痛快エンタテインメント時代劇!  映画『引っ越し大名!』原作&脚本 土橋章宏さんインタビュー

主演の星野源さんをはじめ超豪華キャストが繰り広げる、痛快エンタテインメント時代劇『引っ越し大名!』。その原作小説「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)を執筆し、映画の脚本も務めた作家の土橋章宏さんにインタビュー。原作者が感じた映画の見どころや制作秘話、さらにはお城好きだという土橋さんお気に入りのお城についてなど伺います。



映画『引っ越し大名!』原作&脚本 土橋章宏さんインタビュー


映画ならではの醍醐味が感じられる「引っ越し唄」がお気に入り

小説「引っ越し大名三千里」の映画化が決まったのはいつ頃ですか?

(土橋)小説が出版された2016年5月から半年後ほどです。嬉しくて「やった!」と思いました。

──映画の脚本も担当していますが、出演キャストのことを念頭に入れて脚本を執筆されしたのですか?

(土橋)まずは私が楽しいと思えるような内容の脚本を書いてから、オファーの段階で俳優に脚本を読んでもらうという流れだったので、執筆中はキャストのことを考えていませんでした。その後、星野源さんをはじめ続々と決定したキャストの名前を聞くうちに「これはすごい映画になるぞ!」とワクワクしましたね。

──出演キャストが決まる前に執筆したとは思えないほど、ハマリ役の方たちが揃っていますよね。

(土橋)キャラクター通りの俳優が揃うよう、プロデューサーがキャスティングを頑張ってくれたからでしょう。特に面白い配役だなと思ったのは、姫路藩主・松平直矩役の及川光博さん。直矩は優しく鷹揚とした殿様で、仕事を部下に全部任せながら「責任は全部俺が取る」という理想の上司。苦難を背負いながらも大変さを感じさせない飄々としたキャラクターが、いつも幸せそうな及川さんとマッチしていますよね(笑)。

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松平直矩役の及川光博さん 

──これまでの時代劇の殿様はもっと重々しい雰囲気を醸し出していましたがすことも多いと思いますが、それと比べて及川さんの殿様は異色ですよね。

(土橋)案外昔の殿様はあんな感じだったのではないでしょうか。直矩のように何度も国替えを命じられるような立場だと、あれぐらい飄々としてなければ乗り切れなかったと思います。

──主人公の片桐春之介は、小説だとけっこう頭の切れる“できる男”という印象だったのに対して、映画では星野さんが頼りないキャラクターとして演じていますね。


星野源
片桐春之介役の星野源さん

(土橋)映画での春之介を“引きこもり侍”という設定にしたので、小説よりもうちょっと弱々しさがあってもいいんじゃないか?と犬童一心監督と相談しました。自己評価の低い弱々しいオタク青年を演じさせたら星野さんは天下一品(笑)。無理難題を押しつけられてうわー!とパニックになるコミュ障キャラの演技が見ていて楽しいですね。

──春之介を支える前任の引っ越し奉行の娘・於蘭を演じた高畑充希さんはいかがでしたか?

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於蘭役の高畑充希さん

(土橋)監督はこの映画で強い女性を描きたいと考えていて、そのイメージにピッタリとハマる存在感の強い女優ですよね。引きこもり侍をサポートする姉さん女房キャラに見事にハマっていて、星野さんといいコンビだと思います。ちなみに監督は「馬に乗る女性を描きたい」ともおっしゃっていました(笑)。西部劇なんかで馬に乗って駆けつけてくる助っ人がいますよね。ああいうキャラクターをあえて女性で描きたかったそうです。実際に劇中で高畑さんが見事に馬を乗りこなしていて、凄いなと感心しました。

──完成した映画をご覧になった時の率直な感想は?

