萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第6回 秋田城 古代の東北へタイムスリップ

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届け!古代の水洗トイレがある城柵!? 今回は、大陸との外交の窓口にもなった秋田城(秋田県)です。



秋田城、東門、築地塀、版築技法
平成9年に復元された、東門と築地塀。城の外側を囲む施設は大きく5時期の変遷があるという。築地塀は粘土と砂を交互につき固める版築技法でつくられていた。城壁は築地塀から材木塀へと変化したようだ

外交の窓口にもなった、日本最北の城柵

秋田県秋田市の秋田城は、古代の東北地方に築かれた「城柵(柵)」のひとつです。大和朝廷が地方支配の拠点とした軍事・行政施設で、支配領域の拡大と蝦夷の征伐を目的として、越後、陸奥、出羽に設置されました。

『日本書紀』によれば、大化3(647)年に築かれた淳足柵(新潟県新潟市)が城柵のはじまり。その後、出羽柵(山形県沿海部)、多賀城(宮城県多賀城市)、玉造柵(宮城県大崎市)、伊治城(宮城県栗原市)、胆沢城(岩手県奥州市)、志波城(岩手県盛岡市)など20以上が設けられました。蝦夷が服従すると軍事拠点としての役割は薄れ、やがて多賀城には鎮守府、秋田城には国府が置かれるなど、東北開拓の中心地として政治や経済の拠点へと変化していきます。

秋田城は最北の城柵で、奈良時代から平安時代にかけて設置された大規模な地方官庁でした。天平5(733)年に出羽柵として遷され、天平宝字4(760)年頃に秋田城と呼ばれるようになったよう。奈良時代には国府が置かれ、津軽・蝦夷のほか渤海(中国東北地方の国家)などの北方交易・交流の拠点にもなっていたとみられます。10世紀中頃まで機能し、10世紀後半には城柵としての機能は失われたと考えられています。

「行政機関」「軍事機関」「支配や交易、交流の窓口」の3つが、秋田城の大きな役割です。現在の県庁や市役所のように機能しながら、警察のように治安維持に務め外敵に備える兵が常駐。最北の城柵であるため、東アジア諸国との外交などの窓口としても重要な役割を担っていたとみられます。

秋田城、出羽柵、井戸
発掘調査により平面表示されている。出羽柵が遷された奈良時代の頃につくられたとみられる井戸も見つかっており、復元されている

復元された東門と築地塀

とにかく広大な秋田城ですが、史跡公園として整備されているのは城域の一部にすぎません。現在の史跡指定面積は約90ヘクタール(90万㎡)。外郭は東西・南北約550メートル、中枢部の政庁域だけでも東西94×南北77メートルに及びます。政庁は国内外からの使節を迎えた儀式などを執り行った場所で、創建時の政庁が復元されています。発掘調査により、6時期の変遷があったことが明らかになっています。

最大の見どころは、復元された東門と築地塀です。秋田城は内側(政庁域)と外側(外郭線)の2つの区画から構成され、外郭線の東西南北にそれぞれ門があったと考えられています。2.2キロにも及ぶ外郭線は、すべて築地塀で覆われていたようです。

全国的にも珍しいのが、鵜ノ木地区に立体復元されている、奈良時代の水洗トイレです。沈殿槽に溜まった排泄物の上澄みだけが沼地に流れる、高低差を生かしたしくみ。沈殿槽内の土から発見された寄生虫の卵から、使用者は渤海の人たちである可能性が高いと推察されています。秋田城が大陸との外交窓口であった証のひとつといえるのでしょう。

古代の城の姿や人々の生活を想像しながら、のんびりと歩けるのが秋田城の魅力です。城柵のなかでもよく整備され、建物の一部が復元されているため全体のイメージがわきやすいのがうれしいところ。古代にタイムスリップした気分になれます。説明や資料が充実した、秋田城跡歴史資料館を訪れてから散策するのがよいでしょう。

秋田城、古代水洗トイレ
復元された古代水洗トイレ。東アジアの諸国と交流の窓口になっていた秋田城の実態を示すものとしても興味深い

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執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)など。「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)2018年9月14日発売、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)2018年9月18日発売。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。

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