2022/12/09
日本100名城・続日本100名城のお城 【日本100名城・中城城編】近世城郭より100年以上前!石垣を備えたグスクの代表格
2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で武士たちが知略謀略武力でぶつかり合っていた鎌倉時代、沖縄では「グスク(城)」を拠点にした争いが繰り広げられていました。近世城郭よりも100年以上早く、土造りから石造りに転換したグスク。数あるグスクの中でも、石垣によって城壁を築くなど高度な築城術が用いられた中城城をご紹介します。
中城城を築いた「按司」とは?
鎌倉時代が全盛期を迎えていた13世紀、沖縄では「按司(あじ)」と呼ばれた豪族たちが争いを繰り返し、その拠点として「グスク(城)」が数多く築かれました。そのグスクのひとつが、今回ご紹介する中城城(沖縄県中頭郡)です。
中城城が現在のすがたになったと考えられる15世紀前半は、鎌倉幕府が滅び、南北朝時代を経て室町幕府に権力が集中する時期に当たります。
標高約160mの石灰岩丘陵上に築かれた中城城
12世紀に現れた按司による争いは、沖縄本島北部の今帰仁城(なきじんじょう。沖縄県国頭郡)を居城とした「北山(ほくざん)」、浦添城(沖縄県浦添市。のちに居城は首里城に移される)を居城とした「中山(ちゅうざん)」、南部の大里城(沖縄県南城市)を居城とした「南山(なんざん)」にまとまっていきます。
これを「三山鼎立(さんざんていりつ)時代」と呼び、中国の皇帝はそれぞれの王に対し、王号を贈っています。その中で力をつけていったのが尚氏であり、1429年には尚巴志が三山を統一して、琉球王国を建国するのです。
「築城の名手」護佐丸が増築
城内に設置された、中城城の縄張りを表した模型
15世紀前半、中城城を大きく改修したのが中山王に仕えた武将・護佐丸(ごさまる)です。
護佐丸はもともと、北山の領域との境界の防衛を任されていました。北山が滅びると、広大な領地と良港から近い座喜味城(ざきみじょう。沖縄県中頭郡)に移ったとされます。その後、護佐丸は勝連半島を拠点とした阿麻和利(あまわり)に備えるために、座喜味城から移って中城城を増築したと考えられています。
護佐丸が築いたとされる座喜味城。北山と中山の境界に位置する
護佐丸の没後、中城城がどのように使われていたのかははっきりとわかっていません。ただし、三山を統一した琉球王国において、中城城は王子の居城として使われていた可能性が高く、重要視されていたことがうかがえます。
城内で屈指の美しさを見せる、二の郭と一の郭を隔てる石垣(手前が二の郭)
中城城は「一の郭」「二の郭」「三の郭」「西の郭」「南の郭」「北の郭」の6つの区画から構成されています。明治維新以降も城内に中城村役場が置かれ、太平洋戦争によって焼失するまで、中城村の行政の中心的役割を担いました。
琉球石灰岩を活かした城壁が連なる
城壁に石垣が用いられているのも中城城の特徴です。沖縄における当初のグスクは土造りでしたが、東アジア諸国との交易などの影響から、本州の近世城郭よりも100年以上早く石造りに転換しました。
中城城の城壁に用いられている石材は、沖縄に広く分布する「琉球石灰岩」です。城内の一部に野面積みが用いられていますが、大部分は切石による技巧的な「布積み」や「相方積み」によって積まれています。
北の郭の城壁に用いられた野面積み
南西向きに建てられた正門は、上部に矢倉を設けて防御性を高めていました。門を挟むように両側に石垣がせり出すようになっており、攻め手を側面から攻撃できる構造になっています。
石垣によって堅固に守られた正門
正門の近くには城壁の一部を取り除いた部分があります。これは第二次世界大戦のとき、日本軍が防空壕を造ろうとして工事を始めたものの、石垣の構造が堅固で作業が難航したため諦めた箇所だとされています。
ペリーを驚かせた高度な築城術
中城城に用いられた優れた築城術は、幕末に日本を訪れたペリーを驚かせたことでも知られます。
アーチ型に石が組まれた裏門(北の郭)
1853年、アメリカ東インド艦隊を率いるペリー提督の一行は、日本本土を目指していました。その途中に琉球を訪れたペリー一行は中城城に寄り、城壁とアーチ門の建築技術の高さに驚いたとされています。ペリーに随行したハイネがアーチ門のスケッチを描くなど、城内の状況を描いた絵や測量図面が残っています。
高度な技術が用いられた三の郭の石垣(左)と裏門(右)
本州の城とは異なる進化をとげた沖縄のグスク。数あるグスクの中でも、まずは築城術に定評がある中城城を堪能した後、周辺のグスクめぐりを楽しんでみてはいかがでしょうか。
住所:沖縄県中頭郡中城村泊1258
電話:098-935-5719
アクセス:東陽バス「中城小学校前」停留所から徒歩約30分
執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
国内・海外で1000超の城を訪ね、「城」をテーマに執筆・ガイド。著書『講談社ポケット百科シリーズ 日本の城200』(講談社、2021年)。『小学館版 学習まんが日本の歴史 6~8巻』(小学館、2022年)、『地図で旅する! 日本の名城』(JTBパブリッシング、2020年)などで執筆。日本お城サロン(まいまい京都主催)を運営する。
※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています。