お城ライブラリー vol.12 中川武監修『日本の名城解剖図鑑』

お城のガイドや解説本はもちろん、小説から写真集まで、お城に関連する書籍を幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は、手書きのイラストで建築としてのお城の魅力を学ぶ『日本の名城 解剖図鑑』をご紹介します。




建築としてのお城の魅力を豊富なイラストで楽しむ

ライトなタッチのイラストを豊富に使用して、さまざまなものの魅力を完全図解する「解剖図鑑」シリーズ。建築分野では日本最大手のエクスナレッジの発刊とあって、『建築デザインの解剖図鑑』『住まいの解剖図鑑』など建築関連の題材が多いが、なかには『仏像とお寺の解剖図鑑』『片づけの解剖図鑑』など別ジャンルを建築分野の視点で紹介しておりおもしろい。

本書はそんな人気シリーズの『日本の名城 解剖図鑑』だ。5章構成でお城の変遷や天守の役割などの基本知識から、姫路城安土城など全32城の解剖まで、主に近世城郭の建物の魅力がたっぷり詰まったビギナー向けの一冊。解説本文の文字量は少なく簡潔だが、イラストに付属する詳細説明が膨大で、隅から隅まで眺めているとその情報量の多さに時間を忘れて読みふけってしまう。

監修者の中川武氏は建築史を専門とし、日本建築学会賞(業績賞)を受賞している早稲田大学教授、著者の米澤貴紀氏は日本建築史、建築技術史を専攻する研究員と、建築のエキスパートが「建築」という視点で捉えたお城のカタチが満載だ。お城の魅力について筆者は「『一国一城の主』という言葉があるくらい日本人にとって城には特別な思い、夢、そしてこだわりがあるようです。そして一つひとつの城には、建てた人=成功者のこだわりが詰まっているからこそ、人びとを引き付ける魅力を今も放っているのです」と答えている。

確かに、本書では建物の特徴や装飾の根拠、建築に使われた木材や技術、構法など、まるで築城の指南書かのように事細かに紹介している。大阪城の復興天守の屋根勾配については「設計にあたって設計責任者と設計者の間で意見が分かれたため、建築監修者が間を取って決定した」ことや、小田原城天守の総高(石垣を含めた高さ)38.7mは「小田原城周辺地区の高さ規制の基準となっており、天守が見える歴史的景観を守るために定められた」ことなど、思わずへぇと声が漏れてしまいそうな小話が楽しい。

本書の魅力はなんといっても、細かく丁寧だがどこか暖かみを感じる手書きのイラストだ。もし本書が写真のみで構成されていたなら、もっと小難しくて手に取りづらいものになっていたのではないかと思う。イラストに矢印やフキダシなどをつけて細かく説明しているのでとっつきやすく、パラパラとめくっているだけでもワクワクする。「お城って難しそう……」という初心者のハードルを下げるためにも一役買っている。また、写真であれば木々で隠れてしまって上手く見えないところも、イラストであれば丁寧に描写でき、さらに建物の内部を透かして室内の様相や骨組みなども表現できる。本書の伝えたい「建物としてのお城の魅力」を解説するのに、本書の親しみやすいイラストはぴったりだ。

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[監 修]中川武
[著 者]米澤貴紀
[版 元]エクスナレッジ
[刊行日]2015年

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執筆者/かみゆ歴史編集部(淺野光穂)
書籍や雑誌、ウェブ媒体の編集・執筆・制作を行う歴史コンテンツメーカー。日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなどを中心に、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける。城関連の最近の編集制作物に、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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