ナワバリスト西股さんと行く! ビギナー女子の山城歩き ビギナー女子の山城歩きSTEP2【茅ヶ崎城の壱】駅から徒歩5分! 駅近物件で縄張り図を広げてみたの巻

山城ってどういうところを見ると面白いの? そんな山城初心者の方のために〝ナワバリスト〟西股総生先生と実際に山城を歩きながら学ぶ「ビギナー女子の山城歩き」。今回は、駅徒歩5分の優良物件、茅ヶ崎城(神奈川県横浜市)へ。

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遊歩道になっている、茅ヶ崎城の空堀。正真正銘、ここは横浜市である

横浜市営地下鉄のセンター南駅からスマホを使って城へ向かう

——今回、ビギナー女子が指定を受けて集合したのは、神奈川県横浜市のセンター南駅。前回に引き続き参加する中村蒐と、土の城は初訪問となる木下春圭は、果たしてここに城があるのか?と、集合場所で頭をかしげていた。

(木下春圭:以下木下)
「はじめまして、グラフィックデザイナーの木下です。よく城の本を手がけるのですが、土の城に実際に行くのは今回がはじめてです。よろしくお願いします。…今日は茅ヶ崎城(ちがさきじょう)という城に行くって聞いてたんですが、集合場所あってますよね?」

(中村蒐:以下中村)
「私もまさかこんな大きな駅とは思わなくて、びっくりです。出口もいっぱいあって迷っちゃいました」

(西股総生:以下西股)
「センター南駅から徒歩圏内なんて、とってもいい物件の城でしょう?」

(木下)
「家賃高そうですね(笑)。でも、本当にそんなに近いんですか?」

(西股)
「本当か疑ってますね?(笑)。さて、城はどこにあるでしょ〜か?」

(中村)
「ええ! えっとスマホで検索っと…。あっ、これかなぁ。『茅ヶ崎城址公園』というのがヒットしました。徒歩5分って出てきましたよ」

(木下)
「近い!」

(西股)
「城跡は公園になっていることが多いんです。それじゃあ、スマホの地図を見ながら向かってみましょう」

(中村・木下)
「はい!」

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スマホでルートを検索

——歩道橋を渡り、住宅街の中を3分ほどまっすぐ進むと、「←茅ヶ崎城址公園」と書かれた看板があった。看板の後ろは、樹木で覆われた丘になっている。

(木下)
「看板の通りに行けば問題なさそうですね。もしかして、看板が設置されているこの丘が城跡なんでしょうか」

(中村)
「それっぽいですよね。この丘沿いに進んだら、入り口があったり…しました! 本当に5分くらいで着いちゃった」

(木下)
「まわりは閑静な住宅街だし、入り口は町中によくある公園って感じだし、気にしないと、いつもなら城だって気づかないかもな〜」

(西股)
「入り口の案内板には城の全体図が書いてありますね。確認してから中に入りましょうか」

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茅ヶ崎城の入り口。雰囲気はいたって普通の公園

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いざ茅ヶ崎城へ!左から西股先生、中村、木下(株式会社ウエイド)

城のガイドブック=縄張り図!?

——入り口から階段を昇ると、いきなり分かれ道になっており、行き先を示した標柱が立っていた。先ほどまでの住宅街とは一変、公園というよりちょっとした“森”のような空間が広がっている。

(木下)
「えーと、分かれ道にある標柱には『右が西郭(にしくるわ)、左が北郭(きたくるわ)・中郭(なかくるわ)』って書いてありますが…。何がなんだかさっぱりわかりませーん!」

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入り口から入ってすぐの分かれ道。どっちに行けばいいのだろう?

(西股)
「さっそく迷っているね? まずは標柱の上を覗いてみましょうか」

(中村)
「上…? あっ! 現在地が書いてある!」

(木下)
「本当だ、気づかなかった! これは方向音痴にも嬉しい!」

(西股)
「便利ですよね〜。これはぜひ、全国のお城でやってほしいです」

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茅ヶ崎城では、標柱の上に地図が書いてあり、現在位置を把握できる

(西股)
「さて、現在地がわかったのはいいけれど、ここからどうしますか?」

(木下)
「えーと…西股さんに教えてもらわないと何がなんだか…」

(西股)
「そうですよね、どういう順路で巡り、どこが城の遺構で何が見所なのか、見定めるのはビギナーにとっては至難の業です。今回は僕もいるし、茅ヶ崎城は地図や看板が設置されていて便利だけれど、もし僕がいなかったらどうしますか?」

