明智光秀とその周辺|小和田哲男 第2回 明智城の「竹の越」は館の腰か

本能寺の変で織田信長を討った武将として知られ、2020年・2021年放送のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公として描かれた明智光秀。連載講座「明智光秀とその周辺」では、ドラマの時代考証を担当される小和田哲男先生が、光秀の生涯に影響を与えた人々や出来事に全12回でスポットライトを当てていきます。第2回は、光秀の出生地として岐阜県可児市瀬田の明智城が有力とされる根拠を、遺構や周辺の地名から紐解きながら解説します。(※2020年5月27日初回公開)
「明智光秀とその周辺|小和田哲男」

可児市瀬田の明智城とは

明智氏累代の居城であり、光秀出生地でもある明智城がどこなのかについては諸説あり、確定していない。私自身は現在の岐阜県可児市瀬田の明智城(別名長山城)と考えているが、城郭研究者の何人かは「自然地形であり城としては認められない」としている。

そのため、平成22年(2010)に刊行された『可児市史』第2巻通史編古代・中世・近世では、「市史編纂に伴なう長山城(明智城)の調査では、明確な城郭遺構は認められないとされているが、なお不明な点も多いことから、これについても今後再検討を要する課題となっている」と、やや逃げた書き方になっている。

城としての遺構が認められる岐阜県可児郡御嵩町顔戸の顔戸城も別名を明智城といっていることから、研究者の中には顔戸城が明智城ではないかと指摘する人もいる。たしかに顔戸もかつての明智荘の荘域に含まれているので、その可能性もあるのかもしれないが、明智という苗字をはじめて名乗った明智頼重の父土岐頼基(元)が「土岐長山遠江守」を名乗っていた事実があり、別名長山城といった明智城の方とみるのが妥当と思われる。

ちなみにそのことは、現在、愛知県尾張旭市印場元町の良福寺に伝わる位牌で、「美濃国住土岐長山遠江守頼元 四月廿九日 慶檀造」とあることによってわかる。

明智城、空堀
明智城の通称「本丸」には空堀と思われる跡が見られる

可児市瀬田の明智城に遺構がないといわれるが、通称「大手曲輪」の部分は曲輪になっているし、山上の通称「本丸」といわれるところも曲輪状の平坦地になっているので、全く自然地形というわけではなく、人工的に手が入れられているように思われる。ただ、同じ可児市内の金山城久々利城のようなはっきりした遺構がみられないのはたしかである。

私は、山城としての明智城は戦時のいわば詰の城で、城としての備えにそんなに力を入れていなかったのではないかと考えている。それに対し、累代の明智氏は、平時に居住していた平地の居館部分をしっかり築いていたのではなかろうか。

城館地名から探る

麓の小字に屋敷地名がいくつか残っているのである。大屋敷・東屋敷・西屋敷がそれで、屋敷という字はつかないが、もう一つ「竹の越」というものがある。

明智城、竹の越
明智城の麓には「竹の越」という小字名が残っている

「竹の越」と城が結びつくのかどうか疑問に思われるかもしれないが、実は、この「竹の越」は城館跡をあらわす地名なのである。私は、「竹の越」や「竹の内」という地名のところから、それまでほとんど知られていなかった館址をいくつか発見している。

わかりやすいのは「竹の内」の方である。「竹の内」という地名の場所が結構、方一町の土豪館の場所と一致するのである。要するに、「竹の内」は「館の内」が訛(なま)ったものであった。「たてのうち」といわれたものが、そのうちに「たけのうち」になり、漢字があてられたため、本来の館の内とは全く異なる地名になってしまったというわけである。

つまり、「竹の越」は本来、「館の腰」で、そこに明智氏の平時の居館があったものと思われる。地元の方にお聞きすると、現在はないが、かつては、その近くに井戸や土塁址があったとのことである。

ついでに、私自身の経験から、城館址地名のおもしろい事例を紹介しておきたい。一つは「蜂平」である。この字をみて、城館址地名と結びつけられる人はどのくらいいるだろうか。これは「馬事平」つまり、馬場のあった場所である。「ばじだいら」が「ばちだいら」になり「蜂平」の字があてられてしまった。

もう一つは「蟹打台」である。これも実は「鐘打台」が転訛したものであった。「かねうちだい」が「かにうちだい」になり、城とは無関係の「蟹打台」という字があてられてしまったのである。こうした思いもよらない地名から城館址を発見するのも楽しみである。


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執筆/小和田哲男(おわだてつお)
公益財団法人日本城郭協会  理事長
日本中世史、特に戦国時代史研究の第一人者として知られる。1944年生。静岡市出身。1972年、早稲田大学大学院文学研究科 博士課程修了。静岡大学教育学部専任講師、教授などを経て、同大学名誉教授。
著書 『戦国武将の手紙を読む 浮かびあがる人間模様』(中央公論新社、2010)
   『明智光秀・秀満』(ミネルヴァ書房、2019)ほか多数