お国の一大事を救うのは「引きこもり侍」? 江戸時代の引っ越し=国替え騒動を描く映画『引っ越し大名!』

時代劇の新しいジャンルを開拓した『超高速!参勤交代』シリーズの土橋章宏による傑作時代小説「引っ越し大名三千里」を、『のぼうの城』の犬童一心監督が映画化。江戸時代の引っ越し=国替えという珍しいテーマを扱った笑いあり涙ありの大騒動を、主演・星野源、共演に高橋一生、高畑充希、及川光博ら超豪華キャストが織りなす映画『引っ越し大名!』(8月30日公開)をご紹介します。後半では、7月に開催された『引っ越し大名!』完成披露舞台挨拶の様子のレポートも!


生涯に7度も国替えを経験した“引っ越し大名”とは?

江戸時代に幕府が大名の力を弱めることなどを目的に、大名の領地を移し替えさせた「国替え」。「転封」という言葉の方が馴染み深い人もいるかもしれませんが、簡単に言うと“藩全体の引っ越し”。すべての藩士とその家族全員で引っ越すため、移動人数は1万人、費用は2万両(現在の15億円)に上ることもあり、藩にとって参勤交代とは比べものにならないほど大きな負担となりました。

ところで、そんな負担の大きな国替えを何度もさせられた大名がいたことをご存じでしょうか? それは越前松平家の藩主・松平直矩(まつだいらなおのり)で、幼少期から7度も国替えを経験し「引っ越し大名」というあだ名までつけられたのだとか。そんな松平直矩にとって5度目となる、播磨姫路藩(兵庫)から豊後日田藩(大分)への国替え──つまり近畿から九州への一大引っ越しをテーマに創作した物語が『引っ越し大名!』です。

“引きこもり侍”が“引っ越し奉行”に命じられ、一世一代の大挑戦!

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物語の主人公は、姫路藩書庫番を務める片桐春之介(星野源)。書庫にこもって本を読むのが大好きで人と話すのが苦手なため、周りからは(殻に閉じこもる)「かたつむり」と呼ばれています。そんな“引きこもり侍”が、まったくノウハウを知らない国替えの総責任者“引っ越し奉行”を命じられるハメに。しかも国替えにあたって藩の領地が15万石から7万石に減らされ、費用は最小限に抑えなければならない。そんな無理難題を押しつけられた春之介は、幼馴染の御刀番・鷹村源右衛門(高橋一生)や前任の引っ越し奉行の娘・於蘭(高畑充希)に助けを借り、国替えの陣頭指揮を執ります。

この超難関プロジェクトを知恵を絞って乗り切ろうとする春之介の奮闘ぶりが、何と言っても最大の見どころ。引きこもり体質で武芸にも秀でていない、およそ時代劇のヒーローらしからぬ“普通の人”だからこそ、時には本で得た知識を活かし、時には誠実でまっすぐな心によって周囲を動かしていく姿が痛快! 理不尽がまかり通る武家社会で“普通の発想”を武器にする春之介は、等身大のダメ男を演じたら右に出る者なしの 星野源ならではのハマリ役と言えるでしょう。

そんな春之介を取り巻くキャラクターも、個性的な面々揃い。裏表のない体育会系キャラの鷹村と姉御肌の於蘭が、すべてにおいて正反対な春之介とのやり取りで笑いを誘い、ちょっと頼りなさげな「引っ越し大名」こと姫路藩主・松平直矩(及川光博)も実にイイ味を出しています。減封に伴う人減らし(リストラ)の対象となってしまう藩士たちが春之介と武士の心意気を正面からぶつけ合うシーンには、思わず胸が熱くなることでしょう。


笑いと涙、そして活劇も楽しめる、これぞ娯楽時代劇

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そうした人間ドラマを軸に物語が織りなされる一方、時代劇の華というべき活劇でも楽しませてくれます。砂浜で殺陣が繰り広げられるシーンでは、武芸の達人・鷹村が松平家の家宝である全長3.8mもの御手杵(おてぎね)の槍を迫力満点に振り回して大活躍! インテリや変人、など文系なキャラを演じることの多い高橋一生が魅せる豪快さは新鮮です。

新鮮といえば、国替えに伴う引っ越し準備の描写も他の時代劇ではなかなか見られません。コスト削減のため、家財までもを処分することで運ぶ荷物を減らすなど、引っ越しにまつわる苦労や解決策が意外と現代に相通じるものがあってクスリとさせられます。また、松平直矩の国替えのたびに全国各地の名城が映し出されるので、お城好きは必見です!


