クリス・グレンの お城へGO! ~日本のお城、英語でいうとどうなるの?~ 3. Stone Walls 石垣は英語で言うと、どうなるの?

日本らしさを求めてお城を観光する外国の旅行者の方に、日本のお城の面白さを紹介したい! でも、一体どう説明すればいいの? そんな方にクリス・グレンさんが楽しくレクチャー。お城英語の3回目は「石垣」です。矢穴とか、刻印があったりして、楽しい石垣だけど…英語だと一体どうなるの? クリスさーん、教えてください!

Let’s Talk Castles! Welcome to「クリス・グレンのお城へGO!~日本のお城、英語でいうとどうなるの?~」。どーもどーもどーも! お城好きラジオDJのクリス・グレンです。日本のお城を英語でどう表現するのかを紹介するこの連載。2回にわたり「天守」に関する英語表現をご紹介してきましたが、今回は、いよいよ「石垣」です。

知れば知るほど面白い日本のお城の「石垣」ですが、外国人旅行者の皆さんは見どころがわからず、意外にもサーっと通り過ぎて行ってしまいます。もったいないですよねぇ。まずはわかりやすく、簡単なところから、城の石垣の見どころを伝えてみましょう。

お城の石垣、英語で言うとどうなるの?
How do you explain about Ishigaki in English?

クリスグレンさん
 

「石垣」の英訳は、世界共通

石垣は、英語でstone walls(ストーン ウォールズ)と言います。Wallは「壁」という意味なので、直訳すると「石の壁」ですね。石垣は日本だけではなく、古代から世界中で用いられているので、海外の方でもすぐに理解できますよ。

Iga Ueno Castle has very high stone walls.
伊賀上野城は、高い石垣があることで有名です。
 
クリスグレンさん
築城の名手・藤堂高虎が築いた伊賀上野城(三重県伊賀市)の高石垣

石垣でつくられた「天守台」も、Stone Walls?

天守は英語でkeep(キープ)だから、keep stone walls という英語でもOK。僕は、より意味をわかりやすくするために、天守を支える石でつくられた台という意味でkeep stone baseと訳して使っています。

The stone base of Nagoya Castle’s keep was built by Kato Kiyomasa.
名古屋城の天守台は、加藤清正が築きました。
 
クリスグレンさん
名古屋城(愛知県名古屋市)の大天守

stone wallsstone base、どちらもわかりやすい単語の組み合わせなので、これならすぐに使えそうですね!


石垣に置かれた巨石「鏡石」はどういうの?

城主の権威や威厳を示すため、城門や虎口(出入口)に置かれることが多い鏡石。これを見て「大きいね!」と反応を示す外国人は多くいますが、「これは、何のため?」とまで質問してくる人は、少ないです。でも、鏡石の役割こそが面白いポイント! ぜひ、知って欲しい。だから僕は率先して説明しています。

鏡石の英訳に決まったものがありませんが、そのまま直訳でMirror  Stone (ミラー ストーン)としてもいいでしょう。
ただ鏡石は一般的な石垣とは違って、海外には存在しないもの。つまり、日本の城にしかないユニークなものなので “ This is a Mirror Stone.”というだけでは、その意味を理解してはもらえません。そんなときは! Mirror Stoneの役割を説明するとイイですね。

This large rock is called a mirror stone.
The mirror stone reflects the power and authority of the lord of the castle.
この大きな石は、鏡石と呼ばれるものです。
鏡石は、城主の権威を示すために置かれています。

城主 = the lord of the castle
権威 = power and authority

と、こんな感じ。

松本城(長野県松本市)なら…

The mirror stone at Matsumoto Castle is called the Gemba-ishi.
It is named after Ishikawa Gemba, son of the lord of the castle, who put the stone in position.
※nのあとに「ば行」が来る時はnではなくmと表記するため、「玄蕃」はGembaの表記となります。
松本城の鏡石は、玄蕃石(げんばいし)と呼ばれています。
城主の息子・石川玄蕃の名にちなんでいます。

という説明を付け加えてもイイですね。 
 
クリスグレンさん
松本城(長野県松本市)の玄蕃石。石の高さは約3.6メートル。僕の身長の約2倍!大きい!

鏡石に興味が出てくると、その大きさや重さについて質問される可能性大!
しっかり答えられるよう予習しておきましょう。

クリスグレンさん

石垣を割るときの「矢穴」を英語でいうと?

石垣に目がいくようになると、矢穴や刻印(刻紋)などにも気づくようになります。そうなったらチャンスです! さらに説明を加えていきましょう。
 
クリスグレンさん
歯形のようにも見える矢穴。こんなに間近で見られるのは日本のお城だけ!?

