昭和お城ヒストリー 〜天守再建に懸けた情熱〜 第7回 【富山城】「荒城の月」のモデルのひとつ

昭和という時代にスポットを当て、天守再建の背景にある戦後復興や町おこしのドラマに迫る「昭和お城ヒストリー」。今回は富山県にある富山城を取り上げる。富山産業大博覧会を機に建造された城である。

富山城、天主閣、富山産業大博覧会、
多くの人が訪れた富山産業大博覧会の様子と建設された富山城天守閣(富山市郷土博物館提供)

富山市のランドマークとして城を建てる

昭和29年(1954)4月11日~6月4日、富山城址公園で富山産業大博覧会が開催された。約74万人が訪れたこの博覧会は、昭和20年(1945)8月2日未明の富山大空襲によって、市街地の99%が壊滅する被害を受けた富山市街の復興を記念して行われた。

予算3億5000万円(当時の平均年収は約20万円)を投じ、「電力を基礎とする産業と文化の発展」をテーマに、約50の展示館を富山城址公園に建てて近代都市への復興をアピール。その際、閉会後は郷土博物館にすることを前提に、また戦災復興のシンボルとして建設されたのが富山城(富山市郷土博物館)である。

彦根城犬山城大垣城などを参考に、慶長期の天守形式を取り入れた鉄筋コンクリート造りの建物で、最上階に望楼を載せた三重四階の天守に、二重二階の小天守を付属させた堂々たる城郭である。

しかし、実際には江戸時代に天守が建造されていなかったため、現在の富山城は模擬天守といえる。ただ、富山城の場合、幕府から天守を建ててもよいとの許可は出ていたものの、外様大名であることから徳川家に遠慮して、あえて天守を築かなかったらしい。

博覧会の会期中は「美の殿堂」と名付けられ、最上階から一望できる富山市街、立山連峰は多くの人を楽しませた。会期終了後は、郷土の歴史を紹介する博物館であるとともに、富山市のランドマークとして市民に親しまれている。

富山城、水堀、城壁
水堀越しの富山城。水面に映える白壁が美しい

荒城の月の題材となる

唱歌「荒城の月」。哀愁漂うメロディは誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。土井晩翠作詞、滝廉太郎作曲の日本を代表する歌である。

土井晩翠は故郷である仙台の青葉城(仙台城)や旧制二高時代に訪れた会津若松城を題材に詩を書き、滝廉太郎もまた、思春期を過ごした大分の岡城をモデルに構想を練った。じつは、滝廉太郎が少年時代を富山で過ごしたことから、富山城も歌の題材のひとつになったといわれている。

滝廉太郎は、一年生のときに父親の仕事の関係で、富山城内にあった富山県尋常師範学校附属小学校に転入し、三年生の半ばまで在学。「お正月」や「雪やこんこん」は富山での生活を偲んで作曲されたという。

彼が小学校に通っていた明治19年(1886)頃、富山城はすでに廃城となっていた。建築物は民間に払い下げられ、富山藩時代の政庁だった本丸御殿は県庁舎として、二の丸の櫓御門は小学校としてそのまま利用され、他の建物は解体されていた。「荒城の月」の哀愁を帯びた曲調はこうした情景からも着想を得たのだろうか。

富山城、ライトアップ、セントラム、路面電車
ライトアップされた富山城。城の前には路面電車「セントラム」が走る

そもそも富山城は、越中国の中心に位置し、交通の要衝にあったため戦国時代には激しい争奪戦が繰り広げられた。上杉謙信、織田信長、豊臣秀吉など名だたる武将が富山城を支配下に治めている。その後、加賀100万石の前田家の所領となり、分家の富山藩が誕生した際、本丸御殿が築かれて、明治を迎えるまで政治の中心として続いた。

江戸時代には富山城に天守は存在しなかった。しかし、建設から50年の節目を迎えた経た富山城(富山市郷土博物館)は、富山市のシンボルとして、また、戦後復興期を代表する建物として平成16年(2004)に国の文化財に登録される。昭和に入って建てられた天守ながらその歴史を認められたのだ。

平成20年(2008)には、市内の民家に移築されていた千歳御門が城内に修復移築された。現存する唯一の富山城建築物であり、徳川家の姫を迎えるにあたり加賀前田家が建てた現在の東京大学赤門と同じ建築形式である。


富山城(富山県富山市)
富山城は天文12年(1543)に神保長職によって築かれた。その後、上杉謙信、織田信長の手に渡り、城主となった佐々成政が大改修を行う。佐々成政が豊臣秀吉に屈すると、前田利家の所領となり、江戸時代に加賀藩の分家である富山藩の政庁として明治維新まで続いた。

執筆/かみゆ歴史編集部(丹羽篤志)
歴史関連の書籍や雑誌・デジタル媒体の編集・制作を行う。ジャンルは日本史全般、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど。『別冊歴史REAL 「山城歩き」徹底ガイド(洋泉社)、『学研ムック 超ワイド&パノラマ 鳥瞰イラストでよみがえる歴史の舞台』(学研プラス)など。

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