マイお城Life マイ お城 Life | 二宮博志さん[後編]城郭復元マイスターが自ら語る城ラマの見どころ!

連載「マイ お城 Life」第2回目のゲストは、城ラマシリーズを手がける「お城ジオラマ復元堂」の二宮博志さん。高天神城や「お城EXPO 2017」に出展した明石城ジオラマを実際に見ながら、城ラマを楽しむコツをご教授していただいた。



二宮博志、城ラマ
ジオラマを指さしながら見どころを解説してくれる二宮さん。オススメの角度や現地調査のこぼれ話などを熱く語っていただいた(撮影=畠中和久)

細部に光る職人魂

地形・縄張の正確さはもちろんのこと、城ラマには二宮さんのこだわりがあふれるほど盛り込まれている。まずは制作者が語る城ラマの見どころをうかがってみよう。

(二宮さん)
城ラマは上から眺めているだけではもったいないです。高低差も正確に再現していますから、当時の人々が見ていた風景を体感することもできます。下から見上げた時の切岸の険しさや本丸の見通しの良さなどあらゆる角度から見回して、お気に入りの角度をぜひ見つけてほしいですね。

高天神上、城ラマ
徳川の砦があった方角から高天神城の本丸を見る。さまざまな角度からのぞくことでリアルな高低差を体感できるのも、魅力の一つだ(撮影=畠中和久)

建物パーツもリアルさにこだわっています。例えば城柵や塀は、のぞいた時に向こう側が見通せるように細かな穴をあけました。建物パーツは全ての城共通の汎用パーツなのですが、決してこの時代になかったものにならないように時代考証はしっかりしています。

城ラマはすべて1500分の1の縮尺でつくられているため、1.5mが1mmになる。実際に城に行くとわかるが、1.5mの高低差や幅というのはかなり大きい。そのため細部にこだわる二宮さんは、その1mmにこだわって制作している。それどころか、城柵や塀にうがれた穴はわずか0.4mm! こうした点が、城好きだけでなく模型好きの心をくすぐるのだろう。

さて、城ラマ第2弾として販売された高天神城(静岡県)は、徳川と武田が争奪戦を繰り返した堅城だ。このジオラマでは徳川方が攻めた天正8年(1580年)の戦いをモデルにしているという。

(二宮)
高天神城で注目してほしいのは、西の丸側の尾根先に築かれた三本の竪堀です。高天神城の地形モデルを作成している際、約700人の兵を収容するには現在城域として認識されている尾根上の曲輪だけでは収容が不可能であったため、大手門下の大池周辺も城域だったのではと考えるようになりました。藤井先生にこの考えを話したところ、先生も同じ疑問を持っていたんです。これは確かめるしかあるまいと、さっそく先生と高天神城の調査にむかい、なにか城の痕跡はないかと探し続けました。その結果、これまで城域外とされていた場所から竪堀跡が見つかり、大池周辺も城内であった可能性が高まりました。つまり、この堀は僕と藤井先生が発見した堀というわけです。

高天神城、城ラマ、痕跡
二宮さんと藤井先生の探索によって痕跡が見つかった竪堀。疑問に思ったことを放置しないことが新発見に繋がるのだ(撮影=畠中和久)

新たな挑戦となった明石城の復元

「お城EXPO 2017」に出展された明石観光協会のブースには、明石城(兵庫県)の城ラマが初展示された。明石市から、2019年に築城400年を迎える明石城の城ラマをつくってほしいという依頼を受けて制作されたもので、城ラマとしては初挑戦となった近世城郭の復元。ここでも城郭復元マイスターとしてのこだわりが惜しみなく注がれた。

