2018/10/30
ナワバリスト西股さんと行く! ビギナー女子の山城歩き STEP6【座談会の壱】オーバーな装備こそはしゃげるんだ
一見、ただの山と木しか見えないけど、山城ってどういうところが面白いの? どこに注目すればいいの? そんな迷えるお城初心者のために、実際に山城を歩きながら山城を学ぼう!という「ビギナー女子の山城歩き」。今回は、今まで5城歩いての復習をかねて〝ナワバリスト〟西股総生先生とこれまで連載に登場したビギナー女子が対談。実際に城に行ってみての感想や縄張図について語り合いました。
これまでにめぐった5城の縄張図とともに話に花を咲かせる、左から伊達、西股先生、中村、二川
山城を楽しむなら、まず足元の装備から!
——これまでの連載で山中城(静岡県)、茅ヶ崎城(神奈川県)、新府城(山梨県)、小机城(神奈川県)、深大寺城(東京都)の5城を、縄張図を片手にめぐってきた西股総生先生とビギナー女子(かみゆ歴史編集部 中村蒐・二川智南美、STEP3の新府城で登場の伊達レン)たち。実際に行ってみたからこそわかった山城の魅力や大変さを、生の声でお届けします。今回は、ビギナー目線、女子目線から見た山城歩きへの心構えや準備を語り合いました。
(西股総生:以下西股)
「さて、はじめは山城に行った率直な感想から聞かせてください。伊達さんは新府城(山梨県)に行かれたわけですが、第一印象はいかがでしたか?」
(伊達レン:以下伊達)
「まず、ちょー田舎だなって思いました(笑)」
(二川智南美:以下二川)
「新宿から特急で2時間かかりましたもんね。でも、STEP2で行った茅ヶ崎城やSTEP4で行った小机城(ともに神奈川県)は横浜市の駅から徒歩5〜10分なんで、ひと口に山城といってもさまざまですね」
(伊達)
「そんなお手軽に行けちゃう山城もあるんですか! 新府城も最寄り駅からは歩いて15分くらいでしたけど、まず駅に着くまでが遠かった・・・。でも、ちょっとした小旅行みたいで楽しかったです!」
(中村蒐:以下中村)
「伊達さん、最初からテンション高かったですよね。私と二川さんが初めて訪れたのは山中城(静岡県)だったんですが、とにかく寒くて大変でした!!」
(二川)
「標高が高くて風が強かった上に、訪れた時期が12月でしたからね。もっと暖かい格好をして行けばよかったです・・・」
山中城の障子堀はきれいだったけれど・・・寒い!
(中村)
「格好といえば、実は私、山中城は革靴で行っちゃったんです。整備されていて歩きやすいと聞いていたから、大丈夫かな〜と甘く見てました。あれは足が痛くなっちゃって、失敗したなあ」
(西股)
「確かに山中城は、山城の中でも遺構が整備されていますが、坂や階段はたくさんありますからね」
(中村)
「はい・・・。整備がされていても、そこはやはり“山城”でした」
(伊達)
「私も普段外に出ない人間なので、新府城に行くと決まって、慌てて服やシューズ一式を買いにいきましたね。最初は半ズボンでいいかなー、なんて軽く考えていましたが、家族に止められました(笑)」
(二川)
「半ズボンだと、虫さされだったり、枝や葉で切ってしまったりするので、危なかったですね」
(中村)
「本で下調べをしていた時、装備や持ち物欄に「登山靴かトレッキングシューズで」とか「防寒対策はしっかりと」とか「軍手があった方がよい」とか書いてあるのを読んで、大げさじゃないか? と思っていたんですよ。行く前までは。でも、実際はそんなことなくて、ウィンドブレーカーがないと凍え死んでいたし、手をつかないと登れない場所もたくさんあったから軍手があった方がよかったし、本に書かれていることは決してオーバーじゃなかったんだなって思いました」
(西股)
「中村さんのいうとおり。革靴やパンプスでも歩けないことはないけれど、トレッキングシューズの方が足が絶対に楽だし、足回りがしっかりしていて軍手もあれば、行動範囲がぐっと広がりますよね。土塁の上に登ってみたり、堀の底に降りてみたり、+αの楽しみ方ができるんです」
(中村)