(土橋)すごく楽しい作品に仕上がっていました。犬童監督によって印象的なシーンがとても画になっています。特に櫓の中で繰り広げられるシーンなんかは、これまでに見たことのないような撮り方をしていて、今までの時代劇とは違う印象なので、ぜひ見ていただきたいです。

──犬童監督は完成披露試写会で「子供の頃に楽しんだ娯楽時代劇をスクリーンでもう一度見たいという思いで作った」と語っていましたが、そうした見ごたえを感じることができましたか?

(土橋)はい。監督は「ミュージカルの要素を取り入れたい」と考えていて、劇中で登場人物たちが「引っ越し唄」を歌うシーンを作ったそうです。音楽と映像を一緒に楽しむことは映画の醍醐味であり、とても娯楽性を感じられる見事な演出でした。本来は苦行である引っ越しが和気あいあいと楽しそうに映し出され、さらに全員の団結力も感じられる、映画の中でも特に気に入っているシーンです。

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「引っ越し唄」を歌いながら移動する一行

──脚本化にあたっては映画ならではの見せ方というのを意識したのですましたか?

(土橋)小説がキャラクターや世界観を想像しながら読むものであるのに対して、映画は映像を見て楽しむもの。だから小説を2時間の映画に凝縮するにあたっては、想像力以外のポイント、つまり人間ドラマやサスペンスを駆使して物語を盛り上げることを考えました。

──映画ならではの醍醐味といえば、クライマックスの殺陣も小説にはなかった新たなシーンですよね。

(土橋)ラス立ち(ラストの立ち回り)は時代劇に不可欠ですから。御刀番の鷹村源右衛門が大きな槍を振り回す活劇は、撮影の数日前に「御手杵(おてぎね)の槍という松平家の家宝がある」と聞いた監督が面白そうだから急遽取り入れたそうです。長い槍を振り回す姿は画が映える!とすぐに思いつく監督の嗅覚は凄いですね。鷹村という体育会系キャラを見事に演じた高橋一生さんの見せ場になっています。

高橋一生
鷹村右衛門役の高橋一生さん。振り回す御手杵の槍はなんと3m強

──映画の撮影現場はご覧になったのですか?

(土橋)キャストの皆さんが揃っている日に一度だけ見学しました。引っ越し奉行を命じられた春之介が逃げようとして捕まるシーンを撮影していたのですが、ラグビーのタックルで捕まるようなイメージで脚本を書いたところ、実際にそういうふうに撮影されていて「監督の読解力は凄い!」と感心しましたね。撮影中は監督のこだわりが強くて何かと大変だったそうですが(笑)、現場の雰囲気は明るく、皆さんとても目がイキイキと輝いていましたよ。

──映画では松平直矩の国替えのたびに移転先のお城が映し出されていますが、ちなみに土橋さんはお城は好きですか?

(土橋)はい。高いところが好きなもので(笑)。一番好きなのは松本城。壁面の黒い下見板が締まって見えてカッコいいし、日本アルプスをバックに水堀に囲まれたたたずまいも素晴らしいですよね。長野に行くたびに必ず通っています。他には竹田城もぜひ行ってみたいですね。

松本城
土橋さんが一番好き、と語る松本城(長野県)

笑えて泣けて熱くなる土橋ワールドへのこだわり


──「超高速!参勤交代」の参勤交代や「引っ越し大名三千里」の国替えなど、土橋さんの作品は従来の時代小説と比べてテーマがとてもユニークですが、どのようにアイデアを思いつくのですか?

(土橋)ネットや資料を閲覧して「これは面白そうだな」と思った事柄の中から、キャラクターが苦労する話になりそうなテーマを選んでいます。時代小説の定番テーマは他の作家が書けばいいので、私はちょっと変わったテーマを掘り下げようと追求していますね。

──そうした面白そうなテーマを物語として膨らませるにあたって心がけていることは?