矢穴
石材を切り出す際に、石目に沿ってクサビ(矢)を打込むために掘られた方形の穴のことです。この穴に、クサビを打ち込んで、石を割っていきました。
理文先生のお城がっこう城歩き編 第25回 安土城の石垣2」(加藤理文「理文先生のお城がっこう」)より引用

矢穴は英語でbore hole(ボア ホール)と言います。bore=掘る・削る、hole=穴、直訳すると「掘削によってできた穴」という意味になりますね。西洋でも同様の技術で石を割るため、bore holeで意味は通じます。ただ多くの人は、どうやって「石を割るのか」については詳しく知らないし、こうした矢穴を間近で見たことがありません。日本のお城で、こうした技術の痕跡を見られるというのは貴重だと思いますよ。

These are bore holes used to cut the stone.
These are the remains of the holes made by stone masons 400 years ago.
これは石材を切り出す際にできた矢穴です。
400年前の石工たちが割った跡です。
※石工= stone masons(ストーン メイソンズ)

「刻印」は石のID!?

つづいては、刻印(刻紋)です。これも「鏡石」同様、日本の城特有のものなので、決まった英訳はありません。

クリスグレンさん
刻印は種類が豊富!歩きながら探すのも楽しい

大名や年代がはっきりと解るように刻印(こくいん)(石に刻み付けることです)された「標識(ひょうしき)石」が見つかり、どのように労働力をまとめたのかとか、諸(しょ)大名がどこで石を集めようとしたのかが解ってきました。
理文先生のお城がっこう 城歩き編 第29回 石切丁場を訪ねよう2」(加藤理文「理文先生のお城がっこう」)より引用

僕が英訳するならStone Identification Mark (ストーン アイデンティフィケーション マーク)かな。Identification…聞きなれない英語かもしれませんが、たぶん日本の皆さんも、これに近い言葉はよく知っているはず! 実は身元を識別するための「ID(アイディー)」はIdentificationの略なんですよ。
つまり、僕の英訳を日本語に置き換えると「石の識別マーク」という感じ。これなら、わかりやすいでしょう?

This is a stone identification mark.
It was carved as proof of which samurai had brought it.
これは、刻印です。
どのサムライが持ってきたかを証明するために刻まれた印です。
 
「クリス・グレンのお城へGO!~日本のお城、英語でいうとどうなるの?~第3回  石垣」いかがでしたか? まだまだ石垣に関して紹介したいことはたくさんありますが、続きは、また今度。次回もお楽しみに! Enjoy castle studies, see you next time!

【コラム:日本と海外・石積み技法の共通点】
イギリスには、dry stone walling(ドライストーン ウォーリング)という石積みの技法があります。これは資格制度が設けられているほどの伝統的な技法で、モルタル(砂、水、セメントを混ぜてつくられた建築材料。接着剤のような役割を果たす)を使わず、石を積み上げるというもの。日本の石垣の技術と似ています。

クリスグレンさん

ただ、海外のdry stone wallingというのは城などの特殊な施設に使われたものではなく、ごく一般的な家庭の塀や花壇などにも使われるもの。イギリスでは割とよく見られます。dry stone wallingでつくられたものは、仮に使わなくなって壊したとしても、モルタルを使っていないから石はそのまま再利用できます。つまり、エコ!SDGs! これは日本の城の石垣も同じですよね? 廃城になった城の石垣を他の城に転用できたのは、まさに同じ理屈です。

dry stone wallingの技法は、イギリスだけではなく、僕のふるさとオーストラリアやアメリカ、カナダでも取り入れられています。ご案内するゲストがこれらの国の人だったら、dry stone wallingと日本の城の石垣との共通点を紹介すると喜ばれますよ。

No mortar or cement is used in castle walls.
It is similar to traditional English dry stone walling.
日本の城の石垣は、モルタルを使っていません。
イギリスの伝統的なドライストーン ウォーリングと似ています。

クリスグレンさん
執筆・画像/クリス・グレン
オーストラリア・アデレード市出身。93年より名古屋在住。ラジオDJのほか、テレビプレゼンター、ナレーター、翻訳者、ライターとしても活躍。インバウンド観光アドバイザーとして、自治体や観光施設に対するアドバイスなども行う。日本全国550箇所以上、名古屋城にいたっては850回以上、訪れるほどの城マニア。お城好きラジオDJとして、各地の城イベントにも出演。「城バイリンガルガイド」(三浦正幸著・小学館)、「Japanese Castle-24 Best Castles Stamp Rally-」(日本城郭協会監修)などの翻訳も手掛けるほか、城郭に関する翻訳やアプリの監修なども行っている。NHK WORLD 「SAMURAI CASTLES」ではナビゲーターもつとめる。2023年公益財団法人日本城郭協会理事就任。

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