「あと、足元がしっかりしていないと、足元ばかり気にしてしまって、肝心の山城の遺構を見落としてしまいがちでした」
(二川)
「確かに! 柵の向こう側の堀を見落としちゃった、とかあったよね」
(伊達)
「なにより、装備が整っていると、遠慮なくはしゃげますよね! 藪の中をかきわけたり、あちこち走ったり、意外と動きますから。おかげで私は次の日、全身筋肉痛になって動けませんでしたけど!」
(一同)
「(笑)」
新府城に参加した漫画家の伊達。普段はなかなか外を出歩く機会がないそう
(西股)
「トレッキングシューズって、足首までしっかり守ってくれるから、ケガをしにくいんですよ。さらに、軽いストレッチを最初と最後にしておくと、筋肉痛対策にもケガ防止にもなっていいですよ」
(中村)
「ストレッチも、初めて山城に行く人からすればオーバーな気がするかもしれませんけど、すごく大事ですよね!」
(伊達)
「その大切さ、本当に身にしみました・・・!」
新府城の丸馬出から撃たれるマネをして、はしゃいでいた伊達と石原
知識を蓄えることと城の楽しさを知ることは違う
(西股)
「山城に行く前後で、印象が変わったこと、訪れてみて意外だったことはありますか?」
(中村)
「山城っていうと、ヤブの中を必死に歩いたり、急勾配がずっと続いたり、クマが出現したりするイメージだったんですけど、訪れた5城は全然そんなことなくて、攻略しやすかったです」
(西股)
「すごいイメージを持っていたなぁ(笑)」
(二川)
「駅から徒歩5分の茅ヶ崎城なんて、“森の多い公園”って感じで、イメージとは全然違ったよね」
茅ヶ崎城内の様子。城と知らなければ、ただの自然豊かな公園だ
(伊達)
「意外なことかぁ・・・。私は、自分が山城歩きを楽しめたことが意外でした」
(西股)
「というと?」
(伊達)
「私、戦国武将は好きですけど、城についてはまったく知識がなかったので、楽しめるかなぁ、大丈夫かなぁって心配で」
(西股)
「ビギナーの人はみんなそうやって遠慮するんですよ。自分は城の知識がないって」
(伊達)
「私もまさに遠慮してましたし、最初は西股先生が話すことを覚えなきゃ、覚えなきゃ・・・って必死になってました。でも、西股先生に、ここに武田勝頼がいたんだよ、という風に教えてもらって、城の遺構と城の歴史が重なってきたところから、一気に城歩きが楽しくなりました」
(中村)
「伊達さん、最初の枡形虎口で、勝頼が火を放って焼けた門の跡を見つけた瞬間、はしゃぎまくってましたよね」
(伊達)
「そうそう! だって自分の城に火を付けて逃げなきゃいけないとか、すごく心にぐっとくるじゃないですか! 勝頼様ー! って叫びたくなりました(笑)」
(二川)
「いやもう実際に叫んでましたよ(笑)」
新府城の搦手の枡形虎口に残る門跡。調査により、勝頼が新府城に火を放った時の、門が焼けた跡が見つかっている。
(西股)
「楽しんでもらえたようでなによりです。さっき言ったように、行く前の伊達さんみたいに、「自分は歴史や城の知識がないから」って尻込みしちゃう人、たくさんいるんだけど、知識を蓄えることと城のおもしろさを知ることはまったく違うんだよね。中村さんも歴史や武将にあまり興味ないけれど、楽しんでいたでしょう?」
(二川)
「STEP5の深大寺城(東京都)に行った次の日、会社の人に深大寺城のことを熱弁していたもんねー」
(中村)
「そうなんですよ! 深大寺城の自然を使ったばっちりな守りとか、それなのに北条氏にスルーされちゃったドラマとかがすごかったので、つい・・・!」
(西股)
「歴史や城について知識がなくても、つまり誰でも山城は楽しめるんですよ! ビギナーの人には、ぜひそのピュアな心と目で山城を楽しんでほしいと僕は思います」
中村(左)と二川は同じ会社。中村が会社の人に、深大寺城の魅力を語っているのをばっちり目撃していた
ビギナーにはツアーやイベントの参加がおすすめ
(伊達)
