2019/11/26
【イベントレポート】「全国山城サミット 可児大会」開催! 山城におぼれる2日間!!
全国の山城を有する自治体で開催される、年に1度の祭典「全国山城サミット」。第26回を数える今回は、山々が色づきはじめた11月9日(土)・10日(日)の2日間、岐阜県可児市で行われました。城ファンと地元ボランティアの笑顔にあふれた、山城めぐりの様子を中心にレポートします。
▼本年度のイベント概要についてはこちらの記事をチェック!
「第26回 全国山城サミット 可児大会」のチラシ
2日間でのべ2万3000人が参加!
今年もこの季節がやってきた。秋は山城の季節、そして「山城サミット」の季節である。
今年の山城サミットの開催地は岐阜県可児(かに)市。続日本100名城にも選ばれている美濃金山城を有する可児は、毎年秋に「山城に行こう!」と題したイベントを開催してきたこともあり、山城ファンにはすっかりお馴染みの地だ。
「今年の『山城サミット』開催は、毎年行ってきた『山城に行こう!』の集大成と位置づけています」と市の担当者が話してくれたとおり、イベントの内容はたいへん豪華なもの。会場となった可児市文化創造センターalaには、30近い自治体のブースが軒を並べ、それに加えて物販やゲームなどのコーナーも多く、移動することもままならないほどの大混雑。可児をはじめ、岐阜の自治体には2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』の主役である明智光秀ゆかりの地が多いため、光秀を紹介するコーナーやチラシ、大河ドラマ館の案内が目立った。
屋外広場に設置された「まんぷく横丁」。「みんなで城トローネ」や「国盗り野戦鍋」など、味もネーミングも一工夫された地元のグルメが並んだ
明智光秀らイケメン武将の看板が置かれた撮影コーナー
会場のメインステージでは、中井均先生の基調講演からスタート。中井先生は可児の山城整備事業を、「城を守りたいという地元の人の思いがあり、それを支える自治体があり、地元や自治体から依頼されて研究者が城を調べ、そうした活動を地元企業がバックアップしてくれる。地元・自治体・研究者・起業の四位一体がとてもうまく回っている例」と評価した。メインステージではその後2日間にわたって、マンガ『センゴク』の作者である宮下英樹さん、ラジオDJのクリス・グレンさん、多くの城本の著書を持つ加藤理文先生、テレビの歴史解説でお馴染みの河合敦先生らが登壇。山城の魅力や楽しみ方があらゆる角度から語られ、会場は笑いと拍手に包まれていた。
中井均先生の基調講演の様子。会場は満員御礼だ
トークショーでは春風亭昇太師匠がサプライズ出演。ビデオレターを送ってくれた。師匠も参加したかったのだろう
明智光秀の出生地とされる明智城も会場に
さて、「山城サミット」の主役はもちろん、参加する城ファンとその地にある城である。山城を訪れないことにははじまらない。
可児の山城の特徴は、「美濃金山城おまもりたい」「久々利城跡城守隊」「今城址を整備する会」というように、城ごとに地元の方々によるボランティア組織が結成され、可児市山城連絡協議会を通じて横の連携をとりながら活動していることだ。各団体は1年を通して、草刈りや雑木の伐採、登場路や説明看板の整備、城のガイドといった活動を行っている。山城サミットでもボランティアの方々が城ファンを出迎え、ガイドやもてなしをしてくれた。
今年は上記の美濃金山城・久々利城・今城に加え、明智城が山城めぐりの会場となった。「明智」という城名を見てピンときた人も多いだろう。その名のとおり、明智光秀ゆかりの地で、光秀の出生地とされる城のひとつだ。
明智城にひるがえる「明智光秀生誕の地」の幟。マンガ『センゴク』に登場する光秀のキャラが使用されている
明智城山麓の天龍寺に残る明智氏歴代の墓所。手を合わせる人も多かった
明智光秀の出自については謎に包まれているのだが、武家の名門・土岐氏の流れをくむ「土岐明智氏」の一族だと考えられている。この「土岐明智氏」が治めたとされているのが旧可児郡の「明智荘」(現在の可児市北東部)であり、その居城が「明智城」だったと伝わっている。明智光秀はこの明智城に生まれ、20代まで明智荘にいたと地元では考えられているのだ。
明智城へは山麓から徒歩15分ほど。ハイキングコースを登った先にある城は規模の小さいシンプルな城であるが、主郭に設けられた展望台からの眺望は素晴らしい。明智荘を一望できるように、2019年に入って木々の伐採を行ったのだという。山麓に戻ると、「明智荘をみつめる会」のみなさんがお茶を振る舞ってくれた。
城内では、光秀の出自の謎に迫るミニ講座も開かれていた。熱心に聞き入る参加者たち
展望台から明智荘を一望する。写真右手に美濃金山城が見える
「明智荘をみつめる会」は2019年に結成されたばかりの団体で、先行する「美濃金山城おまもりたい」や「久々利城跡城守隊」などから城の整備や運営の仕方について学びながら、明智城を中心とする町おこしを行っていくのだという。「大河ドラマをやる来年は、全国から人が来るでしょ。光秀の出生地候補はほかにもあるんで、負けんようにしないとね」とスタッフは力をこめた。
地元のボランティアによる温かいおもてなし
明智城以外の城も、3城3様の見どころともてなしがあった。各城では御城印と登城証が販売。このうち登城証の代金は、可児市山城連絡協議会の運営協力金にあてられるもので、2枚集めるとオリジナルグッズと引き換えることができる。このあたりの仕掛けも可児市は上手い。
久々利城は、長年にわたる城の整備事業と城下町の景観保護活動が評価され、2019年に都市景観大賞を受賞している。山城の構造が手にとるようにわかる見事な整備は、はじめて訪れた城ファンの感嘆の声を誘っていた。
草木がきれいに刈り払われた久々利城。切岸の角度や曲輪のかたちがよくわかる
御城印も登城証も売り切れ続出。著者は、今城の御城印は午前中最後の1枚をゲット。久々利城の登城証は売り切れで手に入らなかった
城のわかりやすさという点では今城も負けておらず、これまで見ることができなかった城の裏手まで整備の手が及んでいた。恒例の芋煮は今年も大人気! 200人分用意したのだが昼を待たずになくなりそうになり、急遽100人分追加したほどだった。城歩きで疲れた身体に染み入る一品である。
芋煮を振る舞う「今城址を整備する会」のみなさん。縄張図がバックプリントされたスタッフジャンパーを着ている
各城では地元のボランティアが懇切丁寧にガイドしてくれる。山城ビギナーでも安心だ
可児市域最大の城である美濃金山城では、発掘調査の現地説明会が実施されていた。滋賀県立大学の中井均ゼミによる主郭の調査がここ数年来行われており、発掘された遺構面を観察しながら、実際の調査を担当しているゼミ生が解説。天守想定部分の発掘調査なのだが、発掘するほどに謎が深まり、建物の全容をつかむには難しい状況なのだという。「礎石は発掘されたのか」「出土した瓦をどう評価するのか」などの疑問が矢継ぎ早に飛び、参加者とゼミ生がいっしょになって議論を深めていた。
美濃金山城で登城者を出迎えてくれたチビッ子武将隊。山麓にある可児市立兼山小学校の5・6年生で、自ら立候補して参加していた
天守想定箇所の調査説明の様子。このような発掘場所は調査後すぐに埋め戻されてしまうため、現場を見られるのは貴重な機会だ
会場では、地元の可児工業高校建築工学科の生徒が制作した、美濃金山城の主郭建造物のジオラマも展示されていた。発掘調査の関係者に取材し、生徒自ら何度も城に足を運んでつくり上げたのだという
今回の山城サミットの参加者は、2日間でのべ2万3000人になったという。昨年までの「山城へ行こう!」をはるかに上回る参加者であり、用意した御城印や登城証の品切れが続出し、会場の近隣では交通渋滞を起こすというちょっとしたトラブルもあった。主催としては嬉しい悲鳴だろう。
山城サミット1日目のトークショーで、中井先生が前述の「行政・地域住民・研究者・企業の“四位一体”の活動が大切」と発言したことを受けて、城郭ライターの萩原さちこさんが「そこに城ファンも加えて、“五位一体”としてもいい。城ファンにできることもたくさんある」という意見を述べ、会場から拍手がおきたのが印象的だった。時間と人手とお金をかけた山城の整備は、そこに城ファンが訪れることではじめて成立する。山城の整備を一過性のものにしないために、城ファンができること・すべきことは多い。山城や城のイベントに参加する、城鑑賞のルールを守る、なるべく地元の人との交流をはかる、ふるさと納税やクラウドファンディングを通じて整備事業を支える…などなど。城の祭典をたっぷり堪能したうえで、そんなことを少しだけ考えた2日間であった。
▼昨年度のイベントの模様はこちらの記事をチェック!
執筆・写真/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がけるジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。最近の城関連の編集制作物に『図解でわかる 日本の名城』(ぴあ)、『はじめての御城印ガイド』(学研プラス)、『廃城をゆく ベスト100城』(イカロス出版)など。