(中村)
「ええ!ただのお散歩で終わってしまいそうです」

(西股)
「そうですよね、よほどたくさんの城を巡っていない限りは、城では水先案内人が不可欠です」

(中村)
「じゃあ、ガイドなしで城歩きをする人は、なにを頼りすればいいんでしょうか?」

(西股)
「ガイドブックなどの地図のほか、“縄張り図(なわばりず)”を活用する方法もありますよ」

(木下)
「縄張り図…??」

(西股)
「じゃじゃーん。これは僕がつくった茅ヶ崎城の縄張り図です」

(中村)
「線がいっぱい引いてありますね…。なんだか難しそう」

(西股)
「ガイドマップ的なものだと思ってください。縄張り図を見られるようになると、どこが“堀”でどこが土の盛られた“土塁”か、そんなことがわかるようになるんです。パッと見は難しそうですが、原理はとても簡単なんですよ。まずは自分がどこにいるか、確認しながらいきましょう」

(中村)
「えっと、標柱の地図と照らし合わせたら…ここですね!」

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中村「私たちが今いるのはここですね!」

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分かれ道を縄張り図に書き込んだところ[作図・提供=西股総生(以下、縄張り図はすべて同)]


西股先生のワンポイント講座
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<城の設計図「縄張り図」とは?>
「縄張り」とは、城全体の平面プラン、つまり城の“間取り”を表すようなもののことを指す。実際に城を歩いて確認しながら、この間取りを図に書きあらわしたものが「縄張り図」だ。スマホの操作と同じで、原理さえ飲みこむことができれば、感覚的に読み取ることができる上に、慣れてくると、チラシの間取り図から実際の部屋をイメージできるように、縄張り図から城の様子を想像することが可能だ。最近は現地の立て看板に縄張り図が書かれていることがあり、それをスマホで撮影するのもありだが、どのお城にも必ずあるわけではないため事前に書籍で縄張り図を手に入れていくのがベスト。また縄張り図自体がない城もある。

昔はもっと深い堀だった遊歩道

(木下)
「現在位置がわかったところで…、結局どっちに行きます?」

(中村)
「う〜ん、木が茂ってて雰囲気があるから、右に行きましょう! それにしても、遊歩道が整備されてて歩きやすいですね」

(木下)
「昔の人もここを歩いていたのかなー」

(西股)
「木下さん、ここは昔、道ではなかったんですよ」

(木下)
「えっ!?」

(西股)
「道として舗装されたのは、公園として整備された時です。もとは城のどんな部分だったかわかりますか?両サイドが壁のように高くなっていて、道だけすごく深いところを通っているのがヒントですよ」

(中村)
「はいっ! 堀だと思います! 向こうの看板に『空堀』って書いてあるので!(笑)」

(西股)
「その通りですね(笑)。ここは、遊歩道にした時に少し埋めているので、実際の堀はもう2〜3m深かった」

(木下)
「そんなに!」

(西股)
「発掘調査で、この堀は底を平らにせず、角の部分にギャップ、すなわち大きな段差がつけられていたことが判明しています。つまり、この城の堀は、人が出入りする通路としてではなく、敵の侵入を防ぐためにつくられたんです」

(木下)
「堀にはそんな役割があったんですねー」

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空堀だった遊歩道。両側のそりたつ壁は高い

自分が今、城のどこにいるのか探してみよう!

——遊歩道を進むと、すぐ右手に10段ほどの階段がある。これを登ったところが西郭だ。遊歩道はロープで区切られ、遊歩道以外は草木が生い茂っている。

(中村)
「“右が西郭”と標柱がありますね。行ってみましょう!」

(木下)
「平らな場所ですね。でも、遊歩道が続いていますが・・・」

(西股)
「堀や土塁、人工的につくった切岸(きりぎし)で囲まれた城内の区画を郭(曲輪・くるわ)といいます」

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西郭の様子。ビギナーが見れば、原っぱにしか見えない

(西股)
「さて、この西郭、どこを見ると城らしさがわかるとおもいます?」

(中村)
「城らしさ、か…。ヤブっぽくてワイルドなところが廃城っぽいとか?」

(木下)
「私は平らだなぁとしか思いません…」

(西股)
「確かにワイルドですが(笑)、木下さんが言うとおり、ビギナーはどうしても平らな部分や説明看板だけに目が行ってしまう。でも、城は敵を防ぐための施設だから、工夫が凝らされている部分は、すべて郭の外側の方にあるんですよ。だから、周囲を見渡しながら歩くと、“ここが城である”と実感できるんです。さて、周囲を見渡すと何がありますか?」

