの堀を出て、東ノ曲輪へ向かう一行。ピクニックテーブルが設置されており、市民の憩いの場といった雰囲気だ。東ノ曲輪の入り口左手(北側)には一段と高い櫓台が設置されており、そこから見下ろした堀は、最初に遭遇したのものよりもさらに巨大だった。

(中村)
「あっ、一段高い場所がありますよ。登っちゃいましょう!」

小机城、東ノ曲輪、櫓台
東ノ曲輪にある櫓台。階段があるから登ってみよう!

(西股)
「元気だなあ。そこは櫓台です。眺めはどうですか?」

(中村)
「えーと、下を見ると・・・えっ、これは!」

(木下)
「すごい〜! さっき見た堀よりもさらに大きな堀があります!!」

小机城、櫓台、堀底
竹が生えていて写真ではわかりにくいが、櫓台から見た堀底は約10mほどある

(木下)
「櫓台って、見張り台なんですよね」

(西股)
「同時に防御の拠点でもあります。櫓台の上に立てば、堀底の敵は丸見えですからね」

(中村)
「なるほど! でも私たちが入ってきた方(南側)からだと、こっそりやってきたら気づかないかも」

(西股)
「今はこの櫓台しか残っていませんが、実はこの南側にも櫓台が設置されていたんです。その後、櫓台を崩して、この東ノ曲輪への入り口(南西側)はつくられたんです

小机城、縄張図、曲輪、櫓台
東ノ曲輪の現在の入り口。現在は片側(北側)のみ櫓台がある

(中村)
「ってことは、もともとこの入り口はなかったってことですか?」

(西股)
「はい。城用語では入り口のことを虎口(こぐち)というんですが、東ノ曲輪の本当の虎口は南東側にあったんです。その虎口に行ってみましょうか」

虎口に凝らされた工夫とは

——東ノ曲輪の南東側には、人が一人しか通れないような細く曲がりくねった道が続いている。途中から崩れてしまっているため、通過することはできない。

(西股)
「最初に入ってきた道は本当の入り口じゃないといいましたけど、この虎口に通じる道が本当の城の入り口です」

(中村)
「鬱蒼としてるし、道は細いですね・・・。人一人通るのがやっとです」

(木下)
「しかも、道がくねくねしてますね。なんて使いにくそうな入り口なんだろう」

小机城、東ノ曲輪、虎口
東ノ曲輪の虎口。木々で鬱蒼としており、危うく見落としそうになる

(西股)
「木下さん、もし木下さんがこの城を攻めるとしたら、さっき見てきた堀や壁のような土塁を頑張って越えるのと、城にもともとある入り口から攻めこむのと、どちらを選びますか?」

(木下)
「それはもちろん後者です! あんな大きな堀、越えられないですよ!」

(西股)
「でしょう。だから城の虎口は、わざと入りにくい構造にするんです。一番防御力を固めなくちゃいけない場所ですからね」

(木下)
「なっ、なるほど・・・」

(中村)
「虎口の防御が肝心だというのはわかりましたけど、道がくねくねしてるだけで、そんなに敵を防げるんですか?」

(西股)
「真っ直ぐに道を通すよりも、折り曲げた方が侵入者を仕留める機会が増えるんです。これは縄張図を見るとわかりやすいですね。高台をまわりこむように道がついていますが、この高台にいれば、敵を上から狙いたい放題です」

(中村)
「本当だ!」

小机城、縄張図
紫のルートが本来の入り口。道が曲がる場所では足が止まるため、城兵は敵を狙う機会が増える

小机城、虎口
落ちていた竹を、槍のかわりに構えてみる。虎口へ侵入してくる敵は、この間合いなら槍で突き伏せられそうだ。しかも、戦国時代の槍はもっと長い

(木下)
「槍をかいくぐって虎口に突入したとしても・・・」

(西股)
「東ノ曲輪に入った途端に、櫓台からの射撃が待っています」

(木下)
「こわっ!」

(中村)
「昔の人は、よく攻めようなんて思ったな・・・」


西股先生のワンポイント講座
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<小机城を築いたのは誰?>
小机城が最初に築かれたのは戦国時代初期。その後、北条氏によって現在の形に築かれた。小机城の歴史をひもとこうとすると、背景にある複雑な関東地方の戦国史を学ばねばならないから、実はとてもややこしい。しかし大事なのは、実際に歩いて巨大な堀を体感すること。歴史を十分知らなくても、城歩きはしっかりと楽しめるはずだ。




——東ノ曲輪をぐるりと囲む堀にも降りてみる。この堀は、最大で深さ約10m以上、堀の上幅は約20mを超える巨大なものだ。

(木下)
「あー、もうすごいという言葉しかでてきません」

(中村)
「同じく。これ、人力で掘ったんですよね・・・」

(西股)
「そうですよ、左右の土塁の高さがだいたい山の稜線と考えたら、この堀はまるっとくり抜いたことになりますね」

(木下)
「ひえぇ・・・」

(中村)
「実際に来たからこそ味わえる迫力ですね・・・」

小机城、東ノ曲輪、堀
東ノ曲輪の西側の堀。圧巻のひと言である

——巨大な堀に圧倒されっぱなしだった一行。続けて西ノ曲輪方面を目指します。

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[城名]小机城(神奈川県横浜市)
[アクセス]JR横浜線小机駅から徒歩約10分で小机城址市民の森
[駐車場]なし
[見学時間]1時間30分くらい
[服装]周囲は木々が茂っているので、長袖長ズボンがベスト。靴はスニーカーでよい
[トイレ]南側の登り口に1か所あり
[その他]東ノ曲輪にピクニックテーブルあり。近くには自販機やコンビニがある。

西股総生(にしまた・ふさお)
1961年、北海道生まれ。城郭・戦国史研究家。学生時代に縄張のおもしろさに魅了され、城郭研究の道を歩む。武蔵文化財研究所などを経て、フリーライターに。執筆業を中心に、講演やトークもこなす。軍事学的視点による城や合戦の鋭い分析が持ち味。主な著書に『戦う日本の城最新講座』『「城取り」の軍事学』『土の城指南』(ともに学研プラス)、『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』『首都圏発 戦国の城の歩き方』(KKベストセラーズ)、『杉山城の時代』(角川選書)など。その他、城郭・戦国史関係の研究論文・調査報告書・雑誌記事・共著など多数。

執筆者・写真/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・二川智南美)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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