<『引っ越し大名!』完成披露舞台挨拶レポート>

映画の完成を記念して7月23日に東京・有楽町で完成披露試写会が実施され、主演の星野源さんをはじめとする豪華キャスト陣と犬童一心監督が浴衣姿で舞台挨拶に登場しました。
 
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左から)飯尾和樹(ずん)、小澤征悦、高畑充希、星野源、高橋一生、及川光博、正名僕蔵、犬童一心監督

舞台の幕が開くとそこに現れたのは、“お城まるごと引っ越し”にあたる国替えにちなみ、物語に登場する、3メートルを超える姫路城の模型をリヤカーのように引っ張るキャスト&監督。意表を突いた演出に会場の歓声は一気にヒートアップ! さらに及川光博さんの定番コールレスポンス「ミッチー!」に小澤征悦さんと正名僕蔵さんが乗っかる軽妙なユーモアで客席を暖めていきます。

6年ぶりの主演映画となった星野さんは、時代劇への初出演を決意したいきさつを尋ねられ「脚本を読んだ時から面白くて、ぜひ出たいと返答しました。春之介は職場の書庫に引きこもる“引きこもり侍”という設定で、本の知識を生かして活躍・成長していくというストーリーが面白く、しかも最後には感動できる。こんな時代劇はなかなかない!と思いました」と当時の心境を告白。於蘭役の高畑充希さんが「あまり時代劇の経験がないので、所作を一生懸命覚えました」と撮影の苦労を振り返る一方、藩主の松平直矩に扮した及川さんは「実在した大名だけどお会いしたことがないので、ザ・エンターテインメント!という感覚で演じました」と余裕しゃくしゃくのミッチー節。

また、勤勉な藩士に扮した小澤さんが「武士は口約束が最も大事だったので、そこを意識して春之介との絆を演じました」と話すと、世間を騒がせているあのニュースを連想した客席から笑いが起こり、小澤さんも「なんだこの空気は?」と思わず苦笑い。するとその空気に乗っかるように、春之介に無理難題を押しつける勘定奉行・佐島役の正名さんが「春之介の表情が恫喝心をくすぐる表情をしていたので、存分にパワハラ上司を演じました」と笑いを誘っていました。

撮影中の印象的なエピソードを尋ねられた星野さんが「淡路島で撮影したクライマックスの殺陣ですね。僕たちは砂浜での演技が大変だったけど、籠の中にずっと入ったままのお殿様は暑さで大変だったようです」と及川さんに振ると、及川さんは「お殿様は豪華な着物を着ていたから」とグチをこぼしながら「でも一生くんがカッコよかったね」と御刀番・鷹村役の高橋一生さんの殺陣を絶賛。長さ3m以上の巨大な槍を振り回した高橋さんは「槍の先端ほど重くて、振り回してピタッと止めた時に砂浜に刺さっちゃって。ケガしないかがドキドキしましたね」と見ごたえ満点なシーンの苦労を振り返りました。

一方、高畑さんが挙げた印象的なエピソードは、春之介を追い返そうとまんじゅうを2個投げつけるシーン。「1個目が右目にヒットしてしまい『あ、やべー』。2個目は顔に当てないよう投げたつもりが今度は左目にヒットし『ああ、終わったな』と思いました」と申し訳なさそうに語ると、顔があんこまみれになったという星野さんも「気を使って優しく当てられるよりはちゃんと当ててほしかったけど、まさか両目に来るとは…」と苦笑い(舞台挨拶に続いて行われた試写会では、このシーンで「ああ、これか」と会場が爆笑に包まれていました)。

犬童監督が「子供の頃に楽しんでいた豪華スター競演の娯楽時代劇を、スクリーンを通じてもう一度見たい。そんな思いで作った映画です」と作品に懸けた情熱を語ると、最後に星野さんが「6年ぶりの主演映画が素晴らしいものに仕上がって嬉しいです。ぜひ最後まで楽しんでください」と締めくくり、舞台挨拶は大盛況のうちに幕を閉じました。

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引っ越し大名

<上映情報>
『引っ越し大名!』 8月30日(金)全国公開
監督:犬童一心 
原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
出演:星野源 高橋一生 高畑充希 小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、及川光博 ほか
配給:松竹
© 2019「引っ越し大名!」製作委員会

公式サイト http://hikkoshi-movie.jp

執筆/城びと編集部(上村真徹)

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