(木下)
「地面が盛り上がった部分があります!」

(中村)
「土塁、っていうんですよね」

(西股)
「そう、敵の攻撃や侵入を防ぐためのものですね。堀や土塁がまわりにないと、簡単に敵が入ってきちゃうわけです」

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西郭の南側の土塁。地面が人の背丈ほどまで盛り上がっている

(中村)
「でもこの西郭、土塁が一方向(南側)にしかないですよ。これじゃあ他の方角からきた敵を防げない」

(木下)
「あの、他の外側の方もこころなしか地面がこんもりしてる気がしません?」

(西股)
「それですよ木下さん! 土塁は土を人工的に盛ったものですから、長い時間が経つと崩れてしまう。でも、昔はもっと高かったはずです」

(木下)
「それならちゃんと敵を防げますね!」

(中村)
「西郭のほかの場所にも土塁があるのかな…? 確認してみたいけど、ヤブで覆われているし、ロープが張ってあるから確認できないや」

(西股)
「土の城には、こうした整備されていないところ、立ち入るのが難しい場所があります。でも、縄張り図を見てみてください。この色を塗った場所が土塁なんですが、西郭をぐるっと囲っているのがわかりますね」

(中村)
「なるほど! 縄張り図があれば、遺構を見落とさなくて済むというわけですね」

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西郭は北、西、南の三方を土塁に囲まれていることがわかる

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西郭の西側の土塁。崩れて低くなっているのでわかりにくいが、こうした高まりを見つけられるかどうかが、城を歩く時のポイントだ

西股先生のワンポイント講座
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<ナゾが多い茅ヶ崎城>
茅ヶ崎城がいつ、誰によって築かれ何に使われていたのか、よくわかっていない。室町時代後半から戦国時代のはじめに築かれたと考えられているが、その後何度か改修されたことが発掘調査でわかっている。本丸にあたる中郭からは建物跡や陶磁器などの生活用品も出土しているが、倉庫として使われた建物もある。中世〜戦国時代の城はこうした歴史が不明な例が多いが、まずは実際に歩いてみたい。


柵の外側だって見逃さない!

——西郭を抜け、東郭方面へと続く道を進む一行。この道は公園の南端を通っており、南側の地形が一気に下がっているため柵が設けられている。

(中村)
「西郭の裏側には、柵が設置されているんですね。ってことは、城の範囲もここまでなんですよね」

(西股)
「いえいえ、柵はあくまでも公園の区画としてつくられたものですから、城の範囲を示すものではありませんよ。この柵の向こう側の地面はガクっとおちていますが、あれ、空堀なんです」 

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柵の外にある空堀を指さす西股先生。公園として整備された範囲が城跡のすべてとは限らない

(木下)
「えっ、そうなんですか!」

(西股)
「ほら、大事な部分は外側にある、と言ったでしょ。あと、柵と空堀の間には、わずかながら土塁も残っていますよ。よく見ると地面が盛り上がっている気がしません?」

(中村)
「なんとなく、土が盛り上がっているような…?」

(西股)
「歩いていくと、高まりが続いているでしょう? 僕たちがいる遊歩道は堀を埋めてつくられている、ということを念頭に置くとわかりやすいかもしれませんね」

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縄張り図では、堀は堀、土塁は土塁として表現されている

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柵の外側にあるという土塁を見つめる二人。いわれて見ればたしかに高まりが続いている

——城で大事なのは一番外側の部分。その言葉を胸に刻み込んで、次回に続きます。

▶後編はこちら

▶「ナワバリスト西股さんと行く!ビギナー女子の山城歩き」その他の記事はこちら

[城名]茅ヶ崎城(神奈川県横浜市)
[アクセス]横浜市営地下鉄センター南駅から徒歩約5分で茅ヶ崎城址公園
[駐車場]なし
[見学時間]1時間くらい
[服装]普段着でOK、靴はスニーカーでよい
[トイレ]北郭に1か所あり
[その他]ベンチが各所に設けられている。近くに自販機やコンビニはないが、駅が近いのでそこで全部済ませられる。

西股総生(にしまた・ふさお)
1961年、北海道生まれ。城郭・戦国史研究家。学生時代に縄張のおもしろさに魅了され、城郭研究の道を歩む。武蔵文化財研究所などを経て、フリーライターに。執筆業を中心に、講演やトークもこなす。軍事学的視点による城や合戦の鋭い分析が持ち味。主な著書に『戦う日本の城最新講座』『「城取り」の軍事学』『土の城指南』(ともに学研プラス)、『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』『首都圏発 戦国の城の歩き方』(KKベストセラーズ)、『杉山城の時代』(角川選書)など。その他、城郭・戦国史関係の研究論文・調査報告書・雑誌記事・共著など多数。

執筆者・写真/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・二川智南美)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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