お城好きの気象予報士が「お天気目線」で解説!〜色が変わる!?雨の日に見てみたいお城〜

暖かい春になってお出かけしやすい季節になったと思ったら、間もなく梅雨入り…。しかし、そんな梅雨シーズンでも、いや、逆に梅雨シーズンだからこそ行ってみたいお城があるのです! 今回は、大のお城好きである気象予報士の久保井朝美さんに、雨の日に魅力が増すおすすめの4城を“お天気目線”で紹介していただきます。

お城はいつ訪れても楽しく、胸が高鳴る場所ですが、季節ごとの魅力もあります。訪れる季節によって違う顔を見せてくれます。今回は、梅雨にもオススメできる、雨の日ならではの楽しみ方があるお城がテーマです。

もうすぐ雨の季節がやってきます

九州から東北の梅雨入りの平年日は、5月末から6月中旬にかけてです。

天気図

こちらは、九州北部と関東甲信から東北南部が梅雨入りした令和2年(2020)6月11日の天気図です。梅雨前線が日本付近に停滞しています。

そして、太平洋高気圧の勢力が強まって梅雨前線が北上し、梅雨明けする平年日が九州から関東甲信は7月中旬、北陸から東北は7月下旬。この間、1カ月半くらいは雨が降りやすい期間となります。また、沖縄と奄美の梅雨は5月前半から6月下旬、北海道には梅雨はありません。

お城めぐりに適した天気として思い浮かぶのは、「晴れ!」という方が多いのではないでしょうか。青空とお城のコントラストは、たしかに美しいです。ただ、雨の日に魅力が増すお城もあります。

雨の日こそ訪れたい名城①和歌山城(和歌山県和歌山市)


1つ目は、和歌山城(和歌山県和歌山市)です。

和歌山城は、水戸徳川家、尾張徳川家と並ぶ徳川御三家の一つである、紀州徳川家のお城でした。現在の天守は、市民からの希望によって戦後に復元されたものです。

和歌山城
和歌山城(画像提供:(公社)和歌山県観光連盟)

和歌山城は天正13年(1585)、豊臣秀吉(当時は羽柴秀吉)の弟・秀長によって築城されました。普請奉行は、築城の名人として名高い藤堂高虎です。その後、徳川家康の10男・頼宣(よりのぶ)が入城し、紀州徳川家のお城となりました。紀州徳川家は、江戸幕府8代将軍の吉宗を輩出しています。

和歌山城は年代によって異なる石垣が見られます。天守台石垣は築城時の最も古い石垣で、和歌山が産地の緑色片岩(緑泥片岩)が多く使われた野面積みです。石仏や石塔などの転用石も見られます。

和歌山城、緑色片岩の石垣
緑色片岩は野面積みの石垣に多く用いられている

緑色片岩は地下深くで変成してできます。片理(へんり)という縞模様が見られ、縞目に沿って板状に割れやすい性質があり、加工しやすいのでスピーディーな築城を可能にしました。

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濡れた石垣の一部

緑色片岩の石垣であることが、雨の日の和歌山城を魅力的にしています。もともとブルーグリーンの美しい石ですが、水に濡れるとさらに色が鮮やかに見えるのです。

この地の緑色片岩は、「紀州青石」といわれます。石垣が緑色片岩でできた近世城郭は珍しいとされていますが、紀伊水道の向こう側にもう1つあります。それは、天守代用の御三階櫓があった東二の丸から紀伊水道を望むことができる、徳島城(徳島県徳島市)です。

雨の日こそ訪れたい名城②徳島城(徳島県徳島市)

徳島城(徳島県徳島市)は、豊臣秀吉(当時は羽柴秀吉)の四国出兵で手柄を上げた蜂須賀正勝の息子・家政が、かつてあった渭津(いのつ)城を修築し、幕末まで蜂須賀家が治めました。水陸要衝の地に築かれたこともあり、江戸時代を通じて徳島城下町は賑わいました。

徳島城
徳島城。堀に海水が引き込まれている

徳島も緑色片岩の産地であり、石垣に使われています。雨の日は、水に濡れることでブルーグリーンがさらに美しく見えるのです。

徳島城、石垣
徳島城の石垣でも緑色片岩が積まれている

和歌山の「紀州青石」に対し、徳島の緑色片岩は「阿波青石」といわれます。

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阿波青石を使った石垣

また、旧徳島城表御殿庭園にも緑色片岩が多く使われていて、中でも全長10m以上の自然石でできた橋は圧巻です。枯山水にかかる大きな石橋は風情があります。龍のようにも見えて、雨の日には迫力が増して感じられるのではないでしょうか。

徳島城、旧徳島城表御殿庭園
旧徳島城表御殿庭園の枯山水にある全長約10mの青石橋(画像提供:徳島市)

この庭園は、枯山水庭(書院の庭)と築山泉水庭(居間の庭)の2つの庭からなっています。築山泉水庭には、地下水路を通して内堀から海水を引き入れていています。潮の満ち引きによって水位が変わる「潮入り庭園」です。

徳島城
眉山から見る徳島城

徳島の有名スポットである眉山(びざん)からも、徳島城を望むことができます。写真中央の緑色のところが城山です。

雨の日こそ訪れたい名城③丸岡城(福井県坂井市)

福井県坂井市の丸岡城は、雨の日に表情が変わるお城といわれます。

丸岡城の天守
丸岡城の現存天守(画像提供:公益社団法人福井県観光連盟)