「ビギナーにとって一番難しいのって、山城って一見何も残ってないように見えることなんですよね。「えっ、この斜面って切岸っていう人工の崖なの!? 」みたいな。だから、これは1人じゃわからないし歩き回れないなーって思いました」
(中村)
「確かに、私たちは西股先生と一緒だったから、山城の遺構はもちろん、歴史やドラマも直接聞けたけれど、西股先生がいない場合はどうすればいいんだろう?」
3人の後ろの斜面は、実は人工的に造られた崖である「切岸」。ビギナーには自然の斜面にしか見えない
(西股)
「最初はツアーやイベントに参加するとよいと思いますよ。僕も開催しているし、今ならネットで検索すれば、いろいろ出てくると思います」
(二川)
「ツアーとかあるんですね! それなら山城へ行くハードルがぐっと下がりそう」
(西股)
「僕が気をつけているのは、ビギナーがいる時はトイレがあるかどうか、もしくは近くにコンビニがあるかどうか、確認しますね」
(伊達)
「えぇ! トイレがない城があるんですか! それはムリムリ!」
(二川)
「めぐった5城は全部トイレがありましたけど、山城はトイレがない方が多いらしいですからね・・・」
(西股)
「だから僕は、山城に行くときは利尿作用のない、ノンカフェインのお茶を選んで持っていくし、イベントの参加者にもそう伝えます。意外と大事です(笑)」
(中村)
「ちなみに、山城ってけっこう藪の向こうに堀など遺構があったりするじゃないですか。西股先生と一緒だと、ついて行って藪をかき分けちゃいますけど、どこまでなら行ってもいい、という指標はあるんですか?」
(西股)
「それは難しいところですが、ツアーなどにある程度参加すると、自分でこれくらいの藪なら行けるなーと判断できるようになります」
(二川)
「整備されているところだと、柵などで立ち入り禁止になっているところがありましたね。そこはもちろん入ってはいけないですが」
(西股)
「あと、茅ヶ崎城みたいにお散歩気分で行ける城から、本格的な登山の準備をしないと行けないレベルの高い城までいろいろあって、行くうちに自分が行けるレベルはこれくらいだな、というのがわかってきます。だから、徐々にステップを踏んでいって、自分にあったレベルの範囲から城を選んで楽しめばよいと思います」
(中村)
「これから山城歩きを始めるぞというビギナーは、最初はツアーやイベントに参加するのがよさそうですね!」
向かって左に貼ってある巨大縄張図を見ながら、西股先生に山城の極意を尋ねる中村
——対談はまだまだ続きます! 次回は縄張図について語る・・・はずが思わぬ展開に!? お楽しみに!
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西股総生(にしまた・ふさお)
1961年、北海道生まれ。城郭・戦国史研究家。学生時代に縄張のおもしろさに魅了され、城郭研究の道を歩む。武蔵文化財研究所などを経て、フリーライターに。執筆業を中心に、講演やトークもこなす。軍事学的視点による城や合戦の鋭い分析が持ち味。主な著書に『「城取り」の軍事学』(角川ソフィア文庫)、『戦う日本の城最新講座』『土の城指南』(ともに学研プラス)、『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』『首都圏発 戦国の城の歩き方』(ともにKKベストセラーズ)、『杉山城の時代』(角川選書)など。その他、城郭・戦国史関係の研究論文・調査報告書・雑誌記事・共著など多数。
執筆/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・二川智南美・中村蒐)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。最近の編集制作物に『歴史REAL いま見るべき日本の名城』(洋泉社)、『廃城をゆく6〜石垣の城を極める!』(イカロス出版)、『テーマ別だから理解が深まる日本史』(朝日新聞出版)、『マンガで一気に読める! 日本史』(西東社)、『御朱印めぐりと寺社巡礼さんぽ』(廣済堂出版)などがある。