お城ライブラリー vol.18 星亮一著『会津落城 戊辰戦争最大の悲劇』

お城のガイドや解説本はもちろん、小説から写真集まで、お城に関連する書籍を幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は、星亮一著『会津落城』をご紹介します。多くの悲劇を残した幕末最大の籠城戦の真実に迫る一冊です。



会津若松城はなぜ悲劇の舞台となったのか

幕末最後の戦いである戊辰戦争のさなか、会津若松城(福島県)において勃発した籠城戦は1か月にも及んだ。新政府軍との圧倒的な兵力の差を前にひと月を耐え抜いた城の堅牢さは確かなものだったが、それがかえって悲惨な戦いを長引かせてしまったともいえる。会津藩はなぜ籠城へと至ったのか、なぜ堅牢な城を守りきれずに敗北したのか。その真実を探るのが本書『会津落城 戊辰戦争最大の悲劇』だ。

仙台出身の著者、星亮一は『敗者の維新史』(中央公論社)『白虎隊と会津武士道』(平凡社)など、会津の歴史を語った著書を多く手がけている。しかし本書では、会津戦争がともすれば義に殉じた美談として語られがちな風潮を否定し、会津藩側の問題点を辛口で指摘しつつ、一体何が起きていたのかを紐解いていく。

「従来、会津戦争は、白虎隊や婦女子の壮絶な殉国が賛美され、会津武士道の精華を遺憾なく発揮したものと称えられた」。しかし、それは決して真実ではないと著者はあとがきで語る。新政府軍からの執拗な仕返しともいえるこの戦いを「近代日本の負の遺産」であると言い切りつつも、敗北の原因については会津側が「(奥羽越列藩)同盟が成った時点で、勝てると判断し、戦争に対する取り組み方に、革命的な発想が見られなかった」ことが大きな理由であるとしている。近代的軍備を備えた新政府軍との戦いにあたり、旧態依然とした軍備や作戦に甘んじ、近代戦争を熟知した戦略家や参謀も用意できなかったことが問題だったというのだ。

いくら堅固なつくりの城であっても、守り手となる人間に備えがなければ耐えきれない。判断ミスと対応の遅れからいくつもの関門を突破され、城の近くまで攻め込まれたときにはなすすべがなかった。城内には戦力となる人手が足りず、老人や少年、女性まで一丸となって抵抗を続けたが、それだけ限界の状態で持ちこたえていたということである。

城に立てこもった者、城下に取り残された者、そして戦に巻き込まれた領民たちなど、過酷な状況の中で懸命に戦った人々のエピソードは様々だ。しかしいずれも凄惨な状況であり、望まれざる悲劇的な事件であったことに違いはない。会津の地を訪れると、会津戦争は決してただの美談ではなく、忘れてはいけない悲惨な事件として語られている。今でも「殿」として親しまれ敬愛されている会津松平家にとっても、領地を戦火に巻き込んだ事実は重く受け止めるべき過去であるようだ。

本書では、次第に北へと追い詰められていく会津藩と旧幕府軍の様子を、時系列に沿って追いかける構成となっており、戊辰戦争の舞台となった各地の城も登場する。新選組の土方歳三が先鋒隊を率いて戦った宇都宮城(栃木県)の戦いや、激戦の舞台となった白河小峰城(福島県)、二本松城(福島県)の顛末などが、転戦の中での状況と合わせて触れられている。それぞれの城を訪れる前に読むことで、より思いを馳せることができるだろう。

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[著者]星亮一
[版元]中公新書
[刊行日]2003年


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執筆・写真/かみゆ歴史編集部(町田裕香)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。最近の編集制作物に『カラー版戦国の名城50』(中井均監修/宝島社)、『テーマ別だから理解が深まる日本史』(朝日新聞出版)、『マンガで一気に読める! 日本史』(西東社)、『御朱印めぐりと寺社巡礼さんぽ』(廣済堂出版)などがある。

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