現存12天守の一つで、天正4年(1576)に柴田勝家の甥で養子になった勝豊が築きました。福井藩主の松平忠直の隠居によって本田家が独立して、丸岡藩が成立。寛永元年(1624)に本多成重が丸岡藩の初代藩主となりました。現在残る天守は、江戸時代の寛永年間(1624~1644年)に建てられたと、近年の調査により判明しています。

丸岡城,久保井さん,お天気お姉さん
笏谷石の瓦。「笏谷石で作られた瓦は天守閣に入り急な階段を登れば間近に見ることが出来ます(肉球さん)」(城びと「みんなの投稿」より)

丸岡城が雨の日に表情が変わって見える理由は、石製の瓦です。笏谷石(しゃくだにいし)という、福井県の伝統的石素材でできています。「越前青石」ともいわれ、水に濡れることでブルーグリーンが鮮やかになるのです。瓦の色の印象は強いので、雨の日は天守自体の様子が違って感じられます。

丸岡城天守の瓦約6000枚のうち、20%くらいが笏谷石でできた瓦です。笏谷石は、約1600万年前の火山活動で降り積もった灰でできた火山礫凝灰岩(かざんれきぎょうかいがん)。加工しやすい石だそうです。

今の天守にある鯱は木芯銅張りですが、かつては鯱も笏谷石でできていました。福井震災で天守から落下し、現在は天守登り口の脇に展示されています。

丸岡城,久保井さん,お天気お姉さん
昔のしゃちほこ。todo94さんご投稿。(城びと「みんなの投稿」より)

丸岡城に石瓦が使われているのは、雪が多い地域だからです。土製の瓦では厳しい寒さに耐えられず割れてしまうため、石製の瓦を使うことになったといわれます。
このように、お城と天気は密接な関係にあり、お城はその土地の気象に合った工夫がされていることが多いです。

雨の日こそ訪れたい名城④高知城(高知県高知市)

全国でも雨が多い地域の一つである高知。「南海道随一の名城」とも称されている高知城(高知県高知市)は、現存12天守の中で唯一、本丸御殿も現存するばかりでなく、本丸のほぼすべてが江戸時代から現存しています。

高知城の追手門と天守
高知城の追手門と天守(画像提供:(公財)高知県観光コンベンション協会)

関ヶ原の戦い後、慶長6年(1601)に山内一豊が築城を始め、息子・忠義のときに三の丸が完成。約10年でほぼ全城郭ができました。天守は一度火災で焼失してしまい、現在の天守は1700年代に再建されたものです。

雨が多い地域で、昔から水害が繰り返されていたため、高知城は数々の雨対策がされています。

高知城、久保井朝美
高知城の天守と筆者

まず、天守の漆喰には「土佐漆喰」が使われています。一般的な漆喰の材料との大きな違いは、土佐漆喰には糊が使われていないことです。糊を使わないので水に対して強く、土佐漆喰は雨への耐久性に優れているという特徴があります。

長押(なげし)型水切りも雨対策の一つです。雨が入ってきて浸水するのを防ぐために、城壁などに設けられています。

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高知城の建物の壁面や土塀の裾に見られる長押型水切り。橋吉さんご投稿(城びと「みんなの投稿」より)

もう1つ、石垣の上部に突き出している部分がありますが、これは雨への備えとして作られた石樋(いしどい)です。高知城の石垣には多くの石樋が確認されています。

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高知城の石垣に設けられている石樋。こうちゃんさんご投稿(城びと「みんなの投稿」より)

石樋は排水設備の一つで、城内の水を城外に排出する役割があります。石垣に水が直接当たらないように石樋は石垣の上部から突き出していて、石樋の下には地面を保護するために水受けの敷石がされています。他のお城と比べ、排水設備が多く頑丈な印象がありました。

下になるほど排水量が多くなるので、大きい石樋があります。ある程度の雨量になると、石樋から排水される様子を見ることができるということです。

以上、雨の日だからこそ見どころのあるお城を紹介してきましたが、「雨の日のお城めぐりもまた一興」と感じていただけましたか?
ただ、雨の降り方が強まるときには無理しないでください。大雨が予想されるときのお城めぐりは大変危険です。
特に梅雨の後半は、大雨になりやすいです。

2020年7月6日の天気図

こちらは令和2年(2020)7月6日の天気図です。九州に線状降水帯ができて、1時間80ミリ以上の猛烈な雨が降りました。福岡県、佐賀県、長崎県に大雨特別警報が発表されました。

また、梅雨前線は南北に動きますが、高気圧の影響などで少し位置がズレれば、雨が降る場所が変わります。このため、梅雨時の天気予報は他の時期より変わりやすいです。いつも以上に最新の天気予報を確認するようにしましょう。

雨の日ならではのお城めぐりを、安全に、楽しんでくださいね。


執筆・写真:久保井朝美(くぼいあさみ)
久保井朝美
城ガール&お天気キャスター(気象予報士・防災士)。愛知県岡崎市出身。名古屋城から近い病院で生まれ、徳川家康が生誕した岡崎城のすぐ近くで育ち、お城に愛着を抱く。長野県の松本城に感動して一層お城への愛が増した。日本100名城スタンプラリーでお城めぐりの楽しさを感じ、日本100名城や続日本100名城ほか、北海道から沖縄まで全国のお城をめぐっている。日本城郭検定2級、気象予報士、防災士、漢字検定1級、チョークアートの資格などをもつ。NHK総合「サタデーウオッチ9」に気象キャスターとして出演、全国で講演会を開催。

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