2022/02/10
城の自由研究コンテスト 小中学生の力作が勢ぞろい! 第20回「城の自由研究コンテスト」表彰式レポート
毎年、小・中学生による「城」をテーマにした自由研究が集まる「城の自由研究コンテスト」。その年の優秀作品は年末に開催される「お城EXPO」で展示され、大人顔負けのハイレベルな作品の数々に、この展示を心待ちにしているお城ファンも少なくありません。今回は、2021年度に募集された第20回の入賞作品と表彰式の模様を、城びとアンバサダーの小城小次郎さんがレポートします。
小・中学生を対象に募集「城の自由研究コンテスト」
第20回を迎えた「城の自由研究コンテスト」。日本城郭協会が主催しているコンテストで、お城に関する自由な研究を小・中学生を対象に募集、1次から3次の審査を行い、文部科学大臣賞、日本城郭協会賞、主催団体賞、優秀賞、佳作を選んで表彰しています。個人でも団体でも応募可能で、最終審査は、主催者、教育関係者、城郭研究者により行われています。また、お城EXPOでは、入賞作品を毎年展示しています。
前回までは小学生と中学生の区別なく選考されてきましたが、2021年度は小学生の部と中学生の部に分かれ、それぞれの部で審査選考が行われました。小学生の部に367件、中学生の部に115件、合計で過去最多となる482件もの応募作品が寄せられたそうです。量だけでなく、質の面でも、昨年に引き続き、コロナ禍ということで、思うようにお城に行くことができない環境のなか、住まいの近所にある城郭跡を研究テーマにしたものや、文献等で入念に調べ上げ自らの考察を加えるなど、工夫も多く見られたとか。
2021年12月18日、お城EXPO会場に隣接するパシフィコ横浜アネックスホールで開催された表彰式の模様を、城びとアンバサダーの小城小次郎がレポートします!
受賞者の中には複数年受賞となった方も何人かいらっしゃいました。たゆまぬ継続的な研究の積み重ねが、また新たな評価を生むのですね
「お城EXPO 2021」での入賞作品の展示の様子。日本城郭協会理事長の小和田哲男先生曰く、今回は「びっくりするような」作品も多数見受けられたとのこと。たしかに「うーむ」と思わず唸ってしまうユニークな着想の研究がいくつもありました!
文部科学大臣賞はともに満場一致の2年連続入賞
表彰式では、審査委員長の加藤理文先生による講評と、受賞者への表彰状と副賞の授与が行われます。まずは文部科学大臣賞の表彰からです。
(写真左)小学生の部:足立晴音さん。(写真右)中学生の部:山中槙子さん
小学生の部では、足立晴音さんの「道庭城の謎は深まるばかり」が選ばれました。足立さんは前回(第19回)も「道庭城のなぞ」でワン・パブリッシング賞を受賞しており、今回は満場一致で文部科学大臣賞に輝いたそうです。
道庭城(埼玉県三郷市)は、少なくとも地表面にはまったく痕跡を残しておらず、Google Map上に位置だけが記されているお城。足立さんは現在の「道庭」という地名と道庭城とが異なる場所にあることに違和感を抱き、「実は道庭城は道庭にあったのではないか」との推測を元に、「お城と神社との位置関係」や「堀に関連する字名」などに着目し道庭城の位置を推測。結局、道庭城の所在地を示す決定的な証拠には至らなかったそうですが、加藤先生によると「現地調査や文献調査といった研究の”王道"を駆使した地道な活動」が評価されての受賞となりました。
足立晴音さん「道庭城の謎は深まるばかり」。適当なところで妥協するのではなく「今回はここまで」と「結論が出ない」という結論を選択した潔さも見習いたい!
足立さんは受賞スピーチで「証拠に手が届くかもしれない、と思ったところで“するり”と逃げられてしまうもどかしさを感じたけれど、証拠が見つからないからこそ見つかったら世紀の大発見かもしれないし、掘ってみたら何か出てくるかもしれないので、それがとても楽しみ」とお話されていました。
中学生の部で選ばれたのは、山中槙子さんの「引田城の石垣石の行方を探る」でした。こちらも満場一致での受賞で、足立さん同様、前回の「「石垣築様目録」の暗号表の謎を解く~丸亀城との関連性~」での日本城郭協会賞に続く連続入賞です。
山中槙子さん「引田城の石垣石の行方を探る」。研究題材は、前回が丸亀城(香川県丸亀市)の「石垣の積み方」だったのに対し、今回は引田城(香川県東かがわ市)の言うなれば「石垣の壊し方」。同一地域内のお城の「石垣」に着目した点で、2つの研究に一貫性を感じました
引田城は、残存する石垣の立派さに圧倒されつつも、石垣のないエリアがあまりにも広いことに首を傾げずにはいられないお城。山中さんも「引田城の石垣はどこに消えたのか」疑問を持ちます。近くの港に用いられている石材をきっかけに、引田城の石材が各地の土木工事に利用されていた事実をつかみ、現存する石垣を「石材運搬ルートから遠かったため」残されたものだと結論付けていきます。「文献等を元に論理的に仕上がった」(加藤先生)作品であり、「廃城後の石材が地域に役立った。お城は廃城をもって終わったわけではない」(同)ということを示した点が評価されました。
山中さんは「前回は表彰式がなかったので今回は表彰式に出たいと思っていた」と、受賞とともに表彰式に参加できたことへの喜びも語ってくれました。
お城の価値を再発見する試みやマーケティングに焦点をあてたユニークな研究
続いて日本城郭協会賞の表彰です。
(写真左)小学生の部:望月洸志さん。(写真右)中学生の部:松下京瑚さん。日本城郭協会賞に選ばれた2作品には、奇しくも同じ静岡県のお城が題材となったというだけではなく、単なるお城の歴史を探るという従来の研究の枠を越え、そのお城が持つ本質的な価値を再発見しようと試みているあたりに共通したテーマ性を感じました
日本城郭協会賞の小学生の部に選ばれたのは、望月洸志さんの「賤機山城の価値と保存を考える」。
望月洸志さん「賤機山城の価値と保存を考える」。静岡市葵区にある賤機山(しずはたやま)城の山麓には人質時代の徳川家康が学んだとされる臨済寺があって、賤機山城とセットで今川氏時代の名残を留めている場所とされています
賤機山城を徹底的に掘り下げた望月さんも、前回の審査員特別賞(「今川氏の詰城、賤機山城を考える~今川氏は、駿府をどのように守ろうとしたのか~」)に続いて連続入賞です。加藤先生の講評によると、前回までは「今川氏支城群としての賤機山城」という、広く一般に知られた範囲での研究でしたが、今回は「他城との比較やインタビュー等、多岐にわたる手法」を駆使して賤機山城の価値を再評価し、「いかに後世に伝えていくかに思い至る」という一歩進んだ研究となった点が評価されたとのこと。
加藤理文先生の講評は今後の参考になることばかり!
