2017/12/25
【イベントレポート】「第24回 全国山城サミット in 佐野」[前編](栃木県佐野市/唐沢山城)
山城サミット当日、唐沢山城は絶好の紅葉狩り日和となった
関東では珍しい石垣の山城である唐沢山城
気持ちの良い秋晴れに恵まれた2017年11月最後の週末、栃木県佐野市で「全国山城サミット」が開催された。2002年、竹田城(兵庫県朝来市)で第1回山城サミットが開催されてから、今回で24回目を数える。「全国山城サミット連絡協議会」に参加する自治体と山城は年々増えており、今回の開催時点で98団体155城が加盟。毎年秋に開催される山城サミットは、城ファンにはすっかりお馴染みのイベントとなった。
開催場所となった佐野市には、「続日本100名城」にも選ばれている唐沢山城がある。当地の国衆だった佐野氏の居城で、関東支配を目論んで侵攻してくる上杉謙信とは、幾度も籠城戦が戦われた。その後秀吉の政権下では先進の築造技術が導入され、東国の城では珍しい石垣の山城へと変貌を遂げる。唐沢山城から南を望むとだだっ広い関東平野を一望することができ、遠く東京スカイツリーや富士山も望むことができるという。
1日目の会場となった佐野市文化会館
会場ロビーには佐野市内の城の幟が立ち並ぶ
山城サミット1日目は、レンガ造りが美しい佐野市文化会館で開催。オープニングコンサートや開会セレモニーに続いて、竹田城と太田金山城(群馬県太田市)の事例発表、宮武正登先生(佐賀大学教授)の基調提言が行われた。竹田城では登城者の増大にともなう対策について、太田金山城では市民やボランティア団体との関わりについて話がされ、宮武先生からは、唐沢山城は織豊期の石垣と東国の山城の融合という歴史的意義があるので、その〝個性〟を活かした整備・活用を進めるべきという提言があった。山城を訪問するだけでは、整備のあり方や観光客の受け入れ方といった点にはなかなか思い至らない。山城サミットならではの内容だといえるだろう。
1500人の会場が2階席までほぼ満員となった
山城は〝悶絶〟してしまうほどおもしろい!
続いて登場した千田嘉博先生(奈良大学教授)の記念講演のタイトルは、「世界の城、日本の城、そして唐沢山城の魅力」。千田先生自身が「これ以上、大上段に構えたタイトルはないでしょう」と冗談めかしたとおりの壮大なテーマで、紀元前の古代エジプト文明やギリシャ文明以降の、人類史における城郭の変遷を追うというもの。何千年も前の城に、すでに横矢や枡形といった日本の城と同じ発想があったことに驚かされる。千田先生からは、そうした人類史上の城の発展の延長上に唐沢山城も位置づけることができ、まさに「世界に誇るべき山城」であると結ばれた。タイトル通りの壮大な講演であった。
唐沢山城本丸北西側の石垣。関東の山城では屈指の高石垣である
その後は、宮武先生、千田先生に落語家の春風亭昇太師匠とアーティストのダイアモンド☆ユカイさんを交えてのパネルディスカッションが開かれた。佐野ブランド大使であり、今回の山城サミットでは「侍大将」を名乗るダイアモンド☆ユカイさんは、歴史への興味から城跡も巡るようになったが、まだ山城の魅力には気づけていないという。そんなユカイさんに、昇太師匠が説得を試みる。
昇太「山城は城全体が残っているので、どんな城だったか想像しやすいんです。技巧的な山城を見ると、思わず悶絶しちゃう(笑)」。ユカイ「その悶絶するポイントを深く聞きたいですね」。昇太「今日も唐沢山城の堀切を見て悶絶しましたよ! 非常に手が込んでいて、執念深く築いている。どんなつらいことがあったんだろうって、当時のことを想像しちゃう」。千田「(謙信に何度も攻められて)よっぽどつらかったんでしょうね。誰も信じられない!みたいな(笑)」。ユカイ「なるほど、堀ひとつにも物語があるんですね〜」。
パネルディスカッションは笑いの絶えない和やかなムードに
話題は、関東平野における佐野の位置づけ、関東ではなぜ土の城が多いのか、山城と信仰の関係など多岐に及び、最後は「山城は地域に誇りを持つ良い材料になる。唐沢山城のことをもっと地元の人に愛してもらいたいし、自慢してもらいたい」という昇太師匠の言葉で締められた。唐沢山城の多様な魅力に光が当てられた1日目だった。
唐沢山城が舞台となった2日目の様子は、続く後編で紹介します。
執筆・写真/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。