(二宮)
明石城ははじめ現在の城域だけを復元する予定でした。しかし、明石城を調べていく内に、「この城をきちんと理解してもらうには、城下町も表現しないといけない」という使命感に駆られたんです。立地という点では、街道や港との関係がわからないと、明石城の本当の素晴らしさはわからないですから。でも、城下町までジオラマで再現するととてつもなく大きくなる上に、コストもかかってしまう。悩んだ末に思いついたのが、城下町を古地図で表現することでした。城ラマとして新しい表現を発見した瞬間でしたね。

明石城、城ラマ、再現、明石観光協会
明石観光協会のブースで展示された明石城の城ラマ。石垣ひとつまで丁寧に再現されている

明石城、古地図、町割
古地図は武家地や町人街などが種別に色分けされており、城と町割と明石港の関係性がよくわかる

また、明石城では城ラマ初となる石垣の再現に挑戦しています。これもはじめはやらない予定だったのですが、モデリングをしていくうちに「ここまでやったのだから、完璧に仕上げたい」という欲求が沸いてきちゃったんです(笑)。石垣は一つ一つ違う形に入力していったので、とんでもなく時間がかかりましたが、完成品を見た時に「あぁ、やってよかった」と心の底から満足しました。

城ファンの期待がかかる竹田城

社内の新規事業としてスタートした城ラマプロジェクトは、第1弾の長篠城(愛知県)が完成してから5年近く経つ。二宮さんの細部へのこだわりと城への愛着はきちんと城ファン、特に山城好きに届いているようで、「お城EXPO2017」の城ラマブースは常に人だかりができていた。本当はもっともっと作品を発表してもらいたいところだが……。

(二宮)
本業も大事ですが、なるべく多くのエネルギーを城ラマに注ぎたいと思っています。模型作りだけではなく、AR等のデジタルコンテンツ作りを通して地域やファンの為に何ができるかを常に考えています。

AR、城ラマ、アプリ、鑑賞
お城のAR(3DCG)も2013年の城ラマ発売と同時に商品化。城ラマを購入すると、アプリで美しいAR画像を鑑賞することができる

まずはお待たせしてしまっている第3弾の竹田城(兵庫県)を完成させないとね。竹田城はファンが多いお城ですから、今まで以上に復元の正確さが求められます。それにあの膨大な石垣をどこまで正確に再現するか……。時間はかかってしまうと思いますが、必ず皆さんのもとへお届けするので、待っていてください。竹田城の後は——、作りたいお城がたくさんありすぎて決めかねています。復元してほしい城の要望もたくさん来ているので、それも参考にしながら、将来的にはラインナップを20城くらいまで増やしたいね。

それから、明石城のような自治体とコラボした企画を広げたていきたいです。山城ブームといわれる今、自治体には積極的に地元の城跡をアピールしてもらいたい。そのお手伝いをできたらいいなと思っています。僕は「城郭復元マイスター」を名乗っていますので、全国どこでも相談にうかがいますよ!

竹田城、縄張図、等高線
現地調査で使用した竹田城の縄張図。等高線の修正や写真の相番がびっしり書き込まれている。完成が楽しみだ!

(各お城の城ラマはこちら:長篠城高天神城上田城 ※外部サイトへ移動します

▼その他の連載記事はこちら

二宮博志(にのみや・ひろし)
1968年、東京都生まれ。2005年にパートナー産業株式会社代表取締役に就任。「城郭復元プロジェクト」を立ち上げ、2013年に城ラマシリーズ第1弾となる長篠城を発売。城ラマシリーズの他にも、公共施設に設置される城郭復元ジオラマなども手がけている。主な著書に『真田三代 名城と合戦のひみつ』(宝島社)がある。
「お城ジオラマ復元堂」http://joukaku-fukugen.com/

alt
写真=畠中和久

取材・執筆/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・小関裕香子)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。最近の編集制作物に『完全詳解 山城ガイド』(学研プラス)、『エリア別だから流れがつながる世界史』(朝日新聞出版)、『教養として知っておきたい地政学』(ナツメ社)、『ゼロからわかるインド神話』(イースト・プレス)などがある。

関連書籍・商品など