お城好きの気象予報士が「お天気目線」で解説!〜「リモートお城めぐり」初夏の花と城〜

桜のシーズンもあっという間に終わりましたが、5月から6月にかけての初夏は全国のお城で季節の花が見ごろを迎えます。とはいえ現在はなかなか気軽にお城めぐりができない状況。そこで今回は「リモートお城めぐり」と題し、大のお城好きである気象予報士の久保井朝美さんに初夏に咲く花とお城の共演を紹介していただきます。


お城はいつ訪れても楽しく、胸が高鳴る場所ですが、季節ごとの魅力もあります。訪れる季節によって違う顔を見せてくれます。今回はおうち時間に楽しめる、季節を感じる「リモートお城めぐり」です。

今年の春は記録的な暖かさで、早々にポカポカ陽気になりました。「春のお城」と聞いて思い浮かぶのは、桜との共演という方が多いでしょう。今年は広島で日本歴代2番目に早い3月11日の桜開花が発表されたのを皮切りに、気温の高さが影響して全国的に平年よりかなり早く開花し、3月中に桜前線は東北に達しました。

松本城

私のスマートフォンの待ち受け画面は、7年前の桜満開のときに撮影した松本城(長野県)です。烏城ともいわれる松本城、漆黒の天守と桜のコントラストはいつも見ていたい美しさ! 大好きな1枚です。もう桜の見ごろは過ぎていますが、松本城のHPでは本丸庭園ライブカメラを公開しています。

松本城

ライブカメラではこのアングルのお城を見ることができます。

桜を楽しめるお城は全国に数多くあり、福島県の二本松城と現存12天守の1つである福井県の丸岡城は、一説にはお城の桜が満開になると花が霞のように見えることから「霞ヶ城」といわれるようになったそうです(「霞ヶ城」の由来は異なる説もあります)。

「春に3日の晴れなし」という言葉があるように、桜が咲く頃は日々の天気が変わりやすい時期ということができます。

天気図
出典:気象庁HP

低気圧によって春の嵐になった2021年3月13日の天気図です。この日は大荒れの天気で、東京の世田谷で1日に114.5ミリの雨が降り、3月としては観測史上1位の記録を更新。三重県では今年初めて記録的短時間大雨情報が発表され、千葉県では床上・床下浸水などの被害がありました。家の中にいても雷雨と風の音が凄まじく、台風を思わせるような様子でした。

天気図
出典:気象庁HP

一転、翌日は西から高気圧が移動してきたので、関東から西は晴れました。東京と松江、長崎で、桜の開花が発表された日です。このように低気圧と高気圧が代わる代わるやってくるので、短い周期で天気が変わります。

低気圧は荒れた天気だけでなく南から暖かい空気も運んでくるため、この繰り返しで冬の冷たい空気から春の暖かい空気に入れ替わり、季節が進んでいくといえます。また、春の天気は「ふるふくどん」と表現されることもあります。「ふる」=雨が降る、「ふく」=風が吹く、「どん」=曇天となる(雲がひろがる)ということで、春はめまぐるしく天気が変化することを指しているのです。

気象では3月から5月までが春ですが、5月になると天気は安定して晴天率が高くなります。5月から梅雨入り前の6月にかけての「初夏」は晴れることが多く、暑すぎず寒すぎず過ごしやすい気候になることが多い時期です。

しかし、今はなかなか遠出することができない状況です。お城に行きたい気持ちをグッと抑えている方も多いのではないでしょうか。私も前述したお城のライブカメラを見たり、過去にお城に行ったときの写真を整理したり、眺めて思いを馳せながら過ごしています。

そこで、今回は「リモートお城めぐり」ということで、初夏に咲く花とお城の共演をお楽しみいただきたいと思います。今年はこの記事の写真や動画で味わっていただき、情勢が変わった際に訪れる楽しみにしていただければ幸いです。

樹齢100年を超える藤とのコラボが見られる唐津城

まずは、佐賀県の唐津城です。

唐津城

唐津城は、1602年から7年の歳月をかけて豊臣秀吉の家臣だった初代唐津藩主の寺沢広高によって築城され、現在見ることのできる模擬天守は1966年に建てられたものです。続日本100名城に選定されています。
名護屋城と同じタイプの瓦の破片が大量に出土していて、名護屋城から解体資材を運んで使用したのではないかとみられます。

唐津城

海城らしい、天守からの眺めですね。唐津湾に面していて、天守からは島々、玄界灘を望むことができるんです。目の前に青い空と青い海が広がり、深呼吸したくなる気持ち良さでした。

