映画「引っ越し大名!」の舞台!  国内屈指の天守と構造を備える姫路城

2019年8月30日公開の映画、源さん主演の映画『引っ越し大名!』。7回もの国替えを経験した姫路藩主・松平直矩(まつだいらなおのり)をモデルにした作品で、舞台となるのは国内屈指の国宝天守を有する姫路城(兵庫県)です。日本初の世界遺産に登録されたポイントから、必ず押さえたいみどころをご紹介します。国替えに挑む、汗と涙の物語を感じながら、姫路城を味わってみませんか?(※2019年8月30日初回公開)

 映画『引っ越し大名!』の舞台は姫路城

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星野源演じる片桐春之介(中央)が、姫路城を舞台に国替えという一大プロジェクトに挑む

映画『引っ越し大名!』の原作は『超高速!参勤交代』シリーズでおなじみの、土橋章宏さんが手掛けた時代小説『引っ越し大名三千里』(ハルキ文庫刊)。生涯7回もの国替えを命じられた姫路藩の藩主・松平直矩が、無理難題の引っ越しに悪戦苦闘する物語です。

「引っ越し奉行」という大役を命じられ、奮闘する片桐春之介役を演じるのは星野源さん。片桐春之介は姫路藩の書庫番で、人と接するのが苦手ないわゆる「引きこもり侍」。幼馴染役の鷹村源右衛門役には高橋一生さん、片桐春之介をサポートする於蘭(おらん)役には高畑充希さん。さらに、原作者の土橋章宏さんが脚本を務め、『のぼうの城』等の作品を手掛けてきた犬童一心監督がメガホンをとる豪華布陣です。

▼「引っ越し大名!」映画の紹介・完成披露試写会の様子のレポートはこちら
▼「引っ越し大名!」原作&脚本 土橋章宏さんインタビューはこちら

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引きこもって本ばかり読んでいた片桐春之介(星野源)。ひょんなことから引っ越し奉行に任命される 

知恵と工夫で引っ越しを乗り切ろうとする、姫路藩の藩士たちの汗と努力との物語。映画の舞台となった姫路城を、『引っ越し大名!』目線で訪ねてみてはいかがでしょうか。

7度の国替えを体験した松平直矩の〝引っ越し遍歴〟

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「天空の城」として知られる越前大野城。引っ越し大名」松平直矩はここで生まれた

越前大野藩(福井県大野市)主・松平直基の子として松平直矩は誕生。姫路15万石に国替えを命じられた松平直基が途上で死去したため、慶安元年(1648)に5歳で家督を相続します。しかし、幼少の松平直矩では、要地である姫路には不適当と判断され、翌年には越後村上藩(新潟県村上市)に国替えとなってしまいます。

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幼少にもかかわらず、松平直矩はすでに2回目の国替えで村上城へと移る

寛文7年(1667)、成人した松平直矩は再び姫路城に復帰するものの、親族の越後高田藩(新潟県上越市)の御家騒動に巻き込まれ、松平直矩は領地を半分以下の7万石に減らされてしまいます。さらに、天和2年(1682)には豊後日田藩(大分県日田市)に国替え。その後、貞享3年(1686)に出羽山形藩(山形県山形市)、元禄5年(1692)に陸奥白河藩(福島県白河市)へと国替えを繰り返しました。生涯で幾度も国替えを重ねた結果、家中は多大な借財を負うことになり、「引っ越し大名」と呼ばれるようになったのです。

国替えを命じられた藩は全藩士とその家族全員で引っ越します。現代でも転居を伴った人事異動はありますが、規模が違います。一説によると、移動人数は1万人に及び、費用は2万両(現在の約15億円)に上ることもあり、大きな負担が藩にのしかかったのです。

「引っ越し大名」が2度城主となった姫路城の歴史

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2015年に平成の大修理を終えた天守。総漆喰の白壁をもつ、大天守と小天守が立体的に入り組んでいる

松平直矩は、江戸時代初期の慶安元年(1648)、5歳の時から約1年間と、寛文7年(1667)~天和2年(1682)の20代から30代の大半を姫路城で過ごしたのでした。この頃の姫路城は現在の姿とさほど変わりません。

もともと姫路城は、「姫山」の地に砦として築かれました。正慶2年・元弘3年(1333)、赤松氏が築いたといわれています。赤松氏の後、黒田官兵衛の父・黒田重隆や、西国統治の重要拠点として羽柴秀吉が築城したという説もあります。

関ヶ原の戦いの後に城主となった池田輝政が築き、大坂夏の陣後の城主・本多忠政が完成。現在の姿になったのは戦乱の世が落ち着いた元和3年(1617)のこと。

実は明治維新後に、姫路城は取り壊しになる危機がありました。工兵大佐・中村重遠(なかむらしげとお)の尽力により、建物群が保存されることになり昭和・平成の大修理を経て今日にいたっています。

