お城ライブラリー vol.25 黒澤明監督『蜘蛛巣城』

お城のガイドや解説本はもちろん、小説から写真集まで、お城に関連する書籍や映画などを幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は黒澤明監督作品の『蜘蛛巣城』を紹介します。主演の三船敏郎が「俺を殺す気か?」と黒澤を怒鳴ったという逸話が残る、主人公が矢ダルマにされる圧巻のラストシーンで有名な作品です。

能とマクベスが交わり生み出された傑作時代劇

3人の魔女の予言に従い、主君を殺して王になったマクベスが、最後には討たれるというシェークスピアの戯曲「マクベス」。

それをヴェネチア、カンヌ、ベルリンの世界三大映画際すべてで受賞作品があり、日本人ではじめてアカデミー特別賞も受賞した「世界のクロサワ」こと黒澤明が、「マクベス」の舞台を戦国時代に置き換えて描いた時代劇が、今回紹介する『蜘蛛巣城』である。

戦国時代。火山灰の黒い台地に建つ蜘蛛巣城では、城主の都築国春(佐々木孝丸)が臣下に謀反を起こされて劣勢となり、籠城を余儀なくされていた。しかし武勇に優れる鷲津武時(三船敏郎)と三木義明(千秋実)の奮戦で事なきをえる。功を挙げた武時と義明は帰城途中、森の中で物の怪の老婆(浪花千栄子)と出会い、それぞれの未来を予言される。武時は蜘蛛巣城の城主となり、義明は一の砦の大将となる。武時の後は義明の子が継ぐと、やがてそれは現実となっていく。

本作品は能の様式を取り入れて描かれており、能の舞台を鑑賞するようなヒキの映像が多用されていることもあって、幽玄で美しく、もの悲しい雰囲気の作品に仕上がっている。

「見よ妄執の城の趾を」という歌声とともに、濃い霧に包まれる崩れた石垣や礎石、城址の碑が写し出され、霧が晴れると真っ黒な蜘蛛巣城が現れる冒頭シーン。動きやすいよう設計され、体にフィットする甲冑を着て馬を御する三船敏郎のカッコ良さ。弓で全身を射込まれる三船のあまりのリアルさに、恐怖すら覚えるクライマックスシーンなど、全編通して見応え十分。

何より能面のような表情、能を取り入れた動き、衣擦れの音、寂びた声。三船敏郎に謀反をそそのかす山田五十鈴の演技がまた素晴らしい。そして死産の後、気が触れて「いくら洗っても血がとれない」と手をこすり続ける演技には思わず背中がゾクッとするほど。

作品の舞台となる蜘蛛巣城は、富士山2合目・太郞坊の火山灰の土地に建てられた。高い土塁の上には渡櫓が連なり、大手の櫓門はとにかく巨大である。塀は戦国時代を意識して黒塗りにしつらえ、小ぶりな天守が建つ。その勇姿は晴れた日に御殿場市内から望めたという。

『蜘蛛巣城』以外にも黒澤作品には多くの城が登場する。『隠し砦の三悪人』の秋月の城は撮影所に建てたセット、『乱』では丸岡城(福井県)をモデルに御殿場に城を建てて撮影。天空の城と称される竹田城(兵庫県)で撮影が行われたことで有名な『影武者』では、姫路城(兵庫県)や安土城(滋賀県)、熊本城(熊本県)なども使われている。

どの作品にどんな城が使われているのか、ということを発見して実際にその城を訪ねてみるのも楽しいだろう。

だが映画の場合は、綿密な時代考証を行いつつも、演出や効果を狙ってあえてウソを交えて作られている。どこまでが本物で、どこがウソなのか。

劇中では同じ城という設定でも、実際は複数の城で撮影されたカットを繋いでいるかもしれない。戦国時代のリアルな城に見えても細かいところで時代設定と合わない建物があるかもしれない。逆に映画だから誇張しているように見えても、それが本当のことなのかもしれない。
城好きの皆さんなら、もう一歩踏み込んだ視点で映像作品を楽しめるのではないだろうか。

蜘蛛巣城
『蜘蛛巣城【東宝DVD名作セレクション】』
 DVD発売中
 発売・販売元:東宝
[監 督]黒澤明
[制作年]1957年




お城ライブラリーでその他の作品もチェック

執筆者/かみゆ歴史編集部(野中咲希)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。最近の編集制作物に『世界史から読み解く 日本史の深層』(辰巳出版)、『決定版 日本の城』(新星出版社)、『信長と本能寺の変 謎99』(イースト・プレス))、『アイヌの真実』(KKベストセラーズ)など。

関連書籍・商品など