中学生の部の日本城郭協会賞に選ばれたのは、松下京瑚さんの「勝間田城 続々日本100名城への道」です。
松下京瑚さん「勝間田城 続々日本100名城への道」。静岡県牧之原市にある勝間田城は、16世紀半ばに今川、武田、徳川といった巨大勢力がせめぎ合った駿河・遠江の国境近くにありながら、それより半世紀ほどさかのぼった15世紀後半の応仁・文明の乱の時代に築かれた姿を今に伝える可能性を残すお城です
勝間田城に来城された方へのアンケート結果から再訪(リピート)率を検証するなど「勝間田城を長期にわたってアプローチし、その未来像を展望した集大成」となっている、と加藤先生。また、「PC原稿全盛の中、あえて手書きでの掲示物にこだわり、丁寧に仕上げている」点も評価されたそうです。なお、現在中学3年生の松下さんは、小学校3年生から6年生まで4年連続入賞の実績の持ち主。中学入学からは応募せずに研究を続け、今回は満を持してその集大成で臨んだそうです!お見事!
ワン・パブリッシング賞の小学生の部には、鈴木望さんの「なんだこれは!?鳥越城の『守る』ひみつ!」が選ばれました。
鈴木望さん「なんだこれは!?鳥越城の『守る』ひみつ!」。着眼点がおもしろい!
一向一揆の拠点となり宗徒が立てこもったとされる鳥越城(石川県白山市)を「守りのための城」と見立てた「着眼点が素晴らしく」(加藤先生)、地図から傾斜を丹念に読み込んで断面図を作成し、その防御性を考察するといった丁寧な研究が評価されました。
ワン・パブリッシング賞の中学生の部に選ばれたのは、土橋優里さんの「城郭遺産の商業利用『株式会社城』という選択」でした。
土橋優里さん「城郭遺産の商業利用『株式会社城』という選択」。土橋さんは「城の自由研究コンテスト」の常連で、第14回から実に7年連続の入賞だそうです! 中学3年生になったため今回で自由研究コンテストも卒業とのこと
お城から収益を得て地域を活性化するための「マーケティング」に焦点を当てるというユニークな作品。マーケティング論がお城の自由研究として成り立つということを示した点が画期的で、「これからもお城を軸とした町おこしに力を貸してほしい」という加藤先生の要望には真に迫るものがありました。
ほかにも、審査員特別賞に1作品、優秀賞に4作品、佳作に9作品が選ばれ、2作品が佳作に入賞した広島大学附属東雲中学校には学校賞が贈られました。
日本城郭協会のHPより引用。広島大学附属東雲中学校は学校を挙げて「城の自由研究」に取り組んでおり、毎年多数の応募があるのだそうです。クラスに何人も城の研究者がいる学校って、私には想像することすらできません。何て素敵なんでしょう(笑)
「なぜ?」「どうして?」が研究の出発点
表彰式では、小和田先生よる特別講話「これからのお城研究のヒント」が行われました。次の自由研究に臨むであろう受賞者のみなさんに「なぜ、どうして、が研究の出発点」であると語りかけ、さらに「もの知り」に話を聞くことを勧めていらっしゃいました。図書館や博物館に必ずいる司書さんや学芸員さん、あるいは郷土史家と呼ばれる人に話を聞くのも有効。そして「現地に足を運ぶこと」も大事とのこと。結論が出なくて行き詰まっても、現地に立って、城に登るときは攻め手の気持ちで、下るときは守り手の気持ちで眺めることによって、新しい発見が得られることもあります。
お城にまつわるちょっとした疑問をきっかけに、自由に発想を広げ、そして確かめる。そのプロセスさえしっかりしていれば、それはもう立派な研究となるのだ、と改めて思いました
昨年はコロナ禍で開催が見送られた表彰式。今回、2年ぶりに行われた表彰式を取材して、無事に開催された喜びをかみしめるとともに、晴れ舞台を垣間見るというのは楽しいものだと改めて思いました。2022年はもう始まっています。今年も城の自由研究コンテストは開催予定で、第21回の応募用紙は新学期が始まる4月ごろに日本城郭協会ホームページに掲載されるそうです。20回の節目を越えた第21回には、いったいどんな研究成果が集まるのでしょう。一人でも多くの小・中学生が、城の自由研究コンテストにチャレンジしてくれることを心から願ってやみません。
執筆・写真:小城小次郎
城びとアンバサダー。9歳で城を始めた「城やり人」。日本城郭検定1級(2016年全国1位)。TV東京系「TVチャンピオン極」ほか出演。
<お城情報WEBメディア城びと>