お城ライブラリー vol.6 三浦正幸著『城のつくり方図典 改訂新版』

お城のガイドや解説本はもちろん、小説から写真集まで、お城に関連する書籍を幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は、城づくりを学ぶには欠かせない1冊、三浦正幸著『城のつくり方図典 改訂新版』をご紹介します。




こだわり抜かれた内容とデザインに注目

「城の建物の構造を知りたい」「近世城郭について深く学びたい」——そんな向学心を持つ人にお薦めなのが、本書『城のつくり方図典』である。著者は広島大学大学院教授で、一級建築士の資格を持つ三浦正幸氏。氏の城郭研究を体系的にまとめ上げた決定版ともいえる1冊で、初版は2005年に発売されてロングセラーとなっており、平成の大改修を終えた姫路城公開を契機として、2016年に改訂新版が発売された。改訂新版では、最新研究を踏まえて安土城や豊臣期大坂城などの復元図が一新されている。

明治以降の建築学・建築史研究の中で、城郭建築は長らく日の目を見なかった。日本建築史の中でメインストリームとなっていたのは社寺や宮殿、茶室などで、城郭を語ることは敬遠されるきらいがあったという。明治時代には城が前時代の江戸幕藩体制の象徴であること、戦後は城が軍事的施設であることが、敬遠される理由であった。三浦正幸氏はそうした状況に一石を投じ、建築士・建築学の視点から城郭を捉えた第一人者といえる。そうした氏の研究成果が城への愛情と相まって、密度の濃い本書へと結実している。

“城への愛情”は、特にコラムに見ることができる。コラムには「家相学」「転用石」「江戸軍学」「土塀の長さ十傑」といったテーマが並んでおり、城マニアはこんな細かいところに着目するのかと、思わず唸ってしまう。ちなみに、本書が取り扱っているのはほぼ近世城郭であり、中世の城の解説がないわけではないが、基本的には視野に入っていない。なので、山城や中世城郭を含めた城のすべてを解説しているわけではないという点は、読書の前に留意が必要だ。中世城郭/近世城郭という違いは城というコインの裏/表としてあり、本書はコインの片面である近世城郭を知るための唯一無二の本なのである。そのことは、この本の意義や価値を何ら貶めるものではない。

さて、近世城郭を学ぶ決定版といえる本書だが、内容だけではなく、装幀やデザインにも着目していただきたい。カバーを飾るイラストは名古屋城岡山城広島城の復元断面イラストをコラージュしたもので、読者を城郭建築の奥深さに導くような、不思議な魔力を放っている。単体で復元イラストを掲載するだけでは、この奥深さ、この味わいは出せなかっただろう。中味のデザインも、各項目のピクトデザインや見出しの見せ方、ケイや囲みの使い方など端々までこだわりが感じられる。ブックデザインは小学館の美術書を多く手掛けている、装幀家・グラフィックデザイナーのおおうちおさむさん。本書はデザインの点でも、多くの城本とは一線を画しているといえる(城本に携わる立場としては、ある意味負けを認めるようで悔しいですが)。

改訂新版の装幀は、同じコラージュイラストを使用しつつ、黒地白抜きのデザインへと生まれ変わった。怪しい光沢を放つ本書は、あなたの城本ライブラリーの中でも特別な存在感を持つ1冊となるだろう。

城のつくり方図典改訂新版
[著 者]三浦正幸
[版 元]小学館
[刊行日]2016年

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執筆/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康)
書籍や雑誌、ウェブ媒体の編集・執筆・制作を行う歴史コンテンツメーカー。日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなどを中心に、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける。城関連の最近の編集制作物に、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『日本の山城100名城』『山城を歩く』(ともに洋泉社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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