そんな唐津城では、5月上旬にかけて藤のシーズンを迎えます。

唐津城、藤
写真提供:佐賀県観光連盟

約500㎡もある藤棚とお城のコラボレーションは大変美しいです。唐津城の藤は市の天然記念物にも指定されていて、樹齢100年を超えているそうです。唐津ケーブルテレビジョンのライブカメラでは、お城と藤棚をベストなアングルで見られます。
※現在は石垣修復工事のため、配信が一時中止されています。

またお城の近くには、寺沢広高が防風や防潮のために植林したことがはじまりとなった日本三代松原の1つ「虹の松原」があります。

小田原城では樹齢200年の藤棚が見ごろに

小田原城(神奈川県)でも5月上旬にかけて藤のシーズンとなります。

小田原城、藤
写真提供:小田原市

また、5月上旬にかけてツツジも咲き、6月になると花菖蒲やアジサイが咲くそうです。

小田原城

2013年5月に訪れたときの写真です。このとき藤棚が美しかったことが印象に残っています。

小田原城には複数のライブカメラがあり、色々なリモートお城めぐりが楽しめそうです。小田原市のHPで、天守、常盤木門(ときわぎもん)、お堀端にあるライブカメラの映像が公開されています。このうち、天守を見ることができるのは常盤木門カメラです。

小田原城、常盤木門

こちらが再建された常盤木門。本丸の正門にあたる重要な防御拠点だったので、特に大きく立派な門です。常盤木=常緑樹のことで、松のことを指しているといいます。小田原城が永久に栄えるようにという願いが込められているといいます。

小田原城、銅門

また、二の丸の正門は銅門(あかがねもん)です。

多賀城では800種300万本のあやめが一面に咲き誇る!

もう1つ、私が訪れたお城の中でお花の美しさが印象的だったのは、宮城県の多賀城です。

多賀城跡

奈良時代から平安時代にかけて、陸奥国(むつのくに)の国府が置かれていました。北の重要な拠点として、奈良時代には鎮守府も兼ねました。

多賀城南門
多賀城南門復元イメージ絵(写真所蔵:多賀城市教育委員会)

現在は南門(なんもん)を復元していて、多賀城創建1300年の2024年に公開予定だそうです。南門のすぐ近くには、松尾芭蕉が「おくのほそ道」の旅の途中で訪れて句を詠んだ碑「多賀城碑」があります。日本三古碑の1つで、国の重要文化財(古文書)に指定されています。

多賀城碑
多賀城碑(写真所蔵:多賀城市教育委員会)

碑に刻まれている建立の年月日は「天平宝字6年12月1日」、西暦762年です。この碑は江戸時代のはじめに発見されました。松尾芭蕉は移り変わりが早い世間の中で、変わらない碑を見て「泪(なみだ)も落つるばかり也」と感動を記したそうです。

多賀城碑覆屋
多賀城碑覆屋(写真所蔵:多賀城市教育委員会)

現在はこちらの小さな堂の中にあり、外から格子越しに見ることができます。私が訪れた際には、近くに住んでいる方がいらして、刻まれている文字について解説していただけました。堂の外からははっきりと文字を読むことは難しかったですが、堂の前に解説文がありますし、多賀城市のHPで碑文が公開されています。

そんな多賀城では、6月にはあやめが美しく咲き、「多賀城跡あやめまつり」が開催されています。

多賀城、あやめ

私が過去に訪れたときの様子です。一面に広がるあやめの花。いろいろな種類があり、花の違いを見つけながら楽しみました。

多賀城、あやめ

2020年はイベント中止になりましたが、その際に多賀城市が作成した2020年のあやめ園と2019年のライトアップの様子を紹介する動画「To The NEXT INSTALLATION ~次のインスタレーションに向けて~」がYouTubeで公開されています。

他にもライブカメラやYouTubeで動画を公開していたり、様々な写真を載せているお城があります。またお城めぐりに出かけられる日を心待ちにしながら、「リモートお城めぐり」をしてみるのはいかがでしょう。


執筆・写真:久保井朝美(くぼいあさみ)<お城情報WEBメディア 城びと>
久保井朝美
城ガール&お天気キャスター(気象予報士・防災士)。愛知県岡崎市出身。徳川家康が生まれた岡崎城のすぐ近くで育ち、お城に愛着を抱く。長野県の松本城に感動して一層お城への愛が増した。日本100名城スタンプラリーでお城めぐりの楽しさを感じ、日本100名城や続日本100名城ほか、北海道から沖縄まで全国のお城をめぐっている。日本城郭検定2級、気象予報士、防災士、漢字検定1級、チョークアートの資格などをもつ。TBS「はやドキ!」「ひるおび!」などテレビ番組にレギュラー出演し、全国各地で講演会を開催している。

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