2018/08/28
ローカル線でめぐる城|【JR久大本線】福岡(久留米)~大分5つの城を楽しむ1日トリップ(後編)
そこでしか見られない風景や車両を楽しめる、ローカル線の城旅。電車にコトコト揺られながら、途中の駅で城や歴史ある町並みを散策して、移動の合間に温泉に浸かって・・・思い出に残る旅が楽しめます。JR久大本線で行く九州の旅、後半は天領日田の町並みが残る豆田町から。
「童話の里」の文字が入った鳥居が印象的な豊後森駅
日田駅 「天領日田」の町並みが残る豆田町
草野本家(左手前)を中心に天領時代の町並みが残る
久大本線ローカル線の城旅の舞台は大分県へ。日田と言えば「天領」として知られます。天領とは、江戸時代に定められた幕府直轄地で、特に日田は九州を統括する「西国筋郡代」が置かれていました。江戸時代以来の町割りは、日田駅の北側に広がる豆田町(まめだまち)に残っています。九州の産業、文化の中心地として栄え、碁盤目状の町並みには旧家や資料館が立ち並びます。筑後吉井と同様に、重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
日田を代表する夏の風物詩である「日田祇園祭」に関連する展示は、日田祇園山鉾会館で見学可能。ユネスコ無形文化遺産に登録されています。また、「近世日本最大規模の私塾」として知られる咸宜園跡もぜひ訪ねたい歴史遺産です。
城攻めの合間の腹ごしらえには、日田のご当地グルメ「日田やきそば」を!茹でた麺の表面をパリッと焼き、シャキシャキしたもやしとの組み合わせがたまりません。町の各所で「やきそば」の文字が見られ、お店がたくさんあります。そのほかにも、良質な水を生かした日本酒や焼酎、国の重要無形文化財・小鹿田(おんた)焼の陶器を扱うお店など、気になるところばかりです。
豆田町には、幾何学的紋様を特徴とする小鹿田焼を取り扱う店舗が点在
日田駅 月隈城と日隈城も射程圏内
石垣が残る月隈公園。江戸時代に日田代官の居城となった
「日田は天領として有名だけれど、お城は残ってないの?」と「城びと」の読者の方の声が聞こえてきそうです。豆田の町並みをずっと北に歩くと、花月川に突き当たります。花月川を渡ると視界に高石垣が飛び込んできます。近づいてみると、月隈公園があり立派な石垣と水堀を備えています。元々「月隈城(永山城)」があった場所ですが、残念ながら復旧工事中のために、高石垣のそばまでは近づけません。
高石垣を遠目に見ながら、水をたたえた堀沿いを歩くと、聞こえてくるのは威勢のいい学生さんの声。日田林工高校の建物があります。日田は「九州三大美林」のひとつに称される、山林の美しい林業地。城を追っていると、現地の地理や文化に思いがけず出会えるのが城旅の楽しみですね。
城と言えばもうひとつ、日田駅から豆田町とは逆の南側には、三隈(みくま)川がゆったりと流れています。温泉旅館が並び「隈町(くままち)」と呼ばれます。屋形船が浮かび、浴衣姿の乗船客の姿も見受けられます。隈町から三隈川を挟んで向かいに小高い丘があり、亀山公園として憩いの場になっています。かつては日隈城と呼ばれ、いまもその碑が立っています。
日田駅を中心に北側に天領の町割りが残る豆田町と、月隈城跡(月隈公園)があり、南側には日隈城跡(亀山公園)があります。全て回ってみたい方は、日田駅前の観光案内所からレンタサイクルを利用するのがおすすめです。
三隈川に浮かぶような亀山公園(日隈城)
豊後森駅 角牟礼城(続日本 100 名城)と小さな城下町散策
豊後森駅の迫力ある豊後森機関庫転車台
日田駅に戻り再び鉄道旅。電車に30分ほど揺られ、大きな蒸気機関車が見えてくると豊後森駅。かつての豊後森機関庫や豊後森機関庫転車台の跡が残り、豊後森機関車ミュージアムもあります。
