お城ライブラリー vol.16 安西水丸著『ちいさな城下町』

お城に関連する書籍を幅広く紹介する「お城ライブラリー」。第16回は、イラストレーター・安西水丸の『ちいさな城下町』。村上春樹の小説の装丁など、さまざまな仕事を手がけたイラストレーターは、大の城好きでもありました。

人気イラストレーターによる味わい深い城下町紀行

2014年に逝去したイラストレーター、安西水丸。本書は安西が亡くなる直前まで『オール讀物』で執筆していた連載に、いくつかの書き下ろしを加えてまとめたものだ。

全部で21の城下町エッセイが収録されているが、訪れているのはどこもおよそ石高10万石以下の「小さな城下町」。安西によれば、「そのくらいの城下町が、一番それらしい雰囲気を今も残している」のだという。

最初に取り上げられているのは新潟県村上市の城下町。村上春樹と全国の工場見学を取材する道中、偶然立ち寄ったのがきっかけだというなれそめにはじまり、時おり脱線しながら村上市の街の歴史をたどっていく。そして村上藩のことを「五万九十石という石高が渋い」と評する。石高を「味わい深い」という意味で「渋い」と表現すること自体がかなり渋い気もするが、安西の城下町をみる視点をよくあらわしているともいえる。

村上市には1年にわたる上杉謙信との籠城戦に耐えた村上城があるが、その話にはまったく触れていない。かといって逆張りやニッチな部分を攻めようとしているわけでもない。気の向くままに安西が綴るのは、城下町の面影を残す武家屋敷や縄張りの妙、地域の特産品、名物の祭り……だがどれも深入りしすぎることなく、車窓を景色が流れていくように話題もうつろっていく。

他の回でも、江戸期の飯田城(長野県)下の地図をニューヨークのマンハッタン島に似ているという連想をしたり、かと思えば交番で「藩校」の場所を聞いて「ハンコってなんですか」と返されてがっくりしたり……。歴史や城の雑誌ではなく、文芸誌上での連載だったことも関係しているだろうか、城や城下町の魅力を伝えようという気概がなく、「城ブーム」の盛り上がりからちょっと離れたところで書かれている。安西自身の思い出話も多く、本格的に城下町のことを知りたい人には物足りないかもしれない。だが、こんな風に個人的に城を味わう楽しみもあるのだと気付かせてくれる、しみじみと「渋い」エッセイだ。

数ページごとに挿入される漫画やイラストも魅力的。肩の力が抜けたイラストのおかげで、ぱらぱらとめくっているだけでも楽しめる。1回完結で頭から読む必要もないので、気ままに目にとまった回から読んでも良いだろう。

ちなみに、安西はこの連載と同じく、亡くなる直前まで『歴史発見』(学研)という歴史雑誌でもお城についてのエッセイを連載していた。その最終回で、安西は特に好きな城として備中松山城(岡山県)、大洲城(愛媛県)、二本松城(福島県)を挙げている。この3城をめぐったエッセイも、本書に収録されている。安西氏がその城下町で何を見て、何を感じたのか。それはぜひ、自分で読んで確かめてみよう。

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[著 者]安西水丸
[書 名]ちいさな城下町
[版 元]文春文庫
[刊行日]2014年

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執筆/かみゆ歴史編集部(小沼理)
書籍や雑誌、ウェブ媒体の編集・執筆・制作を行う歴史コンテンツメーカー。日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなどを中心に、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける。城関連の最近の編集制作物に、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『日本の山城100名城』『山城を歩く』(ともに洋泉社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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