お城ライブラリー vol.33 上里隆史『新装改訂版 琉球戦国列伝』

お城・戦国時代の解説本や小説はもちろん、マンガから映画まで、さまざまなメディアを幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。第33回は、沖縄の戦国時代といえる「古琉球時代」をイラストとともに徹底解説した『新装改訂版 琉球戦国列伝』をご紹介。沖縄というと、青い海を背景に三線(さんしん)が鳴っているような、のどかな風景を思い浮かべがちですが、かつて群雄たちが割拠していた波乱万丈の時代がありました。

激動の時代を生きた古琉球時代の英雄たちが蘇る

2022年はかつて琉球統一を果たした尚巴志王(しょうはしおう)の生誕650年記念の年だ。さらに、今年は沖縄の本土復帰50周年記念の年でもあり、NHK朝ドラでは沖縄が舞台の「ちむどんどん」が放送中と今、沖縄が熱い。

そんな沖縄にも、波乱万丈の戦国時代があったことをご存知だろうか。日本の戦国時代よりも少し前の12〜13世紀ごろ、沖縄では各地でリーダーである按司(あじ)が勢力を争っていた。14世紀になると、勢力は北山、中山、南山の3つにまとまり、沖縄島を三分した。そこに現れたのが、南山出身の小さな勢力だった思紹・尚巴志親子だ。彼らは3つの勢力を滅ぼし、1429年に天下統一を果たした。この沖縄の戦乱の時代を「古琉球時代」と呼ぶ。多くの人物が争い、陰謀を企み、失脚していった激動の時代だ。

そんなダイナミックな時代を63人のイラストとともに徹底解説した一冊が『琉球戦国列伝』だ。時代を駆け抜けた群雄たちをイラストで再現し、分かりやすく解説している。10年前に刊行された旧作の改訂版ということで、人物イラストをさらにこだわって大幅なリニューアルを遂げたという。

古琉球時代の人物は肖像画などがほとんど残っていない。監修を務める琉球歴史研究家の上里隆史氏は、それぞれの人物の歴史的背景や、明・朝鮮人の文字資料、発掘調査で出土した考古資料や伝承品などをもとに、ビジュアルを作り上げたという。持ち物や服装など細部まで再現されており、マンガやイラストの資料としても役立ちそうだ。

中でも面白いのは彼らの武装だ。イラストの解説を見ると「日本様式の甲冑」を身につけている武将が多く、その中に「中国様式の武器」なども交じっている。というのも当時の沖縄は日本や明(中国)、朝鮮など多くの国と交易を行っており、多種多様な文化が合わさった「チャンプルー文化」が育まれていたためだ。沖縄県内の発掘調査では、鎌倉・室町時代の甲冑が多く発見されているという。このことから古琉球の武装は日本式をベースに中国式を取り入れたものと考えられ、イラストでも再現されたのである。

さて、ここで古琉球時代を代表する人物として「護佐丸(ごさまる)」を紹介しよう。彼は琉球の初代王の思紹(ししょう)から6代王の尚泰久(しょうたいきゅう)まで、長きにわたって王に仕えた忠臣だ。「築城の天才」ともいわれた彼の生涯を見てみよう。

護佐丸は1390年頃、山田グスク按司の三男として生まれたといわれている。20代の時、思紹・尚巴志親子に仕えると、若くして座喜味(ざきみ)グスクの築城を任され、城主となった。

座喜味グスクは大きくはないが、最先端の軍事技術を取り入れた城だ。城の中には、一見奥に繋がってみえる通路があり、そこ進むと行き止まりになる。これは、「武者隠し」といわれる構造で、敵を中へ誘導して攻撃を加えるためのもの。多くのグスクの中で、もっとも優れた防御性を持つと評価されている。

さらに、護佐丸は尚巴志の北山攻略の戦に参加。今帰仁(なきじん)グスクは、標高約100メートルに位置する北山の拠点だが、護佐丸ら尚巴志軍は激戦の末に落城させた。この戦で活躍した護佐丸は高く評価され、王の絶大な信頼を得たのだった。しかしその後、彼は権力争いに巻き込まれ波乱の運命を辿る…。続きは本書で詳しく解説しているので、ぜひチェックしてみて欲しい。

護佐丸が生涯で関わった「座喜味グスク」「今帰仁グスク」「中城(なかぐすく)グスク」はいずれも世界遺産に登録されているからスゴイ。それぞれの石垣は現在も良好に残っている。本書では護佐丸の他にも、さまざまな人物を濃厚に解説している。イラストとともに史跡の写真も掲載しているので、沖縄を訪れたら本書を片手に、史跡めぐりをするのも良い。

本土にいる日本人は沖縄に対して太平洋戦争や本土復帰、または米軍基地の問題など近現代史だけの目線で語りがちだ。もちろんそれも大切だが、古琉球時代に注目することで理解が一層深まるだろう。

新装改訂版 琉球戦国列伝
[著者]上里隆史
[イラスト]和々
[書名]『新装改訂版 琉球戦国列伝』
[版元]ボーダーインク
[刊行]2022年3月









執筆:かみゆ歴史編集部(深草あかね)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。全国各地に存在する模擬天守・天守風建物を紹介する『あやしい天守閣べスト100城+α』(イカロス出版)が好評発売中。『キーパーソンと時代の流れで一気にわかる鎌倉・室町時代』(朝日新聞出版)は重版決定!

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