世界遺産として評価された木造建築と日本独自の城郭構造

国宝に指定されている天守のうち、世界遺産に指定されているのは姫路城のみ。さらに1993年、日本初の世界文化遺産として法隆寺とともに登録されました。姫路城が世界遺産に登録されたポイントは2つあります。

①その美的完成度が我が国の木造建築の最高の位置にあり、世界的にも他に類のない優れたものであること。

②17世紀初頭の城郭建築の最盛期に、天守群を中心に、櫓、門、土塀等の建造物や石垣、堀などの土木建築物が良好に保存され、防御に工夫した日本独自の城郭の構造を最もよく示した城であること。

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西の丸から天守群を望む。櫓と天守が複雑に組み合わさり、高い防御力を誇った

①については、姫路城の代名詞ともいえる天守が該当します。5重6階の大天守と3つの小天守が渡櫓(わたりやぐら)でつながる美しい連立式天守。幾重にも屋根が重なり、千鳥破風や唐破風を駆使した装飾、白漆喰総塗籠造(しろしっくいそうぬりごめつくり)の外装とともに、構成美を形成しています。

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内堀を渡って大手門に達する。さらに外側は中堀と外堀で守りを固めた、広大な城郭であった

天守だけでなく、縄張や構造も姫路城はユニークです。②に関連して、天守を中心に内堀、中堀、外堀を配した3重の螺旋形によって防御をしています。これは江戸城と姫路城にしか類例のない形式なのです。さらに、入城口付近の「菱の門」は姫路城の代表的な門のひとつ。門の手前にある石垣と塀で導線を鉤の手に折る工夫が見られます。当時の脅威であった大砲や大鉄砲に備えた造りを、城内の随所に施しています。

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菱の門は二の丸への入口に当たり、中に入ると姫路城の中枢部だ

そして、「いの門」から「い、ろ、は、に、ほ、へ、と・・・」と続く門群も姫路城の特徴。「はの門」から「にの門」に続く登城道には、180度方向転換させるような造りもあります。天守まで、まさに迷路のような複雑な構造をしているのです。

規模の大きさに圧倒される姫路城。みどころはたくさんありますので、まずは世界遺産登録で評価された「最新建築技術」と「複雑な防御構造」の2点を頭に入れて、見学してみてください。

「引っ越し大名」の苦労を妄想しながら歩いてみる

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苦労を乗り越えて、片桐春之介(星野源)は、無事に〝引っ越し〟を実現できるのか?

世界遺産に登録される姫路城はその400年の歴史の中で、戦にまみえることなく、近代の戦災に遭うこともありませんでした。おかげで、天守や櫓、門などが良好に保存され、ほかに類例のない遺構も多く、極めて貴重な文化遺産となっているのです。

そして忘れてはいけないのが、姫路城で過ごした多くの城主や家臣たちがいたことです。13氏・48代が城主を務めています。そのうちの一人が、幼少期と働き盛りの時期に2度赴任した「引っ越し大名」松平直矩なのです。実際に、姫路城の群を抜いた建築群と構造を目の当たりにすると、引っ越しのやりくりだけでなく、城の維持にも相当苦労したはずです。
すでに姫路城を訪ねたことがある方も、映画『引っ越し大名!』を見て、松平直矩の苦労を妄想しながら、じっくり散策してみると、新たな姫路城の魅力に出会えるかもしれませんよ。

姫路城(兵庫県姫路市)
住所:姫路市本町68番地 姫路城三の丸広場北側
電話番号:079-285-1146 (姫路城管理事務所)
入城時間:9~16時(閉門は17時)※夏季(4月27日~8月31日)は9~17時(閉門は18時)
定休日:12月29日・30日
料金:大人1000円 小人(小学生・中学生・高校生)300円
アクセス:姫路駅北口から神姫バス乗車「大手門前」下車、徒歩約5分JR姫路駅・山陽姫路駅から徒歩20分

<映画情報>
『引っ越し大名!』 2019年8月30日(金)全国公開・DVD&Blu-ray発売中
監督:犬童一心 
原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
出演:星野源 高橋一生 高畑充希 小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、及川光博 ほか
配給:松竹
© 2019「引っ越し大名!」製作委員会
公式サイト http://hikkoshi-movie.jp

執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
奈良県出身。国内・海外で年間100以上の城を訪ね、「城と旅」をテーマに執筆・撮影。異業種とコラボした城を楽しむ体験プログラムを実施。旅行雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)などを編集。

※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています

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