豊後森駅から角牟礼城の麓にあたる豊後森藩資料館までは、約2.5km。バスの本数が少ないので、タクシーまたは歩く方がスケジュールは組み立てやすいです。角牟礼城への起点となる三島公園周辺に、城下町の名残があります。また、「日本のアンデルセン」と呼ばれた童話家・久留島武彦さんの出身地でもあり、童話を模した絵やモニュメントが数多くあります。
角牟礼城は、戦国時代には九州の名門・大友家が治め、島津軍の侵攻に耐えた名城。切り立った岩山でハイキングコースとしてもよく利用されます。城下町散策か、角牟礼城登城か、目的に合わせてスケジュールを組みましょう。
レトロな建物も残る豊後森の城下町
角牟礼城はハイキングコースなので登城準備をぬかりなく
大分駅 南蛮文化香る駅前広場から大分府内城(日本 100 名城)
大分駅前広場に立つ大友宗麟公像
JR久大本線の城旅もいよいよ終着駅へ。終点の大分駅を出ると、ひときわ存在感のある大きな像。府内(大分県大分市)を中心に、かつて九州の3分の2を治めた戦国大名・大友宗麟公の像です。宗麟の右手側には、もうひとつの人物像。近づいて確認してみると、宣教師フランシスコ・ザビエルの像です。長崎から府内を経て船で瀬戸内海を渡ろうとしたザビエル。ザビエルもまた、今回の久大本線の旅と同じように、九州北部を横断してきたのですね。
大分駅を出て約1km、大分県庁の向かいに大分府内城。現在残っている大分府内城は大友宗麟ではなく、福原直高が慶長2年(1597)に築城しました。城下からの出火により、寛保3年(1743)に天守をはじめ多くの建物が焼失しました。以降、天守は再建されず、焼失を免れていた一部の櫓も戦災などによって失われました。宗門櫓と人質櫓が現存、大手門や廊下橋などが戦後に再建されました。
かつては海辺に面し、白土の塀とまるで水上に浮かぶ姿が称えられていた
立ち寄り温泉は日田駅、天ヶ瀬駅、由布院駅もしくは大分駅で
由布院駅前からの由布岳の眺め
城に町並みにたくさん歩くJR久大本線ローカル線の城旅。旅の疲れをどこかで癒したいですね。西(久留米側)から順に代表的な温泉地を挙げると、日田駅、天ヶ瀬駅、由布院駅。日田駅では駅南側の隈町で立ち寄り湯が利用できます。日田駅から大分方面に3駅の天ヶ瀬駅には、徒歩圏内に別府、湯布院とならぶ「豊後三大温泉」のひとつ天ヶ瀬温泉があります。豊後森駅から大分方面に5駅先には由布院駅。日本屈指の温泉地、湯布院温泉がありますので、立ち寄り湯でも宿泊にもおすすめです。
日田温泉組合
お還りなさい天瀬
由布院温泉観光協会
天ヶ瀬駅ほど近くを流れる玖珠川。両側に約20軒の旅館やホテルが並ぶ天ヶ瀬温泉
常連に人気の「あたみ温泉」と、高層ビルの露天風呂から市内を一望できる「CITY SPA てんくう」は、ともに大分駅の駅前にあり、温泉にはあまり時間をかけず、城攻めを優先したいというツワモノにオススメです。
あたみ温泉
CITY SPA てんくう
花月川橋を走る特急「ゆふいんの森」号。博多駅と由布院駅を結ぶ
城あり温泉ありのJR久大本線ローカル線の旅。博多から久留米、日田を経て大分を結ぶ特急「ゆふいんの森」号を利用すれば、片道の移動時間を短縮することもできますし、博多を起点として、2泊3日の「続日本100名城」の旅に応用することもできます。城旅の幅を広げてくれ、満足感いっぱいのJR久大本線を利用してみてはいかがでしょうか?
▼前編はこちら♪
▼九州の続日本100名城の旅をするなら♪
執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
奈良県出身。30代の城愛好家。国内旅行業務取扱管理者。出版社にて旅行雑誌『ノジュール』などを編集。退職し九州の城下町に移住。観光PRやガイドの傍ら、「城と暮らし」をテーマに執筆・撮影。『地域人』(大正大学出版会)など。海外含め訪問城は500以上。知識ゼロで楽しめる城の情報発信を目指す。
※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています