2019/12/09
超入門! お城セミナー 第82回【構造】なぜ石垣は崩れずに現代まで残っているの?
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回のテーマは、石垣の構造について。近世城郭に残る石垣は、なぜ現代まで崩れることなく残っているのでしょう。高く丈夫な石垣を造るため、当時の人が行っていた工夫をご紹介します。
大阪城(大阪府)の髙石垣。徳川家の城として改修された大阪城には、当時の最先端の技術が使われている
堅固な石垣を造るには、まず基礎を固めることが重要!
何百年もの間、地震や風雨に耐えながら威風堂々と城跡にそびえている、見事な石垣たち。時代や土地柄、石材事情、また城主の身分や好みなどによって外見は多少異なってはいますが、どこの石垣も、その時代の石工たちの技術の結晶です。
でも、どうして鉄筋コンクリートやセメントも使わずに石を積み上げているだけで簡単に崩れなくなるのか、不思議に思ったことはありませんか? 普段、私たちは石垣の表面を鑑賞していますが、きっとその奥に何か秘密があるに違いありません。それでは、今回は石垣の内側の構造をのぞいてみることにしましょう!
まずは、あの巨大で重い構造物を支えている土台について。その構造は、この連載の第34回「日本一高い石垣ってどこ?」の終盤で簡単に説明しています。石垣が多用されたのは、平城や平山城に分類される平野部の城。斜面などの自然地形に頼ることができないので、石垣を築いて守りを固めました。
でも平野部の地盤は、山に比べてやや弱め。水堀をめぐらせるなら、なおさらです。周囲の地盤は水分を多く含んだ砂や粘土の層になってしまいます。たとえ、石垣の底辺である「根石(ねいし)」をしっかりと敷き詰めたとしても、底の面積が広大な高石垣だとこの根石がバラバラに沈下(不同沈下)してしまい、ズレが起こって崩落につながってしまうのです。
近世城郭の堀は水堀が主流。石垣を築く際には、しっかりとした基礎工事を行うことが重要だった。写真は伊賀上野城(三重県)本丸石垣
これを防ぐための技法が、「胴木(どうぎ)」です。根石のさらに下側に、基礎として木材を敷くことによってズレを防ぎます。でも、水で木が腐ったら意味がないのでは?と思いますよね。ところが、地下水に浸かっていた古代の木簡が現代までキレイに残っていた例があるように、木材は常に水に浸かった状態なら、絶対に腐らないのだとか。逆に、濡れたり乾いたりの状態だとすぐに腐ってしまうので、陸上の石垣には胴木は使われません。
清洲城(愛知県)で発掘された石垣。胴木の模型上に復元され、石垣の構造が分かるようになっている
この胴木には、脂を多く含んで水に強く、粘り気があって折れにくい松が最適とされています。胴木そのもののズレ防止のために、丸太を敷いたり杭を打ったりして固定したら、この胴木の上に根石を据えていくのです。
石垣を長持ちさせるには、栗石をたくさん詰めること!
さあ、これで水堀の底でもズレを起こさないしっかりとした土台ができ上がりました。次に、「積み石」を積んでいきます。完全に加工された石を使う切込接(きりこみはぎ)という積み方だと石と石の隙間がありませんが、自然石を使う野面積(のづらづみ)や、粗く加工した石を使う打込接(うちこみはぎ)の場合、表面より少し後ろの部分で石同士が接するように積みます。さらに後ろ側の隙間に見合った大小さまざまな「飼石(かいいし)」を入れて固定させます。これを繰り返して、最上部の天端石(てんばいし)まで積んでいきます。
石積み作業の様子。石垣は突き固めた土塁に石材を貼り、その内側に栗石を詰めるという手順で造られる(イラスト=香川元太郎)
ここまでの作業をしっかりやれば、それだけで自立できるほど強固になるのだそうですが、実はその裏側がとても重要なのです。積み石の後ろ側には、「裏込(うらごめ)」という栗石(ぐりいし/栗の実ほどの小石という意味)をぎっしりと詰め込みます。この栗石は石垣を裏からしっかりと支え、さらに内部の排水を担ってくれています。降り注いだ雨水は速やかに裏込部分を通過して底まで流れ落ちます。これによって余分な水を溜め込まず水圧もかからないので、石垣が安定するのです。現代の石垣やブロック塀などには、丸い排水パイプが付いていますが、積み石に適度な隙間があり、裏込がしっかり詰まった城の石垣は、わざわざパイプを設置する必要はありません。
現在、天守台の発掘調査が行われている駿府城(静岡県)の発掘現場。発掘現場では石垣の内部など普段見られない遺構が見られるので、ぜひ足を運んでみてほしい
築城技術が最も発達した、いわゆる「慶長の築城ラッシュ」の頃、城の石垣の裏込は幅5mほどもあったそうですが、時代が下るとともに手抜きになっていき、幕末頃にはほとんど裏込がないのだとか。
ちなみに、石垣の表面の隙間には、「間石(あいいし。間詰石とも)」という石を詰めます。見事に詰まった姿にはホレボレしますが、これは敵の手掛かり・足掛かりになるのを防ぐためと、見映えを良くするためのもの。構造には関係がなく、荷重が掛かるものではないので、抜け落ちてしまっても強度には影響がないのだそうです。
名古屋城(愛知県)本丸の石垣。一分の隙間なく間石が詰められた美しい石垣だ
表面を見るだけでは分からない石垣の底や内部の秘密。これを知ると、石垣を鑑賞する時の目の付けどころも変わってきそうですね。記事の前半で写真を紹介しましたが、清洲城(愛知県)の付帯施設「ふるさとのやかた」の前には、発掘された石材を使って城の石垣の一部が復元展示されています。正面からは丸く見える石も、実は奥に長細いこともよく分かりますし、胴木の技法も復元されています。ぜひ一度見に行ってみて下さいね!
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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。