2017/12/06
城びとインタビュー 春風亭昇太師匠インタビュー[前編] | 山城にハマったのは、「天の邪鬼」な性格がきっかけ?
お城好きの著名人に、城を好きになったきっかけやその楽しみ方を聞く「城びとインタビュー」。第1回は、芸能界きっての城好きである落語家・春風亭昇太師匠が登場。山城の魅力にハマったきっかけとは?
落語家・春風亭昇太師匠
山城好きを決定づけた庵原山城の堀切
—城好きとして知られる昇太師匠。中でも山城好きを公言していますが、きっかけは何だったのでしょう?
本格的に城好きになったのは中学生のこと。ある日、戸棚から自分のへその緒が入っている桐の箱を発見したのですが、その表に「静岡県清水市二の丸町」(現在は静岡市清水区)と書かれていました。「二の丸」という名称がお城に関係していることは知っていたけど、あの辺りにお城なんてあったっけ? あそこにあったのは小学校だったはず・・・。気になって図書館で調べてみると、そこに江尻城という城があったことがわかりました。まさか「江尻小」じゃなくて「江尻城」だったとは! 行ってみても遺構はまったく残っていませんでしたが、いつも商店街に行くために使っていた道が、はるか昔はお城だったというだけで衝撃でした。
その後も調べれば調べるほど、そこら中に城があったことがわかってくる。それから庵原山城(いはらやまじょう)(静岡県静岡市)という城に出会ったんです。それまでも近所の城をめぐっていましたが、庵原山城は僕がはじめて見た遺構がしっかり残っている山城でした。そこには明らかに人為的に尾根を削った堀切があって、それを見た時の感動といったらもう・・・。あの堀切との出会いが、僕の人生を決定づけましたね!
—堀切しか残らない山城のどこに惹かれたのでしょう?
それまでに見た城は遺構なんて残っていなくて、頭の中で当時の姿を想像するだけでした。それが庵原山城では、ずっと思い描いていた景色が目の前に広がっているんですよ! 鎧姿の足軽がカチャカチャと音を立てながらこの場所を歩いたり、合戦をくり広げたりしていたんだと思うと、まるで戦国時代にタイムスリップしたかのような臨場感があった。
だから僕は、近世城郭よりも山城が好きなんです。天守のある近世城郭もかっこいいけれど、歴史的に造られていた時代が短すぎて、リアルな感じがしない。土木工事のリアルさや、実際にここで戦が繰り広げられたんだと想像できることが山城の魅力ですね。
庵原山城で完全に目覚めてからは、友人と「古城研究会」という2人しかいないクラブを立ち上げ、休みになれば蒲原城や諏訪原城、丸子城などの城に行くようになりました。地元の静岡に良い山城が多かったことも幸いだったと思っています。
子どもの頃から「天の邪鬼」な性格だった!?
—師匠が子どもの頃は今ほど中世城郭も注目されておらず、城めぐりも大変だったのではないでしょうか?
いやー、大変でしたよ。インターネットもなかったですし、図書館で調べても縄張図が見つからないことがほとんど。でも、当時はお城があった土地に行くだけで嬉しかったんです。ちょこっと残っている土塁を見つけただけで、強烈な感動がありました。
その頃に比べると、今は中世が非常に注目されてきていますよね。僕は中世史を研究したくて大学に入りましたが、入学早々落語に出会い、講義にも次第に出なくなり、代わりに落語にのめり込むようになっていったんです。
落語の世界も生半可な気持ちでできるものではありませんから、しばらくは必死に落語の修行をする日々でした。ようやくプロとして食っていけるようになった時、ふと自分の趣味を振り返ることがありました。釣り、メガネ集め、メキシコプロレスのマスク収集・・・色んな趣味をやってきたけど、ある時、ふと昔熱中していた「城」を思い出しました。そうだ、自分には城があった! こうして再び城めぐりをはじめたというわけなんです。
—天守が建つような城には興味はなかったのでしょうか?
近世城郭も好きでしたよ。僕が小学生の頃は浜松城に動物園があったので、遠足で行く度に「かっこいいなぁ」と思いながら見ていました。小学5年生の時、大坂万博に向かうバスから彦根城の天守を眺めたことも覚えています。だけどやっぱり、僕にとってのお城と言えば「山城」なんです。
よく「山城なんて何も残ってないじゃん」と言われることがあります。たしかに、近世城郭のように天守や櫓といった遺構は残っていませんが、縄張が当時のまま残っています。縄張さえ残っていれば城の構造がわかりますし、先人の築城の意図を読み取ることができる。そうやって想像力を働かせながら歩くことが山城の醍醐味です。
あと、山城好きは僕の天の邪鬼な性格が関係しているのかもしれないな。例えば、子どもの頃動物園で他の子がライオンやゾウに夢中になる中、僕が見ていたのはジャッカル(笑)。あと、周りの同級生が好きな武将は織田信長とか言っている中、僕は今川義元の本ばかり読んでました。「静岡県民なのにバカじゃないの!」と心の中で思いながら。地元愛が強いんでしょうね(笑)。天守のある城よりも山城に惹かれた理由は、そんな性格も関係しているでしょうね。
城めぐりが趣味で本当によかったです。何と言っても山城は全国に無数にありますから。生涯かけて城めぐりを楽しんでいきたいと思っています!
中編に続く(全3回予定)
城びとプロフィール
春風亭昇太
落語家。1959年生まれ。静岡県出身。1982年に春風亭柳昇に弟子入り、92年に真打ちに昇進。2016年5月から、人気長寿番組「笑点」の司会を務めている。2011年に『城あるきのススメ』(小学館)を出版。ブログ「ザブトン海峡・航海記」では師匠が行った山城レポート記事も多数。
執筆者/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康、小沼理)
書籍や雑誌、ウェブ媒体の編集・執筆・制作を行う歴史コンテンツメーカー。日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなどを中心に、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける。城関連の最近の編集制作物に、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。