逸話とゆかりの城で知る! 戦国武将 第20回【浅井長政】信長を苦しめた北近江の下克上大名

「逸話とゆかりの城で知る!戦国武将」、第20回は浅井長政の生涯に迫ります。長政は、戦国一の美女とうたわれた織田信長の妹・お市を妻に迎え、信長と同盟を結びました。しかし信長が越前・朝倉氏を攻めたことで、二人の関係は破綻。長政は信長を裏切り、苦しめましたが、最後は信長に滅ぼされました。

浅井長政
浅井長政の子孫が建てた愛知県春日井市の浅井長政像。長政の側室・八重の方は小谷城落城時に長政との子・七郎君を連れて城から脱出。美濃に逃れ、その後、現在の春日井市に移り住んだという

浅井長政、年表

名門を追い落とした北近江の下克上大名だった浅井長政

元々浅井氏は北近江の守護・京極氏の家臣でしたが、浅井長政の祖父・亮政(すけまさ)が京極氏を追放。小谷城(滋賀県長浜市)を築いて北近江の新たなリーダーになりました。この頃から浅井氏は、越前の名門・朝倉氏の支援を受けていたといわれています。

浅井長政、小谷城、首据石
小谷城に残る首据(くびすえ)石。浅井氏初代で長政の祖父に当たる亮政が、六角氏との戦いの際、敵と内通した家臣の首をさらしたといわれている

しかし亮政が没すると、跡を継いだ久政は六角義賢との戦いに破れ臣従。浅井長政は天文14年(1545)に久政の嫡男として生まれますが、六角義賢の“賢”の字を与えられ、賢政(かたまさ)と名乗ります。さらに正室にも六角氏の家臣の娘を押しつけられました。

浅井長政、観音寺城
六角氏の居城だった観音寺城。浅井長政は浅井家が六角氏に従属していた時期に生まれたため、観音寺城下で生まれたともいわれている

この久政の弱腰外交に家臣達は反発。16歳ながら武勇に優れた賢政への期待が高まり、ついにクーデターが勃発。久政は隠居させられ、賢政が当主になります。そして“賢”の字を捨てて新九郎と名乗り、六角氏の嫁を送り返すと、野良田の戦いで六角氏を降し、北近江の戦国大名の地位を確立しました。その後、新九郎は名を長政と改めます。この時選んだ“長”の字は、同じ時期に桶狭間の戦いで名門の今川義元を破った織田信長にあやかったものといわれています。

お市を娶(めと)り、織田信長と同盟を結ぶ

尾張と美濃の2国を制した織田信長も、名門の六角氏を降した長政に注目していました。何より長政がいる北近江は美濃と京の中間にあり、上洛を目指していた信長にとって長政の協力は不可欠でした。

そこで信長は、戦国一の美女とうたわれた妹のお市を長政に嫁がせ、同盟を結びます。この時、長政は長年にわたって恩のある越前・朝倉氏と敵対しないことを条件に、この信長の申し出に応じたといわれていますが、この時点では朝倉・浅井両氏は盟友関係になかったという説もあります。

長政の協力を得られた信長は足利義昭を奉じて京に上りました。その途中、長政は信長と共に観音寺城(滋賀県近江八幡市)を攻め、ついに六角氏を滅ぼします。そして上洛を果たした信長は、足利義昭を室町幕府第15代将軍に据え、その後見人として権勢を奮いました。この頃の長政は信長に従い、お市との間にも、茶々・初・お江が生まれるなど、両者の関係はとても良好でした。

まさかの浅井長政による織田信長への裏切り、その理由とは

信長は、越前の朝倉義景に上洛するよう命じますが、義景が従わないため長政との「朝倉氏は攻めない」という約束を破り、朝倉氏の本拠地である越前の一乗谷へと侵攻しました。この事態に長政は、古くから恩のある朝倉氏を選ぶか、義兄の信長を選ぶか、大いに悩みます。

織田・徳川連合軍は、金ヶ崎城(福井県敦賀市)を落とすと一乗谷へと迫りました。するとそこに浅井長政が背後から攻めてくる、との知らせが入ります。長政は信長を裏切り、朝倉氏を選んだのでした。

まさか長政に裏切られるとは思っていなかった信長は、絶体絶命のピンチに陥ります。しかし家臣達の命がけの働きもあってなんとか京に逃げ延びます。これを「金ヶ崎の退き口」と呼びます。

浅井長政、金ヶ崎城
「金ヶ崎の退き口」の舞台となった金ヶ崎城跡。木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)や明智光秀が殿(しんがり)を務め、死にものぐるいで朝倉軍の追撃を撃退した

長政が信長を裏切った理由については諸説あります。旧知の仲の朝倉氏を助けたかったという理由の他に、父・久政の意向、信長に家臣のように扱われて不満だった、また信長との関係が悪化した将軍・足利義昭から信長討伐の命があった、ともいわれています。

織田信長vs浅井長政の「姉川の戦い」

長政の裏切りに激怒した信長は、金ヶ崎の敗戦からすぐさま体制を立て直し、織田・徳川連合軍で北近江に進軍。姉川を挟んで浅井・朝倉軍と対峙しました。浅井・浅井連合軍は奮闘むなしく敗戦し、小谷城に撤退。この時の戦死者は両軍あわせて数千人に上り、姉川は血で染まったともいわれています。