(土橋)例えば「引っ越し大名三千里」だと、引きこもりの人だっていざとなったら凄いんだぞ!というふうに、現代に通じる悩みを解決していく主人公を念頭に置きながら創作しています。そして、無理難題を課せられた人たちがどのように攻略していくか?を痛快に展開し、楽しい物語にしたいと考えています。

高橋一生、高畑充希、星野源
最初は引っ越しに消極的だった春之介も、徐々に周囲の力を借りながら準備を進めていく

──土橋さんの作品は軽妙でポップなタッチが特徴的ですが、そうした楽しい作風にもこだわりがあるのですか?

(土橋)そうですね。小難しい内容の小説よりは、一気に読み進めていけるような分かりやすさを大事にしています。

──楽しさだけでなく、人の絆を描いた感動的なエッセンスも土橋ワールドの魅力ですよね。

(土橋)人間同士の信頼関係というのは大切だと常々思っているので、人と人とのつながり、あるいは人と大地とのつながりを作品に描くことで、その素晴らしさを伝えていきたいですね。

──参勤交代や国替えなど実際にあった事柄、また実在した大名や武士を小説で扱うにあたって、史実と創作のバランスをどのように取っていますか?

(土橋)キャラクターは自分の描きたいように描きつつ、史実に対しては嘘がないようにしたいと思っています。お寿司じゃないけど、史実という天然素材の良さを活かしながら、魅力的なキャラクターをエッセンスとして加えるのが私のスタイルです。

──ちなみに「引っ越し大名三千里」の松平直矩は、どこまで史実に沿ってキャラクターを作り上げたのですか?

(土橋)直矩に関する資料はけっこう現存しているので、それらを読み込んだ上で創造しました。実際の直矩はわりとほんわかしたタイプで、遊び人だけど家臣に恨まれないような人だったらしく、作品で描いたような鷹揚な性格もまさにそんな感じだったと思います。

──今後の作品で描いてみたいテーマはありますか?

(土橋)忍者ものをやってみたいですね。私の作品にはたびたび姫路城が登場するのですが、先日姫路の講演会で研究者から「姫路にも忍び衆がいた」と教えられて、小説にしたら面白そうだなと思いました。1つの城に1つの忍者がいるって楽しいですよね。

──最後に改めて映画『引っ越し大名!』の見どころを、城びと読者に向けてお聞かせください。

(土橋)豪華キャスト陣がそれぞれの特徴を生かした演じどころが満載で、私もいち観客としてとても楽しめた娯楽時代劇です。国替えという当時の引っ越しの苦労はわりと現代にも通じるところがあって、皆さんの引っ越しの参考にもなるのではないでしょうか。舞台となる姫路城もたくさん登場するので、ぜひ楽しみにしてください。


土橋章宏先生
土橋章宏(どばし あきひろ)
1969年生まれ、大阪府出身。
関西大学工学部卒業。09年「スマイリング」で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ受賞。同年「海煙」で第13回伊豆文学賞最優秀賞受賞。11年「緋色のアーティクル」で第3回TBS連ドラ・シナリオ大賞入選。同年「超高速!参勤交代」で、第37回城戸賞を同賞初の審査員オール満点で受賞。またその映画作品で、第38回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。著書に「幕末まらそん侍」、「駄犬道中おかげ参り」、「大名火消し ケンカ十番勝負!」、「いも殿さま」などがある。

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土橋章宏先生から、「引っ越し大名!」原作本「引っ越し大名三千里(ハルキ文庫)」にサインをいただきました!

土橋章宏さんオフショット
インタビュー後、本にサインをする土橋さん。カメラを向けると表紙の星野源さんに合わせたポーズをしてくださり、終始楽しく和やかな取材でした

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引っ越し大名

<上映情報>
『引っ越し大名!』 8月30日(金)全国公開
監督:犬童一心 
原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
出演:星野源 高橋一生 高畑充希 小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、及川光博 ほか
配給:松竹
© 2019「引っ越し大名!」製作委員会

公式サイト http://hikkoshi-movie.jp

執筆/城びと編集部

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