2018/09/10
超入門! お城セミナー 第34回 【鑑賞】日本一高い石垣ってどこ?
初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロからわかりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。今回のテーマは、石垣の高さ比べ。安土城築城以降、飛躍的に向上した築城技術により10mを超えるような高さをもつ石垣がいくつも築かれましたが、その中で最も高い石垣は何城のどこの石垣なのでしょうか。高石垣ベスト3と全国各地の高石垣を紹介します。
城を守り、見るものを圧倒する石垣。そんな石垣の中で最も高いものは一体何城にあるのだろうか? (写真は津山城)
日本一高い石垣は何城にあるの?
近世城郭の象徴のひとつである石垣。「日本の城」の姿を構成する、なくてはならない要素のひとつでもあり、城好きの中には石垣マニアがたくさんいます。さて今回は、マニアならずとも感動せずにはいられない、近世城郭の高石垣にスポットを当ててみましょう(なお、何m以上が高石垣という明確な定義はありません)。
中世城郭や東日本の土の城では、石積みはおもに土留め程度の役割でしたが、織田信長の安土城の出現を境として、西日本の城を中心に高い石垣が築かれるようになりました。広い水堀の水面から天に向かって立ち上がるその威容は、現代の私たちにも大名の強大な権力を十二分に物語ってくれています。
では、現在日本で見ることができる城の石垣の中で、いちばん高い石垣は、どの城のどの部分の石垣なのでしょうか?
現在判明している数値でベスト3といわれているのは、以下の3か所です。
第1位 大坂城(大阪府)本丸東面 約32.0m
第2位 大坂城南外堀 約30.0m
第3位 伊賀上野城(三重県)本丸西面 約29.7m
これは、水堀の下の地面に接して基礎となる「根石」から、石垣最上部の「天端石(てんばいし)」までの垂直の高さです。各数値がおおよそなのは、水堀の下の部分はなかなか計測できる機会がないことと、その機会の有無が城によってまちまちなため。大坂城の堀の調査がされるまでは伊賀上野城が日本一といわれていたのですが、現在は3位。とはいえ、この数値自体が不確定なため、現在でも伊賀上野城を2位としているランキング結果もあるようです。城ごとのランキングだと堂々の2位になります。
1位の数値は頭ひとつ(人間1人分以上?)抜けてはいますが、「日本一の石垣の高さは約30m」と認識しておけばいいですね。しかもこの上位の石垣3面とも、設計したのは築城名人の回でも紹介した、藤堂高虎(とうどうたかとら)なのです。さすがは江戸時代の城づくりの第一人者ですね。惜しくもランクインしなかったものの、全国には20m超えの石垣がまだまだたくさんあります。その一部を見てみましょう(やはり上記の理由で、数値は確定ではありません)。
熊本城(熊本県)の監物台下石垣は約25m、姫路城(兵庫県)帯の櫓下の石垣は約23mの高さがあります。江戸幕府の本拠地・江戸城(東京都)はどうなっているのかというと、本丸北面の石垣が高さ約21mを記録しています。
熊本城監物櫓の高石垣は見事な曲線を描く扇の勾配をもつ。上部の櫓は熊本地震で被災し、解体が決まっている(写真は地震前に撮影)
高石垣が折り重なる「一二三段」
これらの高石垣とは趣の異なる高さを持つのが、平山城特有の「一二三段(ひふみだん)」といわれる段々に折り重なった石垣。丸亀城(香川県)、岡山城(岡山県)、津山城(岡山県)などが代表的で、下から見上げると西洋の要塞かと見まがうほどのガチガチ感が見事です。一段でも高さ20m前後の石垣もある丸亀城は、総高60mにも及びます。石垣にまみれながら登城するような感覚が石垣マニアにも人気の一二三段、行ったことがない人はぜひ一度体感してみて下さい。
丸亀城は亀山の高低差を利用して、何段にも折り重なる石垣を築いている
さて石垣の高さは、水深が上下する堀の水面から計るのではなく、水面下にある根石から計らなければ正確ではありません。では、水面下の石垣の構造はどうなっているのでしょうか。
山に比べて、平城や平山城が築かれた平野の地盤はちょっと弱め。さらに水堀やその周辺は、水分を多く含んだ砂や粘土の層となり、そんな弱い地盤に巨大な石垣や建造物群を築いてしまって大丈夫なのか疑問に思いませんか?
嚴島神社(広島県)の水中鳥居は、基礎がないにも関わらず、柱の中にたくさんの石を詰め、自重で建っていることが知られています。重さによって水中でも安定するなら、城の石垣も大丈夫かと思いきや…底面が広大な高石垣だと根石がバラバラに沈下してしまい、ズレを起こして崩落につながります。これを防ぐために「胴木」と呼ばれる木材を根石の下に基礎として敷く技法が用いられています。石垣内部や下部の構造については、またの機会に詳しく解説するので、お楽しみに!
先ほど高さ日本一の石垣として紹介した大坂城本丸東面の石垣は、水面から出ている部分は約24m。残りの8mは水中に没している
堀の水面下にはこのような構造が隠れているわけですが、堀の深さや根石の大きさ、そしてもちろん石垣本体の石材の大きさは城によってさまざま。つまり、「石垣の高さは目に見える部分だけがすべてではない」ということなのです。全国の城の石垣の、同じ条件下での正確な数値が出揃う日は、果たしてくるのでしょうか?