浅井長政、姉川の戦い
現在の姉川。当時の激戦を物語るかのように、付近には血川、血原などの地名が残る

その後、長政は信長包囲網を形成。信長を追い詰め、宇佐山城(滋賀県大津市)を攻めて信長の弟・織田信治と重臣・森可成を討ちとり、信長がいる堅田砦へと奇襲をかけます。これを志賀の陣といいます。怒り心頭の信長は、逃げ込んだ浅井・朝倉連合軍を匿った比叡山延暦寺を焼き討ち。通説では、この神仏も恐れぬ所業が明智光秀の謀反につながったとされていましたが、近年の研究で光秀は焼き討ちに積極的だったことがわかっています。

翌年、信長が再び北近江に侵攻し、長政は義景に援軍を要請します。さらに武田信玄、将軍・足利義昭が信長に対して挙兵。浅井・朝倉・武田といった有力武将や比叡山延暦寺・本願寺などの寺社勢力が信長包囲網を形成して織田軍を追いつめていきました。ところが、疲労と大雪を理由に義景が突如退却。信長を討つ絶好の機会を逃したと、信玄を激怒させます。

朝倉家とともに滅んだ浅井家

浅井長政、小谷城
浅井氏の居城・小谷城跡。琵琶湖が望め、浅井長政とお市、茶々・初・江の三姉妹が暮らした

さらに、元亀3年(1572)に武田信玄が病死し、信長包囲網は弱体化してしまいます。危機を脱した信長は足利義昭を追放し、室町幕府は滅亡しました。

この頃になると長政の家臣も相次いで信長に寝返り、それをみた朝倉義景は越前に撤退します。そこで信長は一乗谷を攻め、100年に渡って繁栄した名門の朝倉氏を滅ぼしました。一乗谷を焼き払った信長は、北近江に戻ると小谷城を包囲。長政はお市と3人の娘たちを信長に託すと自害し、浅井氏も滅亡しました。

浅井滅亡後の正月、信長は浅井長政・久政親子と朝倉義景の髑髏(しゃれこうべ)に金箔を施し、宴会で披露しました。このエピソードは信長の残虐ぶりを示す逸話として知られていますが、敵だった3人を弔い敬意を表するための行動だったという説もあるそうです。

浅井長政、市、茶々、初、江
浅井長政と市、茶々・初・江の3人の娘達と、嫡男・万福丸の像

長政が自害し、嫡男・万福丸も処刑されたことで浅井氏は滅びました。しかし彼の血は娘たちに受け継がれます。長女・茶々は豊臣秀吉の側室となって豊臣秀頼を産み、次女・初は京極高次に嫁いでいます。2人の系統は絶えてしまいましたが、江戸幕府2代将軍・徳川秀忠の正室となった三女・お江の血筋は女系ながらも15代・慶喜まで受け継がれました。また、お江と前夫の娘・完子と秀忠との娘・勝姫は貞明皇后(大正天皇皇后)の先祖にあたるため、浅井の血は天皇家にも受け継がれているのです。

浅井長政の居城と攻めた城

浅井長政、居城、攻めた城

【居城】小谷城(滋賀県長浜市小谷郡上町、湖北町伊部)
標高495.1mの小谷山にあり琵琶湖が一望できる。大永5年(1525)築城といわれる浅井家三代の居城で、中世三大山城のひとつ。浅井長政と織田信長の妹の市がここで暮らし、後の豊臣秀頼の生母・茶々、徳川家光の生母・江が生まれた。

浅井長政、小谷城、大石垣
小谷城の大石垣。現在は崩壊しているが、高さが5mあった

【支城】横山城(滋賀県長浜市石田町)
滋賀県長浜市と米原市の境に築かれた標高約312mの山城。元は京極氏の支城だったが、浅井亮政が攻略し、長政が拠点として改修。姉川の戦いで織田信長軍が攻略して前線基地とし、木下藤吉郎秀吉が城番になった。

浅井長政、横山城
横山城本丸跡。観音寺本堂からのコースで登城すると、石仏が約10m間隔で置いてあるので迷うことはない

【支城】長比(たけくらべ)城(滋賀県米原市柏原/岐阜県不破郡関ヶ原町今須)
滋賀県と岐阜県の県境にある標高約390mの野瀬山山頂にあり、南麓には旧中山道が通っている。元亀元年(1570)に浅井長政が織田信長に備えるために築いたといわれ、北西の方角に小谷城が望める。

浅井長政、長比城
長比城主郭跡。浅井長政が信長の侵攻に備え、近江と美濃の国境付近に築いた

【攻めた城】宇佐山城(滋賀県大津市南滋賀)
京都と岐阜をつなぐルートの防御のため、織田信長の命により森可成が築いた。浅井・朝倉連合軍に攻められ、森可成は討死した。安土城以前に築かれた石垣の城で、今も面積みの石垣が残っている。

宇佐山城
標高336mの宇佐山にある。琵琶湖まで約1km



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執筆・写真/かみゆ歴史編集部(重久直子)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。戦国時代の出来事を地方別に紹介・解説する『地域別×武将だからおもしろい 戦国史』(朝日新聞出版)や、全国各地に存在する模擬天守・天守風建物を紹介する『あやしい天守閣 ベスト100城+α』(イカロス出版)、『ざんねんなお城』(イカロス出版)が好評発売中!